誰そ彼
黄昏
誰そ彼
その時間になると電話がくる。
彼との電話が始まったのは些細な事がきっかけである。
私は、内気だ。
高2まで、友達がいなかった。
だから私は携帯電話を持つ事が無かった。
それでも構わない、そう思ってる。
いや、思っていたの。
小学生の時に人形のような人間だと虐められていた私は、家族としか口を聞くことは無かった。
クラスでは置物のような存在。
自分では空気のように虚無でいると思っていたのだけれど
みんなから恐れられていたらしい。
しかし、高2になった時
「ねぇ?一緒にご飯食べていいかな?」
リコとの初会話だった。
会話というより私は単に頷いただけだったけれど。
「カレンちゃんってすごく可愛いいのに、、、」
リコはいつも言ってくれる。
嬉しい。
リコはみんなの人気者で、クラスの中心。
美少女である。
なのに全く気取らなくてみんなに優しい。
少しずつ、本当に少しずつだけれどリコと話をすることが出来るようになった。
「えっ?カレンちゃん、携帯持ってないの?」
「う、うん、、、だって友達居なかったし、、、」
「ご、ごめんなさい。」
「リコは悪くないよ!寧ろ私はリコに感謝してる。ありがとう!」
私がどんな顔をしていたのかわからないけれど、、、リコは私を抱き締めた。
「辛かったのね、、、?」
「うん」
それから私達は前より仲良くなり、携帯を私は持つことにした。
「やっと友達が出来たのね?勿論買うわよ。さぁ行きましょう」
両親共々、私が携帯を持ちたいということが嬉しかったらしく、買ってくれた。
買って私はリコとメールした。
メールだと簡単に会話出来る。
リコは翌日私に
「カレンちゃんってすごく面白いね!」
と言ってくれた。すごく嬉しかった。
だけれど、リコはクラスの人気者、私は邪魔者。
女子から陰口を言われるようになった。
避けていたあの日が戻った。
ある日とある女子から
「リコちゃんね、あんたの悪口言ってたわよ。」
と言われた。
う、嘘よ
嘘よ、、、
いや、悪いのは私だから。
リコは責められないわ。
「それなら私が悪いの、、、リコはとてもいい人だもの。原因は私にあるわ。」
「何よ!面白くない!」
そんなことを言って去っていった。
でも悲しい、、、
泣きそうだ、、、
その日の夕方、電話がきた。
誰だろう?
「もしもし?アツシか?明日、試合、頑張って来いよ!」
「えっ!?」
プーップーップーップーッ
誰?
ど、どうしよう、、、、、
いけないよね、、、やっぱり、、、
私は電話を掛け直した。
「もしもし?どうしたアツシ?」
「わ、私、あ、アツシという方ではごじゃいましぇん!」
ドッと顔が熱くなった。
なんでこんな噛み方を、、、
「あはは、、、ごめんなさい、掛け間違いしちゃったようですね。本当にすいません。」
「いいんです、、、」
なんかどーでも良くなった。
羞恥心のへったくれもないわ。
「名前聞いても良いですか?」
「えっ?」
「いや、ちょっとあなたを知りたくなったので、、、」
「カ、カレンです。」
なんで名字を言わないのよ!
自分が恥ずかしい、、、
「カレンさん、、、なんていい名前だ!」
嬉しかった。
「あ、あなたは?」
「俺はタクヤです。」
その後いろんな会話をした。
同い年だと言うこと、近い所に住んでいるということ。
沢山の話をした。
一週間毎日話をした。
誰そ彼の時、毎日電話がくるのを待った。
その間、私は学校で孤立していた。
リコは私が真相を聞く前に早退して、今、インフルエンザで休んでいる。
毎日、女子から悪口を言われた。
それでも毎日学校に行けたのは、タクヤ君との電話していたから。
「明日休み?」
「そうだよ。」
「会わない?」
「えっ!?」
恥ずかしい
「無理なら良いけど、、、」
「会いたい!」
今まで隠してた感情を、、、
持っていなかった感情を、、、
私は、、、今、、、
翌日、午後5時にとある場所に待ち合わせをした。
私は晴れた気分で待ち合わせ場所に一時間前にきた。
心が浮かれるとはこの事なんだ、、、
早く一時間経たないかな、、、
こんなに長い一時間は初めてだ。
約束の5時はもう過ぎた。
15分待ったけれどやっぱり来なかった、、、
やっぱり、、、
帰ろうかな
そう思ったとき携帯が鳴った。
「もしもし?カレンさん?今何処かな?俺は今時計の下だよ。」
「えっ?私も時計の下にいるよ?」
「えっ!?えっ!?今ここに見えないよ」
「私達、、、同じ場所にいるのよね?」
彼の動揺の仕方は嘘をついてるとは思えない。
なんで、、、
「カレンさん、ヤマザト書店見える?」
「えっ?ヤマザト書店は二年前に潰れたよ?」
そう二年前に潰れた。
私はよくここで小説を買っていたからかなしかった。
「ごめんなさい、カレンさん。今何年?」
「2011年よ?」
「こっちは2006年だよ。」
何を言っているのだろう?
5年前?
「僕らにこんな事が起こってるとは、、、」
彼は淡々と言うけれど。
私には理解出来なかった。
「僕らは、、、いや今の僕は君には会えない。」
「どういうこと?」
「いいんだ。でも待っていて僕は必ずそこにいくから!」
プーッ。
えっ!?何?
「あの。」
ビクッ!
急に後ろから声を掛けられた。
「は、はい?」
「話終わった?」
「えっ!?はい。」
聞き覚えがある声。ちょっと低くなってるけど、、、
「初めてまして、カレンさん。5年間この時を待っていたよ。」
振り向くと、顔立ちの整った男性がいた。
「タクヤくん、、、?」
「そうだよ。」
頭がついてこないよ。
同い年と聞いていたのに、、、明らかに年上、、、
5年間、、、?
そっか、私、、、
「騙されてたんだ」
「違うよ。僕は、高2の時、カレンさんとずっと電話していたよ。」
「ごめんなさい理解出来ない。」
その後詳しく理由を聞いてやっと理解出来た。
出来たけれど、、、
「もう一度昔のタクヤくんに電話してみ、、、」
「無駄だよ、、、あの日から電話は一度もなかったし、俺、番号変わってないから、今の俺にかかると、、、」
「やってみる!」
やっぱりタクヤくん(大人バージョン)が言った通りだった。
「色々話したいことがあるんだ。」
そう言われたので、不器用に私は話した。
やっぱりタクヤくんだった。
紛れもない、一週間私を元気付けてくれた人だった。
「人形みたいに整った顔だね」
タクヤくんに言われた。
凄く嬉しかった。
そして、初めての出逢いは終わった。
また会う約束をした。
会いたかった。
そして休みが開けた。
「おはよう!カレンちゃん!久しぶり。」
「リコ、、、」
「どうしたの?元気ないね。」
「何でリコは私なんかを相手にしてくれるの?」
「えっ!?うーん。朝からこの話はしたくないから放課後に話すよ」
リアクションに困ったけれど待つことにした。
「やぁ!カレンちゃん。」
「ずっと一緒にいたけどね」
「やーね、ジョークよ」
「ご、ごめん」
「なんで謝るのよ」
「ご、ごめん」
「じゃあのいつもの喫茶店に行こうよ」
「うん。」
いつもの喫茶店、、、
私の大好きな場所。
「あのね、私も昔、、、」
私達は同じような体験をしていた。
「だから、私、貴女を見たとき、私なら友達になれる。私達なら親友になれるって思った。」
涙が、、、溢れてくる
「ありがとう。」
人は痛みを、傷みを知れば人に優しくなれる。
逆を言えば人は痛み、傷みを知らなければ人に優しくなれないってこと。
彼女は優しい。
優しくなれた。
私も、いつかみんなに、、、
「泣かないで、笑って、カレンちゃんの笑顔は素敵なんだから」
「ありがとう。」
泣き止むまで10分ほど掛かった。
「というか聞いてよ!私のお兄ちゃんね、、、」
「お兄ちゃんいたの!?」
「うんいるよ。」
あっさり過ぎだよ、、、
「んで、お兄ちゃんがね、土曜日に、女の子とあったらしいんだけどそれが私達と同い年だって~ロリコンみたいじゃない?」
「お兄ちゃん何歳?」
「私達の5歳上だよ。」
「ギリギリロリコンじゃないんじゃないかな?でも妹萌えだねきっと。」
「えっ!?えぇ」
顔真っ赤で愛らしい。
「こんな可愛いい妹さんがいるんだもん。当然だよ。」
うん。当然よ。
「や、やめてよ!ってかその人ね5年前にお兄ちゃんがいじめられてた時に電話一週間くらい電話してたんだって~!んでね、その日くらいから明るくなった気がするんだよねお兄ちゃん。」
えっ!?えっ!?
「お、お、お兄ちゃんの名前ってタクヤ?」
「そうだけど、、、なんで知ってるの、、、ってもしかして、、、!?」
一から話した。
「信じられないケド、、、」
当たり前だけど。
「でもね、なんだか信じられる気がするよ。」
「えっ?」
「だってカレンちゃんすごい笑顔だもん。」
「わ、私も、、、」
「何?」
「いや、いいの、、、リコ、、、?」
「ん?」
「ありがとう。」
きっとその時の笑顔は私の人生で一番の笑顔だった。