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忘れられた物語 †The forgotten story†   作者: 草餅
2章―――動き出す心
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2章【Ⅺ】 捜し物

「あと少しか。こうもあっさり行くとは思ってな……っ!?」


シャイナをさらった男に、鋭く光るナイフが風を切って襲いかかる。左頬の辺りのローブは裂け、後寸分位置がずれていたら顔に大きな切り傷が出来た軌道。それは前方のある人間の手から投げられたものだと、すぐに確信する。


「悪いが、捜し物をしていてな。ちょっとばかし協力していただきたいんだが」


 ヴェンが建物の角から姿を現すと同時にそう、役人のようにゆったりとした口調で告げる。右手はしっかりと、腰のダガーの下に当てられている。


「そういう事ならば、喜んでご協力しよう。因みに、捜し物とは?」

「見習い魔法使いの少女。調度一人分」

「おお奇遇だ。私もつい先程までそれを捜していてね。今は見つかって、実にほっとしといるよ」

「そうか。なら、そちらの見つけたのは間違ってるな。今貴様の汚れた手で持ってんのは……」


中途半端に途中まで告げると、ヴェンはダガーを引き抜き接近を試みる。男は機敏にバックステップをし、間合いを取る。ロッドは勿論、ヴェンに向けて構えられている。


「悪いがな、それは俺のもんだ。ご返却願おう」


 睨みつける目線と、凄味のある低い声。ローブの男はそれに対し、返答の代わりに向き出た敵意をぶつける。


「そりゃー無理な相談だな。悪いが、さっさと消えてくれないか?」

「だったら消してみろよ。それくらい、魔法使いなら簡単だろ?」


 ヴェンは挑発的な態度で笑いながら、男を罵る。その挑発に乗ったのか、それとも言うまでもないだけか。男のロッドの黒い零石が、重い色の光を放ち始める。


「話し合いで解決は無理と見た。いいだろう。食らえ、ドゥンケル!」


 瞬間、男のロッドがより一層強く輝いたかと思うと、ローブ男はそれを振りかざす。次の瞬間には、ヴェンに向けて一つの黒弾が放たれていた。右にサイドステップしそれをなんとか避ける。そしてヴェンが立っていたはずの場所は、土に穴が空き、黒ずんでいた。だが、掘られたはずの土はどこにもない。存在自体が無くなったかのように穴が空いていた。


「ったく危ない真似してくれんな。当ったらヤバいじゃねぇか」

「避けたか。雑魚はこれで片付くんだが。だが、何発まで持つかな?」


 二発目、三発目と、黒弾が次々に放たれる。ヴェンはそれを右、左と、一手1手を慎重に見切り避けてゆく。そして五発目をバックステップで避けた時、一瞬ローブ男の動きが止まる。その瞬間を見逃さなかった。 


「悪いが、雑魚やってたのは昔の話でね。今はどっちかって言うと使えるほうになってるんでね!」


 ヴェンは先ほどの問いに、遅れて返す形でそう言うと、一気に飛ぶようにローブ男の目の前に踊り出だ。ナイフのある右手を横から振りかぶり、斬りかかる。だがロッドに防がれ、攻撃は阻まれる。

 

「防ぐか。だが、接近した時点で俺の勝ちだな」

「ふっ……まだ分からないぞ?」


 ただでさえ接近戦に弱い魔法使いが、動きの素早いダガーを相手にし、その上片手には人間一人を抱えている。勝敗は歴然。一刺しをダガーで打ち込めば、決着はつく。

 ダガーの連撃。なんとか防ぎきるも、ヴェンの四撃目にローブ男は大きく体制を崩される。


「とどめだ!」


 ダガーを振るう。直撃のラインの軌道。この攻撃が男の腹に刺さり、倒れればシャイナを取り返せる。簡単な事だ。だが、ヴェンは自身の手がそれを行う直前で、その振りを静止させる。いや、させるというよりは、無意識だったのかもしれない。


「や……めて。もう、誰も……死な…で」

「シャイナ……?」


 ローブ男が左に抱えているシャイナが、消え入るような声を絞るように言う。だが、ヴェンにはその少女の言葉が叫んでるように、はっきりと耳に聞こえた。


「ほぅ、成程な……ウィンド!」

「うおっ!?」


 ヴェンの動きが止まった所に、ローブ男が風の魔法を放つ。突風が吹き、ヴェンはそれを全身に受け、引きずられるように後ろに押し戻される。すぐに体制を取り戻し、もう一度最接近を試みようとすると、何故かローブ男はシャイナを地面に下ろしており、戦意を失っていた。


「しょうがねぇが、今回は引き下がってやるぜ。とりあえずは預けておいてやる」

「そりゃーありがたい話だが。さっきまでの威勢はどこいった?」

「まぁ気分って奴だ。ただ、いずれ取り返しに来るからな」


 そう告げると、男はローブを翻しながらヴェンに背を向け、その場から身を引く。ヴェンはその背中に向けて、最後に一言だけ告げる。


「シャイナは俺のもんだ。お前なんぞには渡さねぇ」

「……ふん」

 

 男は一瞬ヴェン振り向いて、ローブの中で口元を歪めて笑うと、闇夜に包まれた街に消えていった。


「さてさて……。シャイナ、大丈夫か?」


 地面に横たわるシャイナの上半身だけ起こして、顔を覗き込むようにして話し掛ける。顔は疲れていて、心が沈んでいた。


「もう……放っておいてよ」

「それは無理な相談だ。俺は、お前がどうしようが、絶対に連れてく」


強い眼差しを向け、右手を差し出して言った。シャイナはそれを聞き、少し笑らう。


「……分かったよ。何言っても、ヴェンはそう言うんでしょ?」

「多分な。ホラ、立てよ。時間が無い」


ヴェンの差し出した右手を掴んで、シャイナは立ちあがる。ヴェンは少しだけシャイナを見て笑うと、その手を引いて、月明かりに照らされた街を走り始めた。

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