プロローグ
―――人は誰もが『心』を持って生まれてくる
―――時が経につれ 外への探究と信じる心が芽生える
―――やがて勇気を振り絞り 旅路の一歩を踏み出す
―――そして旅の中で愛する物を見つける
―――その物を守るために人は力を付ける
―――しかしそれを失った時怒りと悲しみが生まれる
―――それが静まった先に 希望が生まれる
―――人はこの心の先に何を見るのか……
♦†♦†♦†♦†♦
「ねえおじさん。何してるの?」
温かい陽光の照らす切り株の上に座っている詩人に、少年は無邪気な声で話しかける。思い出すようにして唄を詠っている詩人はそれに良い反応は示せず、顔にしわを寄せながら、あぁ? と、喧嘩越しに返事をする。だが、少年は恐怖を知らないのか、それともただの世間知らずなのか。質問を立て続けに繰り出してくる。詩人は何度も追い払おうとするが、結局その可愛さ故に相手にしてしまう。
「だから、何やってんの?」
「待て待て小僧。まず、俺はおじさんじゃない。お兄さんと呼べ」
「分かったよ、おじさん」
少年は全く男の要求を飲んでいなかった。純粋なのか、それとも物分かりが悪いだけか。
その少年曰く、“おじさん”の詩人は、呼び名を変えさせる事を諦めて話を進めた。一人で詠っていてもしょうがないので、こんな生意気な子供でも少しは相手にはなると思い初めて来たからだ。孤独な吟遊詩人の性である。
「俺は物語を詠ってたんだよ。どうだ、聞きたいだろ?」
「面白いの~?」
少年は好奇心旺盛な声でそう聞いてくる。謡う側としては、面白いの? とか、楽しい? と聞かれれば、面白い! と喜んで回答するのが普通なのだろうが、男は曖昧は返事を子供に返す。
「かも、な。まあ、とりあえず聞いてみろ」
「まあいいや。暇だし、聞いてあげる」
生意気な口調でそう言って、少年は近くの木に腰を下ろした。その上から目線な態度に、一瞬殴り飛ばそうかと男は思ったが、拳を背中の後ろで押さえる。
見れば、子供は何だかんだで聞く気満々である。結局は素直でないだけなのである。
詩人はしょうがないと思いつつも、竪琴で美しい音色で奏で始め、物語の冒頭を先ほどの声からは想像も出来ない美声で語り始めた。
遠い昔……と言っても、あくまでこれはお決まりの冒頭だから、気にするな―――
違う世界の出来事かもしれんが、まあ、そんな事はどうでもいい―――
いつかは誰もが知っていた、子供からじいさんまでな―――
でも忘れられた、理由は分からない―――
さて―――
じゃあ、始めるか―――
これは心の物語―――
人の、心が世界を動かす物語―――