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忘れられた物語 †The forgotten story†   作者: 草餅
2章―――動き出す心
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2章【Ⅰ】 遭難

「ん……?」


リックは風の冷たさを頬に感じ、朦朧と目を覚ます。唇には塩辛い感覚、目はヒリヒリと痛み、瞼を開けれない。右手にはサラサラとした細かい物が。左手は何か、心地よい柔らかさの物が。

 自分が何処にいるのかは、すぐに判断出来た。砂浜だ。水が塩の味がするのと、何より耳から微かに波のざわめきが聞こえていた。


 リックは寝たままの体制で、この状況に何故至ったか、記憶を蘇らす。


「そっか。俺、海に飛びん込んで……。馬鹿な事やっちまったな」


 自分を自虐するようにそう言って、苦笑いする。そして考える。自分が何で飛び込んだかを。理由は、それこそ目の前にあった。

 リックはしっかりと、左手でアイラを抱きかかえていた。


「ってアイラ! 大丈夫か? おい、返事しろって!」


 左手でアイラの体を起こし、空いている右手で肩を強く揺さぶる。そのせいで、アイラは不快な目覚めを強要される。しかも、目の前にはリックの顔。とても気持ちのいい物ではない。

 

「うぅ……。って、何をやって!」

「ああ、生きてるか。本気で死んだかと思ったぞ……」

「そう簡単に死……んでたかもね」


 アイラも記憶がはっきりしてきたのか、自分が置かれていた状況を把握する。そしてリックを指差して、驚き叫びながら言う。


「もしかして、アンタ海に飛び込んだわけ!?」

「ああ、そうだよ! 反射的に飛びこんじまったんだよ! 悪いか!」

「悪いに決まってるじゃないの! 普通死ぬわよ! 馬鹿じゃないの?」

「何が馬鹿だ! 見捨てるような真似、出来るわけないだろうが!」


 いつものふざけた口論、リックはそのつもりだった。

 だがアイラの声は、次第に素から出たものになっていた。そしてそれは、いつのまにか心の叫びに変わっていた。

 怒りか、悲しみか、それとも両方か。そもそも、そのどちらの感情でも無いのか。リックには、その時は分からなかった。

 

「見捨てればいいでしょうが!」


 アイラが強い剣幕で、最後に怒鳴る。いつものふざけての大声ではなく、素の叫びなのはすぐに分かった。リックはそれに押されて、口を閉じる。

 怒鳴って下を向いたアイラの顔からは、少し涙が出ていた。

 

「何で庇うのよ……。何で、何でよ……。私が弱いから? ねぇ!」

「ど、どうしたんだよ突然……」


 いつになく、弱々しいアイラに、リックはどう対応すればいいか分からなくなる。今のアイラは、簡単に砕けそうな、ガラス細工のようだった。繊細で、弱々しい。普段の強気な態度からは想像出来ない、別の姿だった。


「放っておけばいいじゃない。私みたいな奴。私が居なかろうと、アンタには関係ないでしょうが……。どうして、どうし……て」


 最後には鳴き声になって、アイラは嘆いた。その途中で、力尽きたのか、心が折れてしまったのか。アイラの体は、砂浜に重々しく倒れた。


「おい、アイラ。大丈夫……!? 凄い熱だ!」

「ハァ、ハァ。……さん。何で、何でよ……」


 リックが倒れたアイラの体を抱えると、荒い呼吸をしながら、うなされていた。体は、近くにいれば熱気すら感じられるほど、火照っていた。さっきまでよく立っていられたなと、リックは思う。


「おい、シャイナ! って、居るわけないよな……。慣れないけど、使ってみるか」


 リックは、反射的に魔法使いの弟子の名を呼ぶが、ここは二人以外いない海岸。自分で何とかするしかなかった。覚悟を決め、リックはアイラに手をかざして、目をつぶる。頭の中で、小さな師匠の言葉を思い出して集中する。


『魔法を使うときは、それを使いたい! っていう強い心が大事!』


 ―――アイラ……頼むから治ってくれよ!


「アキレア!」


 リックが呪文を唱えると、弱い光がかざした手のひらで輝く。リックの魔法は成功。うなされていたアイラは静かになり、寝息を立てて静かに規則的な呼吸を始めた。だが、成功と言っても強い物ではなく、霊石も無し。気持ちが楽になる程度の効果だけだった。

 それでも、応急措置にしては、十分な結果であった。


「ふぅ、なんとか収まったか……。なんか俺も疲れた……ってヤバいヤバい。これで俺まで寝ちまったらどうしょもないよな。しゃあない、とりあえず焚き火でも焚くか」


 慣れない魔法で、体力を消耗した体に鞭打って、リックは寝床を作り始めた。

 アイラは微かに残る意識の中で、リックを見て、こう言った。


「……ありがと」


 アイラのその言葉に、リックは全く気づかなかった。

この小説を書き始めてから約三カ月……。やっと二章に入る事が出来ました!

 これも、この小説を読んでいただいている皆様のおかげです。


 これからも小説を読んでいただける事を、心から願っております。感想、いつでもお待ちしております!

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