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「うふふ」が口癖の聖女、実は全てを見越している

掲載日:2026/09/21

「うふふ」


 その聖女は、今日も微笑んでいた。


「おい、気が散る。その気持ち悪い笑い方はやめろ」

「やめろと言われても……これは私の癖なので、どんな回復魔法を使っても治りません」



 彼女たちは王に選ばれた勇者パーティー。


 メンバーには、国内でも数少ない剣と魔法どちらも使える勇者と、国一番の腕力を誇る戦士、山一つを崩壊させられるほどの魔法使い、そしてこの国唯一の聖女の4人だ。


「ったくなぁ……」

「うふふ、すみません、勇者様」


 4人は魔王城へ行くために、魔の森を歩いていた。


「勇者様、ここは危険な魔物がたくさんいます。気をつけてください」


 魔法使いは勇者に注意する。


「俺にかかれば突破できる! 任せとけ!」

「うふふ、ですが勇者様、この森の魔物は今まで戦った魔物と比になりません」

「うるせぇ!」

「ですが、今の実力では99%の確率でパーティーメンバー全員殺されますよ?」

「この俺に口答えするのか!?」

「申し訳ございません」


 勇者は聖女の忠告に耳を傾ける気もない。



「うふふ、勇者様、こちらのルートが魔物が少ないです」

「そっちだと遠回りだろ!? お前は何かあるごとに口を挟まないと気がすまないのか!?」

「うふふ、申し訳ございません。ですが、死亡確率は少し減りますよ」

「そんなのどうでもいい! 命をかけて国民を守るのが勇者パーティーなんだろ!」

「……そうですか」


 聖女は微笑むのをやめ、冷たい目で勇者を見る。



「ガルルルル!」

「漆黒の魔狼王《ブラックウルフ・キング》だ!」

「勇者様、ここは私にお任せを――……」

「危ないっ!」


 いつの間にか魔法使いの背後にいた漆黒の魔狼王《ブラックウルフ・キング》は勇者たちを襲おうとしたが、戦士の剣に阻まれる。


「うふふ」


 聖女は再び感情の消えた笑みを浮かべた。


「勇者様、ここは撤退しましょう。このままでは負けます」

「何言ってんだ! 勝てるに決まってるだろ!」

「……何が起きても知りませんよ」


 聖女はそそくさと漆黒の魔狼王《ブラックウルフ・キング》の攻撃範囲から離れる。



「うふふ……そろそろ、呼ぶ頃かしら」


 聖女は勇者たちの具合を見る。


「……まだ大丈夫そうね」

「キャ――――!」


 魔法使いが重傷を負った。


「聖女! 早く回復しなさい!」

「うふふ、わかりました。回復魔法(ヒール)」


 魔法使いの傷は、聖女の魔法によって塞がれていく。


「おい、俺も頼む!」

「うふふ、はい。回復魔法(ヒール)」


 勇者は擦り傷だけだったが、文句は言わずに回復させる。


 ――だが、その直後だった。


 漆黒の魔狼王《ブラックウルフ・キング》の容赦ない一撃が、目にも留まらぬ速さで全員をなぎ払う。



「ぐあっ……」

「戦士様もですね」


 漆黒の魔狼王《ブラックウルフ・キング》の攻撃をまともに受けてしまった戦士は、瀕死のようだ。


「特大回復魔法(ハイ・ヒール)!」


 魔力をごっそり削られてしまったのか、聖女の息は荒くなる。


「ぐっ……」

「キャッ!」


 勇者パーティーのメンバーは次々と傷を負う。漆黒の魔狼王《ブラックウルフ・キング》にはまだ傷一つすらつけられていない。



「うふふ、そろそろ頃合いかしら……。来ていいわよ!」


 そう聖女が言うと、茂みの中から3人の男女が現れた。


 新手を警戒する間もなく、3人は見事な連携で魔狼王を圧倒していく。最後に剣士と思われる人物が鋭く斬りかかると、あれほど苦戦した魔狼王は、あっという間に霧となり消えていった。



「なんだ……こいつら……」

「うふふ、元(・)勇者様、ご紹介いたしましょう。こちらの方々は、私が事前にこうなると見越して作り上げた新・勇者パーティーの皆さんです」

「なっ……勇者パーティーは1組しか作れないはずだぞ! それに王様の許可も……」

「先ほど私は貴方のことを『元勇者様』とお呼びいたしましたよ?」

「まさか……」


 聖女はゆっくりと目を細め、口角を上げ、微笑む。


「うふふ、そのまさかですわ。王様への根回しはとうに済んでおりますし、勇者パーティーは今も変わらず1組だけですよ。――私たちがね」

「そんな……」


 魔法使いが青ざめる。


「私は今まで、何もかもを見越して皆様をサポートしてきました。貴方たちとパーティーを組んだ時から、いや、それよりずっと前から――こうなることを、すべて計算していたのです」

「そう言えば、あの時も……この時も……」


 戦士は、今まで聖女に助けられてきた奇跡のような瞬間が、すべて彼女の手のひらの上だったのだと思い返す。


「うふふ、彼らは魔王をも倒すことのできる本物の逸材です。私に出会う前までは不遇を託っていましたが、私の指導によりここまで強くなりましたの。それでは――」


 聖女は新勇者パーティーの面々に囲まれながら、最後に振り返った。


「うふふ、さようなら、皆さん。これまでお荷物になってくださり、本当にありがとうございました!」


 聖女は清々しい顔で去っていく。


 満身創痍の元勇者たちは、その姿を啞然と見送ることしかできなかった。



◇◇◇◇◇


 あの後、元勇者たちは命からがら魔の森を脱出した。


 すでにただの冒険者に格下げされたというのに、彼らはプライドが捨てきれず、その後も「勇者」を名乗って依頼を受け続けていた。


 しかし、聖女のサポートを失った彼らの実力は落ちていく一方だった。


 そして数カ月後、身の丈に合わない強力な魔物の討伐に挑み、手痛い敗北を喫することになる。


 命は助かったものの、もう二度と戦うことはできないほどの重傷を負わされ、彼らは完全に表舞台から姿を消した。



 その一方で、聖女率いる本物の勇者パーティーは瞬く間に魔王を倒し、世界中から崇められる英雄となった。



「うふふ、ざまあみろ、ですわ」


 聖女は贅沢な邸宅の窓を開け、英雄たちの歓声を聞きながら、そう呟いた。



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