「うふふ」が口癖の聖女、実は全てを見越している
「うふふ」
その聖女は、今日も微笑んでいた。
「おい、気が散る。その気持ち悪い笑い方はやめろ」
「やめろと言われても……これは私の癖なので、どんな回復魔法を使っても治りません」
彼女たちは王に選ばれた勇者パーティー。
メンバーには、国内でも数少ない剣と魔法どちらも使える勇者と、国一番の腕力を誇る戦士、山一つを崩壊させられるほどの魔法使い、そしてこの国唯一の聖女の4人だ。
「ったくなぁ……」
「うふふ、すみません、勇者様」
4人は魔王城へ行くために、魔の森を歩いていた。
「勇者様、ここは危険な魔物がたくさんいます。気をつけてください」
魔法使いは勇者に注意する。
「俺にかかれば突破できる! 任せとけ!」
「うふふ、ですが勇者様、この森の魔物は今まで戦った魔物と比になりません」
「うるせぇ!」
「ですが、今の実力では99%の確率でパーティーメンバー全員殺されますよ?」
「この俺に口答えするのか!?」
「申し訳ございません」
勇者は聖女の忠告に耳を傾ける気もない。
「うふふ、勇者様、こちらのルートが魔物が少ないです」
「そっちだと遠回りだろ!? お前は何かあるごとに口を挟まないと気がすまないのか!?」
「うふふ、申し訳ございません。ですが、死亡確率は少し減りますよ」
「そんなのどうでもいい! 命をかけて国民を守るのが勇者パーティーなんだろ!」
「……そうですか」
聖女は微笑むのをやめ、冷たい目で勇者を見る。
「ガルルルル!」
「漆黒の魔狼王だ!」
「勇者様、ここは私にお任せを――……」
「危ないっ!」
いつの間にか魔法使いの背後にいた漆黒の魔狼王は勇者たちを襲おうとしたが、戦士の剣に阻まれる。
「うふふ」
聖女は再び感情の消えた笑みを浮かべた。
「勇者様、ここは撤退しましょう。このままでは負けます」
「何言ってんだ! 勝てるに決まってるだろ!」
「……何が起きても知りませんよ」
聖女はそそくさと漆黒の魔狼王の攻撃範囲から離れる。
「うふふ……そろそろ、呼ぶ頃かしら」
聖女は勇者たちの具合を見る。
「……まだ大丈夫そうね」
「キャ――――!」
魔法使いが重傷を負った。
「聖女! 早く回復しなさい!」
「うふふ、わかりました。回復魔法」
魔法使いの傷は、聖女の魔法によって塞がれていく。
「おい、俺も頼む!」
「うふふ、はい。回復魔法」
勇者は擦り傷だけだったが、文句は言わずに回復させる。
――だが、その直後だった。
漆黒の魔狼王の容赦ない一撃が、目にも留まらぬ速さで全員をなぎ払う。
「ぐあっ……」
「戦士様もですね」
漆黒の魔狼王の攻撃をまともに受けてしまった戦士は、瀕死のようだ。
「特大回復魔法!」
魔力をごっそり削られてしまったのか、聖女の息は荒くなる。
「ぐっ……」
「キャッ!」
勇者パーティーのメンバーは次々と傷を負う。漆黒の魔狼王にはまだ傷一つすらつけられていない。
「うふふ、そろそろ頃合いかしら……。来ていいわよ!」
そう聖女が言うと、茂みの中から3人の男女が現れた。
新手を警戒する間もなく、3人は見事な連携で魔狼王を圧倒していく。最後に剣士と思われる人物が鋭く斬りかかると、あれほど苦戦した魔狼王は、あっという間に霧となり消えていった。
「なんだ……こいつら……」
「うふふ、元勇者様、ご紹介いたしましょう。こちらの方々は、私が事前にこうなると見越して作り上げた新・勇者パーティーの皆さんです」
「なっ……勇者パーティーは1組しか作れないはずだぞ! それに王様の許可も……」
「先ほど私は貴方のことを『元勇者様』とお呼びいたしましたよ?」
「まさか……」
聖女はゆっくりと目を細め、口角を上げ、微笑む。
「うふふ、そのまさかですわ。王様への根回しはとうに済んでおりますし、勇者パーティーは今も変わらず1組だけですよ。――私たちがね」
「そんな……」
魔法使いが青ざめる。
「私は今まで、何もかもを見越して皆様をサポートしてきました。貴方たちとパーティーを組んだ時から、いや、それよりずっと前から――こうなることを、すべて計算していたのです」
「そう言えば、あの時も……この時も……」
戦士は、今まで聖女に助けられてきた奇跡のような瞬間が、すべて彼女の手のひらの上だったのだと思い返す。
「うふふ、彼らは魔王をも倒すことのできる本物の逸材です。私に出会う前までは不遇を託っていましたが、私の指導によりここまで強くなりましたの。それでは――」
聖女は新勇者パーティーの面々に囲まれながら、最後に振り返った。
「うふふ、さようなら、皆さん。これまでお荷物になってくださり、本当にありがとうございました!」
聖女は清々しい顔で去っていく。
満身創痍の元勇者たちは、その姿を啞然と見送ることしかできなかった。
◇◇◇◇◇
あの後、元勇者たちは命からがら魔の森を脱出した。
すでにただの冒険者に格下げされたというのに、彼らはプライドが捨てきれず、その後も「勇者」を名乗って依頼を受け続けていた。
しかし、聖女のサポートを失った彼らの実力は落ちていく一方だった。
そして数カ月後、身の丈に合わない強力な魔物の討伐に挑み、手痛い敗北を喫することになる。
命は助かったものの、もう二度と戦うことはできないほどの重傷を負わされ、彼らは完全に表舞台から姿を消した。
その一方で、聖女率いる本物の勇者パーティーは瞬く間に魔王を倒し、世界中から崇められる英雄となった。
「うふふ、ざまあみろ、ですわ」
聖女は贅沢な邸宅の窓を開け、英雄たちの歓声を聞きながら、そう呟いた。




