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第九話:葛藤

美奈に協力してもらう事を決めた悠斗は翌日、拓真とあかりに話した。

だが、二人の反応は微妙であった。


「話しちまったもんはしょうがねえけど、その場で決めずに俺達に一言相談して欲しかったぜ」


拓真の言葉にあかりも同調した。

 

「そうだね。いくら違う世界線?で付き合った子でも、彼女は紗良ちゃんを知らない。繋がりが薄い人は”世界”から

警告を受ける可能性がある。忘れたの?あの時のみんなの苦しんだ姿を」


悠斗は中学時代クラスメイト達が苦しんでいた時の事を思い出していた。

  

「悪い……。でも紗良の事は話していないし、今の所苦しんでいる様子もない。人手は多いに越した事はないだろ?」


「そうだけど。今は良くてもいずれは話さなきゃならない時は来るよ?その時はどうするつもりなの?」


あかりの質問に悠斗はたじたじになる。


「その時は、その時で……」


悠斗の答えにあかりは深いため息をつく。


「まあまあ。今更どうこうできないし、その美奈ちゃんって子にも出来るだけ協力してもらおうぜ。

俺達だけじゃ手詰まり感半端ねえしさ。第三者が入る事で新たな視点が見えてくるかもしれねえしさ」


昔、悠斗が拓真に打ち明けた時の事を今度は拓真が話した。

拓真の言葉にあかりもしぶしぶ了解した。

悠斗は二人に頭を下げた。


こうして紗良の痕跡探しを悠斗は美奈と拓真はあかりと二手に別れ探す事になった。

放課後、悠斗の机の前に美奈が来た。


「それで、私は何を探したらいいの?」


悠斗は美奈の笑顔を見て嬉しそうなのを感じた。

悠斗はその様子に少し不快感を感じたが顔には出さなかった。


「詳しい事は歩きながら説明するよ。その前に水瀬さんの事を二人に紹介しておきたくて……」


悠斗がそう言うと、拓真とあかりが近づいてきた。


「このいかにも間抜けそうなやつが西條拓真」


「おい!!」


「こっちの子が宮坂あかり」


「よろしく」


あかりは少し無愛想に頭を下げ、拓真はニヤニヤしながら頭を下げた。


「二人とも俺の探し物にずっと付き合ってくれてる大事な親友だ」


その言葉に拓真とあかりは少し照れくさそうにしていた。


「水瀬美奈です。私も悠斗くんやお二人の役に立てるように頑張ります。よろしくお願いします」

 

あかりは挨拶する美奈に近づき睨んだ。


「先に言っとく。これは遊びじゃない。生半可な気持ちで首を突っ込んでくるなら、邪魔になるだけだから」


あかりの眼には明らかに美奈に対する敵意を感じられた。

その様子に美奈は少したじろいでしまった。

 

「ごめんね〜。今手詰まりでちょっとピリピリしてるからさ」

 

そんな空気を変えるように拓真が二人の間に入り手を合わせて美奈に謝った。


「い、いいえ……」


美奈も今できる精一杯の笑顔で返した。


「でもね。あかりが言った事も覚えていてほしい。俺達は本当に真剣に探しているんだ。

浮ついた気持ちで探してほしくない」


真剣な表情になる拓真。

さっき悠斗の机に寄ってきた時の美奈の顔を拓真も見ていた。


「ご、めん……なさい……」


少し涙目になりながら俯く美奈に拓真は言い過ぎたと思った。


「ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただ俺達がそれだけ真剣なんだって事を伝えたくて……。あと危険を伴う可能性がある事も覚えててほしい。でも謎の組織に狙われるとか大怪我するとか、そういう類じゃないからそこは安心して」


拓真は場を和まそうと少しジョークを入れた。


「はい。悠斗くんの口ぶりからも何となくは察しれてたけど、そこまでとは思いが至らなくて、悠斗くんの役に立てれると思って少し浮かれていました」


頭を下げる美奈。


「まあ分かってくれればいいんだよ。なあ?」


拓真はあかりに振るがあかりは無視した。

最悪の空気に拓真は話を切り上げあかりを外に連れ出した。


残された悠斗と美奈は少し気まずそうにそれぞれ別方向を見た。


「ごめん。普段はいい奴らなんだけど……」


「ううん。私も軽く考えてたのがいけないの……」


「とりあえず、俺達も行こうか……」


悠斗と美奈はカバンを持ち教室を出た。

先に出た拓真とあかりは既に学校を出て、通学路を歩いていた。

あかりはドスドスと怒ったように歩いていた。

 

「おい、待てよ。あかり」


拓真の言葉を無視し歩き続けるあかり。

それに業を煮やし拓真は少し乱暴にあかりの肩を掴み、止めた。

 

「待てよ!!さすがにあの態度はないぞ?何も知らないんだぞ?」


「知らないなら、なおさら首を突っ込むべきじゃないわ!!」


「あの子はあの子なりに……」


「どうせ真柴くんと一緒にいたい口実を作りたいだけでしょ?」


拓真は答えづらそうに頭をかく。

 

「それに馴れ馴れしく”悠斗くん”だなんて……。紗良ちゃんが可哀想」


「仕方ないだろ?悠斗が言うには別の世界線では二人は付き合ってたんだから、この世界でも悠斗に対して好意はあるんだろ」


あかりは拓真を睨んだ後、ため息をつく。

 

「この世界ではろくに話した事もないのに?」


「一目惚れなんじゃねえ?」


「そうかもしれないけど……」


「あかりは悠斗が紗良を諦めて、水瀬さんに行くかもしれないって考えてるのか?」


「その可能性もなくはないかと……。実際、紗良ちゃんに関しての事は、全く見つからないわけだし」


「それは絶対ない。ここで諦めるならあいつはもっと早い段階で見切りをつけてる」


「どうしてそう言い切れるの?」


「あいつは俺の親友で相棒だからな」


拓真はニコッと笑いながら答える。


「でも、悠斗が考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考え抜いて、やり切って、それでも紗良が見つからなくて、悠斗や俺達がもうこれ以上本当にやれる事がなくなって、水瀬さんに悠斗が心から惹かれたって言うなら、

俺は応援する」


「薄情よ……」


あかりは悲しそうに俯く。


「薄情かもしれないけど、いつまでも取り戻せないものに執着するのもしんどいと思うぞ?どこかで区切りはつけるべきだ。それを悠斗も分かってると思う。だから焦ってる。それはあかりもだろ?」


拓真の問いにあかりは拳を握る。


「万が一その時が来た時、心の拠り所になってくれる人はいた方がいいと思うしな」


「それが水瀬さんだって言うの?」


「それは分かんねえけど、可能性としてはアリじゃねえ?」


「私はイヤ……。紗良ちゃんの事忘れて別の人に行く真柴くんなんて見たくない」


「そりゃあ俺も嫌だぜ。だから必ず紗良を見つけ出す」


「そうね。紗良ちゃんも私たちが見つけてくれるのをどこかで待っている」


拓真とあかりは互いにうなずき、歩き始めた。


一方、悠斗と美奈は廊下を歩きながら今後の事を話していた。


「用事がある時なんかは断ってくれてもいいから。拓真とあかりもそうしてるし。俺もいつも探してるわけじゃないから」


「分かった。探してる人って誰?」


美奈の言葉に悠斗はドキッとした。

 

「どうして人だって?」

 

「何年も三人で探してたんでしょ?そんな必死になるって事は人としか思えない」


「その通りなんだけど、この前も言ったけど詳しくは……」


悠斗はどこまで説明していいものかと考えていた。


「私が詳しく知ったら、何かまずいの?」


「拓真も言ってたけど、水瀬さんを危険に晒すかもしれない」


「いいよ。悠斗くんのためなら、私どんな事でも……」


美奈の艶やかな声に悠斗は思わず赤面する。

 

「いや本当に危ないんだ!!昔この事でたくさんのクラスメイトを危険に晒したんだ」


「でも、教えてもらわないと、もし私が見つけても見逃すかもしれない!!」


美奈は悠斗の言葉に一歩も怯まない。


「駄目だ!!水瀬さんを危ない目に合わせたくない。俺についてきて、何か違和感を感じたらそれを俺に教えてくれるだけでいい!!」


「違和感って……。そんなフワッとした感じじゃ何も分からない!!」


「これ以上は言えない。分かってくれ!!」


悠斗は話を切り上げ、歩き始める。


「悠斗くん……!!っ……」


美奈もそれ以上追求できず、黙って悠斗の後ろを歩いた。

悠斗と美奈は公園や商店街などをただひたすら歩いていた。

美奈は悠斗のために何かしたいと思い、声をかけようとするが、悠斗が必死に誰かを探す様子にいたたまれなくなった。


「悠斗くん!!ちょっと休憩しよう?」


美奈は勇気を出して悠斗に声をかけた。


「……分かった」


悠斗はさっきの事を気にしてか美奈の提案をあっさり聞き入れた。

二人は公園のベンチに座って休憩するが会話はなかった。


「無理に話したくないなら、もう聞かないよ。役に立ちそうにないけど、それでも私は一緒にいたいし、いてもいいの?」


「水瀬さんの好きにしたらいいよ。無理に付き合ってくれなくても大丈夫だから」


「ありがとう」

 

美奈は必死に笑顔を取り繕った。

悠斗も美奈の様子に気づいているがフォローする気力は今はなかった。

この日はそのまま解散になり、拓真達にも連絡した。


翌日

悠斗、拓真、あかりは昨日の事を報告しあっていた。

美奈はその輪に入れず、ただ少し離れた場所から見ているだけだった。


「これといった目新しい事はないな」


「うん、紗良ちゃんが行きそうな所はもう何回も周ったしね」


(紗良ちゃん……。その人が悠斗くん達が探してる人?)

 

美奈は悪いと思いながら三人の話を盗み聞きしていた。

あかりは美奈の方を見た。

美奈は間一髪で教科書に目をやり盗み聞きした事がバレずに済んだ。

あかりは少し怪しんだが、二人の会話に戻った。


「悠斗の方はどうだったんだ?」


「こっちも収穫は無しだ」


「そうか……」


三人の周りに重い空気が立ち込める。

そんな空気を変えようと拓真が別の話を振った。


「ところで、水瀬さんとはどうだったんだ?ん?」

 

拓真はニヤニヤしながら悠斗に話しかける。


「どうって、別に。ちょっと言い争いになりかけたくらいだ」


「言い争いって穏やかじゃねえなあ。どうしたんだ?」


「紗良の事を説明しろって言われて。それは出来ないって」


あかりは呆れ顔で悠斗を見た。

 

「だから言ったじゃない。どうするつもりなの?」


「どうって……」

 

「話すなら、あの子にも相当な覚悟をしてもらうしかないし、話すつもりがないなら、これ以上巻き込むのはやめるべきだよ」


あかりに二択を迫られた悠斗はしばらく考えた。


「話してみるよ。それで中学の時みたいな事が起こったら、関わるなって言うよ」


あかりと拓真は悠斗の答えを尊重しそれ以上は何も言わなかった。

放課後、悠斗は美奈の席に行き、とりあえず昨日の態度の事を謝り本題に入った。


「これから俺達が探している人の名前を言う。それによって水瀬さんに、耐え難い苦痛が襲ってくるかもしれない。それでも聞きたい?」


美奈は既に名前をさっき聞いたがあえて知らないふりをした。


「聞かせて……」


悠斗は意を決してその名を美奈に告げた。


「白瀬紗良……。それが俺達が探してる人の名だ」


どうなるか分からない悠斗は心の中で祈った。

あの苦痛を違う世界線だとしても好きになった人に味わってほしくない。

悠斗は目を閉じひたすら祈った。

だが、いつまで経っても美奈からは悲鳴は上がらなかった。


「白瀬紗良さんだね。話してくれてありがとう」


美奈の様子は話す前と全く変わっていなかった。


「大丈夫なのか?どこか痛いところはないか?」


悠斗は心配そうに美奈を見る。


 「大丈夫だよ」


笑顔で答える美奈に悠斗は思わずギュッと抱きしめた。


「ゆ、悠斗くん?」 


突然の行動に美奈は驚いた。

悠斗は慌てて離れた。


「ごめん。美奈に何も起こらなかった事が嬉しくて、つい」


「えへへ、それなら良かった」


「でも、何で何も起こらなかったんだ?」


「よく分からないけど、私が白瀬さんって子をあまり知らないからじゃないかな?」


(そうなのか?接点がない人には話しても問題ない?何の障害にもならないから?)


悠斗は美奈を見て紗良に一歩近づいたように思えた。

美奈は悠斗を見て嬉しそうに笑っていた。


「どうしたんだ?」


「悠斗くんが私の事を”美奈”って呼んでくれた事が嬉しくて」


悠斗はしまったと思った。気が緩み付き合ってた時の呼び方が出てしまった。


「ごめん」


悠斗は弁明しようとあれこれ考えるが上手い言い訳が思いつかなかった。

それを見ていた美奈は悠斗に微笑んだ。


「美奈でいいよ。私もそっちの方が嬉しいし」 


「じゃあ、美奈で……」


悠斗がそう言うと美奈は「うん」とだけ言った。

その後、すぐに悠斗は拓真とあかりに合流し、さっきあった事を話した。

拓真はすごく喜び、改めてよろしくと美奈と握手した。

あかりはまだ不服そうだったが、何も起こらなかったのならと納得した。


そこからは四人で紗良の痕跡をあちこちで探した。

今まで行ったことがない所にも行った。


美奈が悠斗達が紗良の行動を全て把握していたわけではない。

悠斗達が知らない紗良の交友関係があるかもしれない。

その人達とは思いもよらない所に行ってるかもしれないから、探索範囲をもっと外に向けたり、探したことがない場所にも行ってみるべきだと提案してきた。

あとは時間帯もずらして探したら何か分かるかもとも提案してくれたが、これに関しては防犯上危ないとし却下した。

美奈もそれに関してはそこまで食い下がらなかった。


悠斗達は紗良を探し続けた。

だがそれでも手がかりは何も得られず、あっという間に冬になった。


放課後の理科準備室。

窓の外では、冬の夕陽が赤く傾いていた。

悠斗は机に突っ伏し、力の抜けた息を漏らす。

空気の重さは、希望が尽きてしまった空洞のようだった。

 

「……もう、どうすればいいんだよ……」

 

呟きは、虚空に吸い込まれていく。


そのとき、美奈が静かに口を開いた。


「……ねえ、悠斗くん」


彼女の声はやわらかく、けれどどこか冷たさを悠斗は感じた。


「これだけ頑張っても、何も見つからない。もう……いいんじゃないかな」


「は?何言ってるんだ?」


悠斗の肩が小さく揺れた。

美奈は机に肘をつき、彼の横顔を覗き込む。

 

「白瀬さんの事を、忘れようって言ってるわけじゃないよ。でも……ずっと“いない人”を追いかけて、自分を壊しちゃうくらいなら、今ここで、生きてる“幸せ”を見つけてもいいんじゃない?」


言葉は優しい。

けれど、その奥に微かな違和感が潜んでいるのを悠斗は感じた。

まるで誰かが、悠斗の心を“方向づけ”ようとしているような。

だが悠斗は気づいていてもそれに逆らう事ができなかった。


「……幸せ、か……。もういいのかな?」

  

悠斗は何度もループしその度絶望した。

そこに今回の紗良の存在が”消えた”世界。

悠斗の心はもう限界が近づいていた。


「そう。私なら——悠斗くんを、幸せにできるよ」

 

美奈は立ち上がり、ゆっくりと悠斗の頬に手を添えた。

その手は温かかった。

美奈が顔を近づけ、互いの唇が触れようとしていた。

悠斗は目を閉じ自然な流れに身を委ねようとしていた。

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