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第八話:再会

教師が悠斗達の悲鳴を聞きつけ教室に入ってくる。

だがその時には全員頭痛が引いて、何も無かったかのように

体調が元に戻っており、全員先ほどの事を説明するが、

要領が得られず、体調が戻ったならと気をつけつつもホームルームが始まった。


放課後の空き教室。


「……もう、クラスの連中には言うのやめよう」


窓際に座る悠斗の言葉に、拓真とあかりが黙って頷いた。

朝、クラス全員が頭を押さえ、悲鳴を上げた光景は、今も三人の中に焼き付いている。


「俺らもやばかったけど、他の奴らはもっと酷かった。多分……“拒絶”されたんだろうな。紗良の存在をこれ以上思い出させないように」


拓真の声には、無理に冷静を装う響きがあった。

あかりも静かに言葉を継ぐ。


「……あれはきっと、”警告”。紗良ちゃんとの繋がりが薄い人たちがこれ以上踏み込めば、

強制的に排除するぞっていう明確な悪意」


「誰が?何のために?てかクラス全員をあんな状態にするって相手は超能力者か何かか?」


拓真が悠斗とあかりを交互に見るが二人とも分からず何も言えなかった。


悠斗は目を閉じ、机の上に置いた紗良の絵を指先でなぞった。

絵の中の紗良は微笑んでいる。けれど、その笑顔はもう、遠い夢のようにかすんで見えた。


「無理はしない。苦しましてまでみんなまで巻き込みたくない。……だけど、俺は諦めない。絶対に」


悠斗がそう言うと拓真が拳を握り、あかりも頷いた。

三人の間に、言葉のいらない誓いが流れた。


それからの悠斗達は日々、紗良に繋がる可能性を探し続けた。

紗良が夢に出てきた日はノートに記録をしたり、それぞれが紗良と行った場所を思い出しながら尋ねたり、卒園、卒業アルバムを隅々までもう一度確認したり、あかりは描写力を生かし、記憶の断片をスケッチに起こし続け、

拓真はあちこち走り回り、どんな些細な違和感も見逃さず記録した。


けれど、“紗良のいる場所”を示す確かな手がかりは、何一つ見つからなかった。

三人は公園に集まりベンチに座り空を眺めていた。


「やっぱ、物理的な手がかりは出てこねえなあ。」


拓真が買ってきたジュースをごくりと飲みながら呟く。


「宮坂さんが加わる前から散々二人でやり尽くしたしな」


悠斗もジュースを飲む。


「記録もただ付けてるだけで、紗良ちゃんに直接繋がるってわけじゃないしね」


三人は大きなため息をつく。


「てか悠斗。お前この公園で将来紗良に告白するんだよな?」


拓真は頭をベンチの後ろに倒し、逆さまの世界を見ながら呟く。

悠斗はむせ込み、顔を赤くする。


「急に何言い出すんだよ!!」


悠斗は口からこぼれ、服に付いたジュースをハンカチで拭きながら話した。


「二人の思い出が詰まった公園で告白……。すごいロマンチック」


 あかりも悠斗と同様に顔を赤くし、頬を両手で押さえる。


「宮坂さんも……」


悠斗は困惑しながらも「そうだよ」とぶっきらぼうに答える。

その返答に拓真は「お、おう」とだけ一言。

あかりは「きゃあああ」と足をバタバタさせながらはしゃぐ。


「じゃあ、その未来を実現するために紗良を見つけ出さないとな」


「うん。絶対に探し出さないとね!!」


「二人ともありがとう」


悠斗は拓真とあかりの二人に頭を下げた。

拓真は悠斗の肩をポンと叩き、あかりはニコッと笑った。

悠斗は二人の姿を見て、更に固い決意を心に誓った。


だが、時は無情に過ぎていく。

紗良の声を聞いてから、三年。

悠斗達は高校生になっていた。

桜並木を歩くたびに、悠斗の心臓は痛んだ。


あの日、紗良と並んで見上げた桜の枝は、今も変わらず春の風に揺れているのに、そこに、紗良の姿だけがない。


「今も……あの暗闇で泣いてるのかな……」


夜、自室のベッドに沈み込むたび、胸が締めつけられる。

助けたい。触れたい。声をかけたい。

でも、世界はそれを許さない。

焦りは、時間と共に鈍い痛みへと変わっていく。


そんなある放課後のこと。

帰り支度をして今日も手がかりを探そうとしていた悠斗の背後から、ふいに名前を呼ぶ声がした。


「……真柴くん」


振り返った瞬間、息が止まった。

そこに立っていたのは、かつて別のループで告白をし、付き合う事になった水瀬美奈だった。

あの時と変わらぬ、柔らかな茶色の髪。


そんな彼女が俺に話しかけてきた。


「……ちょっといいかな?」


少し俯きかげんになりながら恥ずかしそうな美奈。


悠斗は別の世界の時の事を思い出し、一瞬、言葉を失った。

ループを回避するためとはいえ、一時本気で付き合っていた美奈。

彼女の声を聞いた瞬間――確かに胸が熱くなった。

まるで、別の記憶が呼び覚まされるように。


「……み、水瀬さん。どうしたの?」


悠斗はできるだけ冷静を装いながら美奈に尋ねる。


「あ、あのね、変って思われるかもしれないんだけど、最近、夢を見るの。その、私と真柴くんが、一緒に映画見たり、歩いたりしてる夢。楽しそうなんだけど、その、真柴くん、時々すごく悲しそうで、それで、え〜っと、つまり、その……」


美奈の瞳が揺れる。

その涙の奥に、紗良とは違う“優しさの残像”があった。


「そ、そうなんだ……」 


悠斗は心臓がバクバクしてそれしか言えなかった。


「う、うん。ごめんね。こんな事急に言われても困るよね……」


美奈は苦笑いしながら悠斗を見つめた。

そういう世界があったと悠斗は知っている。

だが、言う訳にはいかないし、言ったところで信じてくれないだろと、悠斗は思った。


「いや、大丈夫だよ」


悠斗も笑顔で返すのがやっとだった。

紗良を救いたい気持ちと、美奈の存在が同時に心を揺らす。

それは罪悪感にも似ていて、けれどどうしても無視できなかった。


しばらく、二人の間に沈黙が続く。


「あ、俺、今からやらなきゃいけない事があるんだ」

 

悠斗は沈黙に耐えきれずその場を立ち去ろうとした。


「そうなんだ……ごめんね。引き止めたりして」


美奈は悲しそうに微笑んだ。

けれど、その表情はどこか受け入れているようにも見えた。

悠斗は鞄を持ち、教室を出ようとした。


「……”悠斗くん”!!」


悠斗は立ち止まり美奈の方に振り返った。

美奈の目には先ほどとは違う、決意が宿っていた。


「急に下の名前で呼んでごめんなさい。その“やらなきゃいけないこと”、一人で抱えないで。

私にも……何かできるかもしれないから」


悠斗は美奈の言葉に戸惑った。

事情を知らない美奈を巻き込むわけにはいかない。

巻き込もうとすればまた”警告”が発動するかもしれない。

彼女はこの件に関しては無関係だ。

悠斗は断ろうと思った。


「ありがとう。でも水瀬さんには関係のない事だから……」


今度こそ教室を出ようとする悠斗の手を握る美奈。


「お願い。私にも手伝わせて!!」


懇願する美奈に困惑する悠斗。


「どうして、俺に関わろうとするんだ……」


「あなたが苦しんでるように見えたから……。」


その言葉に悠斗は決意が揺らいだ。

紗良を訳の分からない世界で見たのを最後に何の進展もないままここまできた。

悠斗は正直焦っていた。

それを美奈に見透かされてるような気がした。

悠斗はしばらく手を美奈に握られたまま考え込む。

考えている間も美奈は握った手を離そうとしなかった。


「詳しくは言えないけど、それでもいいなら……」


その答えに美奈は笑顔になった。


「それでもいい!!悠斗くんの役に立てるなら!!」


美奈はようやく悠斗の手を離した。

やれやれと思いつつもまた美奈と繋がりを持てた事に、悠斗は申し訳ない気持ちと同時に少し心が躍るのを感じていた。

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