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第十話:違和感

「私なら——悠斗くんを、幸せにできるよ」


悠斗は美奈の言葉に身も心も委ねようとしていた。

 

——ガララ。


その時、理科準備室の扉が開き拓真とあかりが一緒に入ってきた。

悠斗と美奈はパッと離れて、互いに相手の反対方向を見る。

拓真は「ん?」という感じで二人の様子に気づいていなかったが、あかりが悠斗と美奈のただならぬ様子に

気付き二人を訝しげに睨んだ。


「二人で何かあった?」


あかりの問いに二人して俯いた。


それを見たあかりはカッとなり、美奈に近づき美奈の制服を掴んだ。

悠斗と拓真はあかりのあまりの迫力に呆然としていた。


「何?」


美奈もあかりを睨む。

今までに見せた事のない態度にあかりは一瞬たじろぐが、すぐに睨み返した。


「何?じゃないわよ!!どういうつもりよ!!あんた紗良ちゃんの事、本当に探す気あるの?」


「あるに決まってるじゃない。悠斗くんが望むなら私は何だってするよ?」


美奈はにこりと笑うが、その笑みにあかりは更に怒りが込み上がった。

美奈の笑みは今までとは違い、明らかにあかりに対して敵意が滲み出ていた。

あかりもそれに気づいており、互いに今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうなそんな雰囲気を醸し出していた。

悠斗も二人の不穏な空気に気付き止めに入るがあかりが美奈の服を離し、今度は悠斗を睨んだ。

その様子に悠斗は何も言えず視線を逸らした。


視線を逸らす悠斗を見てあかりは無言で理科準備室を出て行った。

拓真はよく分かってなかったが、あかりを追いかけて行った。


残された悠斗と美奈はしばらくその場に立ったまま一言も話さなかった。

しばらくして悠斗が痺れを切らし「帰ろうか?」と言うと美奈はコクリと無言で頷き二人は理科準備室を後にした。

校門を出た悠斗は美奈をチラチラと見てさっき理科準備室であった事を思い出していた。


「理科準備室で言った事だけど……」


美奈は悠斗を見ず話し始めた。


「私、本気だから。私なら悠斗くんを幸せにする自信がある。悠斗くんが望むならどんな事だってするよ?」


悠斗は美奈の言葉に何も言えずにいた。


「私が白瀬さんの立場ならそんな苦しそうな顔してまで探してほしくない。悠斗くんに幸せになってほしいって願うよ?」


「お、俺は……」


言葉に詰まる悠斗に美奈は体を密着させ上目遣いで悠斗を見る。


「悠斗くんが白瀬さんの立場ならどう?白瀬さんに探し続けてほしいと思うかな?」


自分が紗良の立場だったら?悠斗はそんな事考えた事もなかった。

もし自分が紗良の立場だったら、自分の事で苦しむくらいなら忘れて別の幸せを探す事に目を向けてほしいと思う。


「今、悠斗くんが思ってる事を白瀬さんも思ってると思うよ?」

 

まるで悠斗の心を見透かしたように話す美奈に悠斗はまた心が揺らぐ。

 

「白瀬さんもここまで必死に探してくれた悠斗くんを責めないよ。私なら責めない。だから今目の前に”いる”幸せを掴んでいいと思うよ?」


美奈の言葉に悠斗は頭の中が混乱する。紗良を見つけたい、でも見つからない。

自分が紗良の立場ならもういいと言うだろうが、見つけてほしい気持ちもある。

それにここまできて諦められない気持ちもあるし、一緒に探してくれた拓真やあかりに申し訳ない気持ちもある。


頭を抱えて悩む悠斗に美奈はそっと抱きしめた。


「悠斗くんの悩む気持ち分かるよ。ここまで頑張ったんだもの。諦めきれないよね。すぐ決断しなくていいよ。

選択肢の一つに入れておいてくれたらそれでいいから」


その言葉に悠斗も思わず美奈を抱きしめ返した。

その様子を拓真とあかりが遠くからたまたま見ていた。


「あいつら何の話をしてるんだ?でも抱き合ってるて事はそう言う事なのか?」


拓真はあかりに確認するように聞く。


「だとしたら幻滅するわ。真柴くんにとって紗良ちゃんはその程度の存在だったて事なんだって」


あかりはそれだけ言ってその場を立ち去った。

拓真は悠斗と美奈を見て後ろ髪引かれる思いだったがあかりの事も気になり後をすぐ追った。


それから数日、悠斗は変わらず紗良を探し続けるが、心ここに在らず状態が続いていた。拓真は心配になり悠斗に声をかけるが「大丈夫」と弱々しく答えられる。

あかりは初心にたちかえり単独で紗良との思い出の場所を探し続けていた。


美奈は一緒に紗良を探す事を今までと変わらず悠斗と一緒に探すが、これまで以上に悠斗にベッタリと引っ付き、

クラスでは二人はデキてると噂になっていた。

悠斗の耳にも聞こえてきてはいたが特に否定する事はしなかった。


拓真もさすがに悠斗のその態度に業を煮やし、放課後人気がなくなった教室に呼びつけた。


「どうしたんだよ、悠斗!!ここ数日お前変だぞ?」


拓真は悠斗に思うところはあるがまずは普通に接した。


「大丈夫だって言ってるだろ」


「大丈夫そうに見えねえっつってんだよ!!」


拓真は悠斗の制服を掴み強引に引き寄せる。

そんな様子を見ていた美奈は悠斗と拓真の間に割って入り込む。


「やめてあげて!!悠斗くんも苦しいんだよ。ゴールがいつまでも見えてこない状態で、一体いつまで続けたらいいのか分からないんだよ」


「いつまでって、紗良が見つかるまでに決まってるだろうが!!そうだよな悠斗!?」


拓真の問いに悠斗は何も答えず俯いていた。悠斗の様子に拓真は苛つきの感情が湧き上がってきた。


「そうかよ!!だったら紗良の事を綺麗さっぱり忘れてもう水瀬とずっとイチャついてろよ」


「そんな言い方……」


「水瀬はちょっと黙ってろ!!」


拓真の声は廊下にまで響き渡った。

まだ残っていた生徒がこちらを見てヒソヒソと話すのを見て拓真は少し冷静になり美奈に謝った。


「ふぅー。悠斗、お前が心の底から水瀬を選んだって言うなら俺は何も言うつもりはない。あかりにも俺から伝えておく。紗良の事も……、どうするかは一緒に考えよう。でもな、ただ自分が楽になりたいだっけってんなら俺はお前の親友をやめる。どうなんだ?」


拓真は先ほどとは打って変わって優しく悠斗に尋ねた。


「俺は……紗良の事は諦めたくない。でも状況が全く変わらないこの状況も苦しいんだ。拓真には理解できないだろうし、理解してくれとも思わないが、俺はもう何度も何度もループしてる。今までは紗良が目の前にいたから紗良のためだと思って何とか平静を保ててたけど、本当はもうこのループを終わらせたいんだ!!多分この世界はループしない。ループの中心点にいた紗良がいないんだから。このまま平穏に過ごせば”告白の日”もどう過ごそうが特に何も起こらず過ごせると思う」


悠斗は美奈がいるにも関わらず、ループの事を話す。拓真は美奈が聞いてる事に、まずいと思い、悠斗を宥めようとするが払いのけられた。

 

「俺はいつまで続けたらいいんだ!?」


悠斗の心からの叫びに拓真は何も言えなかった。

悠斗はただ純粋に紗良の事が好きなだけで一生隣にいたいと思っただけなのに、告白の日を境に二人の運命は大きく変わってしまった。


誰が何のために悠斗と紗良を巻き込んだのか。

二人の運命を引き裂きたいのか。

それとも、ドラマやアニメの様に試練を互いに乗り越え、結ばれる劇的なハッピーエンドが見たいのか。


それすらも分からない。

それでも何度も何度も悠斗は諦めずに紗良を求め続けてきた。

このくだらない茶番に終止符を打とうと思い、心が引き裂かれる思いで紗良から身を引こうともした。

それでもループは続き、ついには紗良が世界から消失した。


悠斗の心を折るには充分だった。

それでもここまで来れたのは紗良を思い出してくれた母親や拓真、あかりの存在があったからだ。


「悠斗……。すまねえ。お前がそこまで追い詰められたなんて気づかなくて」


拓真は握り拳を握り、不甲斐ない自分に体を震わせていた。


「気にするな。俺も極力、拓真やあかりの前ではいつも通りにしてたからな。それに今ここにいる美奈にも正直助かってる。こんな訳の分からない事に付き合ってくれて、紗良とあまり関わった事がないのに今日までこんなに協力してくれてる事に、かん……しゃ……」


悠斗はそこである時の事を思い出し、大きな違和感を感じて美奈を見た。


「どうしたの悠斗くん?」


美奈はいつもと変わらない様子で悠斗に接する。


「美奈……。何で紗良の事を”知っている”」


「え?急にどうしたの悠斗くん?」


美奈はおろか拓真も悠斗の言葉の真意が分からなかった。


「どういう事だよ、悠斗?」


美奈が悠斗に心配しながらゆっくり近づいてくる。

それに対し悠斗は激しい嫌悪感を美奈に感じた。


「近寄るな!!」


悠斗は後ろに一歩引き、美奈を拒絶した。


「本当にどうしたの?私何か気に障るような事言った?」


美奈はおろおろしながらも悠斗に近づこうとする。


「おかしいんだよ、紗良の事を知ってるのが……」


「私、白瀬さんの事を知ってるなんて一言も言ってないよ……」


「そうだぞ、悠斗。大丈夫か?一旦落ち着け」


悠斗の要領を得ない言葉に拓真はますます混乱した。


「美奈に紗良の事を話した時、何も起こらなかった事に安心しきってて、完全に油断してた。それは美奈も同じだった。美奈はあの時こう言ったんだよ。『よく分からないけど、私が白瀬さんって子をあまり知らないからじゃないかな?』って」


「それのどこが変なの?」


「”あまり”知らない……。この言葉が出てくるのはその人物と少なくとも一度は接触した事があるって事だろ?でも紗良はこの世界にはいない。いつどうやって紗良の事を知る事ができたんだ?」


「それは……」


美奈は明らかに動揺して声が震えていた。


「そ、そう。実はまだ白瀬さんの事を教えてもらえなかった時に三人で話してるのを盗み聞きしてしまって、そこで白瀬さんの事も聞いてしまったの。それで勝手に知った気になっちゃって。盗み聞きしてごめんなさい。でもどうしても悠斗くんの役に立ちたくて……」


「うーん、つじつまは合う……か?」


拓真が腕を組んで悠斗を見る。


「……美奈。たとえ盗み聞きして紗良の名前を聞いたとしても本当に“紗良を知らない”なら、普通は『知らない』って言うんだよ。知った気になったとしても『あまり知らない』なんて、絶対に出てこない」


ここで美奈が再び言葉に詰まる。

なぜなら “あまり” という言葉は0 → 1の状態では生まれず、1 → 2の状態で初めて使われる言葉だから。


悠斗さらに追い詰める。


「それに、美奈。もし“盗み聞きで知っただけ”なら『あまり知らない』って、比較の基準が存在しないんだよ」


ここで核心を突く。


「だって、“知ってる量”がゼロの人間には、“あまり”も“そこそこ”も存在しない。“比較対象”がないから。

つまり——“あまり”って言葉は、お前が本当は紗良を“知っていた世界”のほうに属しているって自白してるのと同じなんだよ」


これで美奈の表情が明確に揺らぐ。


悠斗の言葉に拓真は悠斗と美奈を交互に見る。

美奈は俯き無言だった。しばらくして、美奈はゆっくり顔を上げた。

切ない笑顔を浮かべていた。


「ああ、やっと”私の番”が来たんだと思ったのに、上手くいかないなあ」


美奈は涙を浮かべ、寂しそうな表情で悠斗を見つめた。

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