空蝉オルゴール
わかっている。
何も入っていないことは、わかっている。
私がこれを大事にしていたって、何の意味もない。
孝也はどうして残したのだろう。私がこれをどうすると思ったのだろう。
手の中に転がる小さな木箱は新品のように輝いているが、それが十五年前に贈られたものだというのは見た目にはわからなかった。私は、一度もこれを開けたことがない。
孝也のことを思い出すとき、いつも小学生のやせ細った男の子が頭に浮かぶ。
親の再婚で家族になった、三つ下の男の子。
母親に満足に育ててもらえかったのは明白だった。私の母は彼と適度な距離で家族になり、彼に罪悪感を持つ父はいつも心を配り、私は──私は、彼を可哀想な子として大事にした。
それが孝也を歪めるとは知らずに、私なりに彼を大事にしたのだ。
どこからすれ違ったのかと考える。
孝也は、母に見捨てられないように末っ子を上手に演じていた。私は彼が思春期を迎えて男らしくなるとどこか恐ろしくて、わざと姉ぶったように思う。彼はそれを嫌がった。他人じゃん、とよく言った。どういう意味かわかっていて、私はそれを受け取らなかった。
私ではだめだとわかっていたからだ。
家族である私では、だめだと。
十八の歳、家を出た孝也は、私が一人暮らしをしていたアパートにやってきた。大きな荷物を持っている姿にぎょっとすると、悲しそうに「違うよ」と言い、紙袋を渡してきたのだ。
誕生日おめでとう。
そう一言だけ言って、帰っていった。
しんと冷えた夜で、雪がちらついていたのに、私は「少し温まっていったら?」と声をかけることもできず、階段を降りて道を歩く孝也の背中を見送った。
街頭がぽつぽつと光っていて、彼の姿が明滅するように、見えては消え、消えては見え、やがて目で追えなくなっていく。
ドアは開けっ放し。
何も履かず、玄関から出て、冷たい手すりを掴んでいた。
あれから会うことはなく、十五年が経つ。
開けようか迷う。迷っている自分が醜いとわかっている。
壁には、明日の孝也の結婚式に来ていく控えめなワンピース。彼はもう、乗り越えるべきものを乗り越え、自分の家族を作ろうとしているのだ。
ふと、携帯が着信を告げた。手を伸ばし、耳に当てる。
「……はい。お母さんとお父さん、こっちついた? うん……、ん、ごめん。うん、そう、風邪みたい。明日は欠席するね……ごめん」
鼻をすすりながら、涙を拭って電話を切る。
オルゴールの音が、一人きりの部屋に響いていた。




