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ルナの森  作者: 葉山麻代


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8/11

価値

 海外から噂を聞きつけやって来た者がいた。


「大金持ちになりたい」

『それはどういう状況を指すのだ?』

「現行通貨をたくさん所持している状態だ」

『聞き届けた』


 ルナの森を出たところで、車輪が泥濘(ぬかるみ)にはまって困っているらしい豪華な馬車に出会(でくわ)した。


「お困りですか?」

「客車には女性しかいなくて、泥濘から出せないんだ」

「ご面倒でも一旦降りていただいて、少し軽くなったところで、私もお手伝いいたしましょう」

「恩に着る」


 上品な母娘が降りてきて、不安そうに見つめるなか、泥を被りながらも添え木を挟み、車輪を出した。とても感謝され、是非にと屋敷に招待された。

 客車に乗るには汚れ過ぎているので、馭者(ぎょしゃ)席の横に座り、すぐに屋敷に帰ることが出来た事を、本当に有りがたいと説明をされた。


 屋敷では、主人からも感謝され、あの道は、夜中には山賊や獣が出るので、早く帰ることが出来て本当に助かったと、理由が正当なら売っても良いからと、主人から土地を貰う話になった。


「早速で申し訳有りませんが、私はこの国の者ではないため、土地の所有は出来ません」

 この国は、国籍がないと土地の購入や所持が出来ないのだ。

「では、株にしよう。うちの株ではないから、いつ売っても構わない」

 なんと、自国の商家が本社の株だった。


 ありがたく受けとり、自国で換金すると、株を受け取ったときの予想の額の10倍の値がついた。

「1000万ステルラの予定が、1億ステルラになった!」


 探検隊を組み、全員に先払いで、世界最大の大森林の生態調査に行けることになった。それでも半額は残っている。


 最新情報が全く入らない大森林の奥地に行っていた頃、自国ではハイパーインフレが起き、現金の価値がほぼ紙屑になった。それでも、毎月価値が下がり続ける現金を、貴金属や、不動産に変えた人と、外貨に両替した人たちは、最小の被害で済んだ。


 世界最大の大森林の奥地から戻ってきたとき、現金の価値は、100分の1以下となり、物価上昇率は13000%を記録していた。


 夢だった探検に若い頃に行けたので、後の事は考えていなかったが、残っているお金でしばらく生活するつもりだったため、今後の予定が崩れてしまった。


「1万ステルラで酒が買えないのか。酒場の安い酒1杯で、3万ステルラなのか」

 壱万円札が80円くらいの価値になったようなものだ。


「まあ、旅の代金は先払いだったから、借金もない。これから真面目に働けば、困ることもないだろう」


 残ったわずかな金で、再びルナの森がある国へ渡り、女神に挨拶に来た。


「女神様、お陰さまで、子供のころからの夢だった旅行に、体力があるうちに行くことが出来ました。本当にありがとうございます。これ、供えて良いかわかりませんが、お土産です」


 螺鈿細工の椰子の実で出来た皿を女神像の足元に奉納した。


『そなたは何を願う?』

「あ、願いはもう聞いていただいたので、次の人に譲ります」

『では、何のために参った?』

「失礼だったら申し訳有りませんが、旅のお土産を持ってきました。キラキラして綺麗な感じが、女神様に似てるなって思ったんです」

『そなたは変わっているな』

「良く言われます」


 笑顔で女神像に挨拶し、その場を退いた。


 そして森を出ると、またもや泥濘にはまる馬車に出会い、見知った馭者に声をかけ、再び馬車を出してやった。前回貰いすぎたからお礼は要らないと断ったが、泥まみれの服をせめて洗って風呂に入ってくれと懇願され、屋敷まで又ついていった。


「またもや助けてくれたそうで、ありがとう。早速お礼を」

「奥方にも告げたのですが、前回貰いすぎましたので、今回は何も要りません」

「あなたの国はインフレが凄くて、前回の資金はもう無いでしょう?」

「それはそうですが、あ、そうだ。できれば、仕事をご紹介してくださると有りがたく思います」

「どんな仕事が良いですかな?」

「どんなことでもします。この国の仕事でも頑張ります」


「ちょうど良い仕事があります。何でも良いのでしたな」

「はい。子供の頃からの夢も果たしましたし、あとは真面目に働くだけですから」


 斡旋された仕事は、この屋敷の主人の助手だった。事業拡大にともない、政治思想に左右されないパートナーを探していたのだ。


 数年真面目に勤めると、今度は娘を貰ってくれと言われ、末永く幸せに過ごしたのだった。

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