能力
「人が羨むような特殊な能力がほしいです!」
『どのようなものでも良いのか?』
「はい!」
『聞き届けた』
そして、他人の年齢と婚期と死期が分かる能力を手に入れた。
その者は、長期休暇中にルナの森を訪れ、願いを唱えた。人気者になりたかったのだ。
他人を見ると、黒い数字、赤い数字、白い数字が頭の上に見えるようになった。ぱっと見は、数字だけ浮いて見えるが、良く見ていると、年表のようなものに数字が載っている。どうやら、黒い数字は現在の年齢で、濃淡の有る赤い数字はその人の慶事のある年で、出世や婚期や出産時期らしく、白い数字は死期らしい。以後の年表自体も無くなる。まれに大きさの異なる青や黄色い数字がある人もいたが、何の数字かは現時点では分からない。
まずは、家族を見て、友人を見て、知り合いも見て、回りの人たちからちやほやされ、感心され、感謝され、有頂天になり、回りの人を一通り無料で見た後は、節目年齢を当てる占い師を始めた。
無料で見た知り合いからのおすすめによる口コミから評判になり、すぐに人が押し寄せた。
「いつ誰と結婚できますか?」
「慶事がいつかは分かりますが、相手が誰かは分かりません」
「方法はないんですか?」
「思い当たる該当者を連れてくれば、婚期が同じ相手が、あなたの相手だと思います」
「成る程!」
ある時、占った友人の出産祝いに総合病院に行った時に気づいた。青は、怪我や大病を患う時期だと。産科以外の入院患者の全員に、大きな青い数字が現在の年齢より前に見えるのだ。産科でも、青い数字が赤い数字に隠れるように同居している場合がある。帝王切開や、会陰切開をした人らしかった。
「まだ分からないこともあってね」
「どんなことが分からないんですか?」
「あなたで言うところの、1か月後。何かあるんだけど、それが何か分からないのよ」
子供が生まれ、幸せ絶頂期らしき相手の1か月後に、黄色い数字が見えるのだ。
「へえ。なら、何があったか、お知らせしますよ」
「ありがとう。お願いします」
そして知らさせたのは、臨時収入だった。
育児用品の会社主催の懸賞に、出産の話を投稿したら当選し、お祝い金をもらったらしい。その額は、出産費が賄えるほどだったらしく、副賞の育児用品と共にとても喜んでいた。
黒 年齢
赤 慶事
青 不調
黄 金運
白 死期
能力が、より詳しく分かってきた。赤には色味に種類があるようで、だんだん色を見分けられるようになってきた。
「まず現在の年齢は、23歳。結婚に至るのは、27歳。妊娠出産は、3度有るようですが、そのひとつに不調の色があるので、流産か死産か、体調不良の可能性があります。また、52歳の時に、金運の数字が輝いているので、なにがしかの収入があるようです」
「てことは、生涯独身はあり得ないってことですよね!」
「ええ、まあ」
「どうもありがとうございます!」
1件辺り30分以内、5000円だが、予約が絶えない。ぱっと見て答えていると間が持たないので、使わないが大きな水晶玉を手前に置き、それを見て答えている風を装った。
最初の頃は良かった。感謝されることはあっても、文句を言われたり恨まれたりはしなかったからだ。所が、何年も続けていると、教えてもらっていない不調があったと苦情を言ってくる者や、確かに結婚年齢で結婚はしたが、酷い相手ですぐに別れた等、責任問題だと騒ぐ者が出てきたのだ。
真摯に対応し、追加でもう一度見て、より細かく伝えたり、返金をしたりもしたが、クレーマーは諦めてくれなかった。
「信用していたのに、裏切られた!」
店の前で騒がれた。ほぼ営業妨害だ。裏切ってなどいないし、話したことをきちんと記憶していない客側の落ち度だが、証明しようもない。
「あなた、そんな嘘ばかり言っていると、天罰を受けるわよ? そのままで居ると、明日死にます」
今まで、死期だけは告げたことがなかったが、明日の欄に白い数字が見えているのだ。
「そんな脅し怖くないわ!」
時間までは分からなかったが、これでこの人が死んだら疑われるかもしれないと考え、警察に保護を願い出た。
その日の夜中、日付をまたいですぐに、騒いでいた相手が石段から転げ落ちて亡くなった。同様に騒ぎ立てていた全ての客が、おとなしくなった。
実は警察では全く相手にされず、受付でもめていたのだが、石段から落ちてきて動かない人が居るとの通報があり、無罪だけは証明された。
死を予言したと評判になり、客があからさまに減った。気に入らない客に呪いをかけたと、まことしやかに噂されたのだ。
年齢はともかく、婚期や出産期などが分かる時点で、死期だって分かりそうなものなのに、それだけは皆別枠らしく、一線を引かれてしまった。
当たる占いだと思っていたものが、事実を見ているだけだったと言うのは、もう人の領域ではないのだろう。外れれば文句を言うのに、当たりすぎたら怖がられる。
人々から畏怖され、誰も近寄ってこなくなった。
ある日、鏡台の前に座り、ぼうっとしていると、己の頭上に、数字が浮かんでいるのが見えた。
「あ、私の年齢か」
今まで、己の数字は見えなかったのだ。なのに、年齢の数字が見えている。そのまま鏡を見続けたら、白い数字も見えてきた。それは黒い数字に重なるように。
死因は、衰弱死だった。




