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ルナの森  作者: 葉山麻代


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7/11

能力

「人が羨むような特殊な能力がほしいです!」

『どのようなものでも良いのか?』

「はい!」

『聞き届けた』


 そして、他人の年齢と婚期と死期が分かる能力を手に入れた。


 その者は、長期休暇中にルナの森を訪れ、願いを唱えた。人気者になりたかったのだ。


 他人を見ると、黒い数字、赤い数字、白い数字が頭の上に見えるようになった。ぱっと見は、数字だけ浮いて見えるが、良く見ていると、年表のようなものに数字が載っている。どうやら、黒い数字は現在の年齢で、濃淡の有る赤い数字はその人の慶事のある年で、出世や婚期や出産時期らしく、白い数字は死期らしい。以後の年表自体も無くなる。まれに大きさの異なる青や黄色い数字がある人もいたが、何の数字かは現時点では分からない。


 まずは、家族を見て、友人を見て、知り合いも見て、回りの人たちからちやほやされ、感心され、感謝され、有頂天になり、回りの人を一通り無料で見た後は、節目年齢を当てる占い師を始めた。

 無料で見た知り合いからのおすすめによる口コミから評判になり、すぐに人が押し寄せた。


「いつ誰と結婚できますか?」

「慶事がいつかは分かりますが、相手が誰かは分かりません」

「方法はないんですか?」

「思い当たる該当者を連れてくれば、婚期が同じ相手が、あなたの相手だと思います」

「成る程!」


 ある時、占った友人の出産祝いに総合病院に行った時に気づいた。青は、怪我や大病を患う時期だと。産科以外の入院患者の全員に、大きな青い数字が現在の年齢より前に見えるのだ。産科でも、青い数字が赤い数字に隠れるように同居している場合がある。帝王切開や、会陰切開をした人らしかった。


「まだ分からないこともあってね」

「どんなことが分からないんですか?」

「あなたで言うところの、1か月後。何かあるんだけど、それが何か分からないのよ」

 子供が生まれ、幸せ絶頂期らしき相手の1か月後に、黄色い数字が見えるのだ。

「へえ。なら、何があったか、お知らせしますよ」

「ありがとう。お願いします」


 そして知らさせたのは、臨時収入だった。

 育児用品の会社主催の懸賞に、出産の話を投稿したら当選し、お祝い金をもらったらしい。その額は、出産費が賄えるほどだったらしく、副賞の育児用品と共にとても喜んでいた。


 黒 年齢

 赤 慶事

 青 不調

 黄 金運

 白 死期

 能力が、より詳しく分かってきた。赤には色味に種類があるようで、だんだん色を見分けられるようになってきた。


「まず現在の年齢は、23歳。結婚に至るのは、27歳。妊娠出産は、3度有るようですが、そのひとつに不調の色があるので、流産か死産か、体調不良の可能性があります。また、52歳の時に、金運の数字が輝いているので、なにがしかの収入があるようです」

「てことは、生涯独身はあり得ないってことですよね!」

「ええ、まあ」

「どうもありがとうございます!」


 1件辺り30分以内、5000円だが、予約が絶えない。ぱっと見て答えていると間が持たないので、使わないが大きな水晶玉を手前に置き、それを見て答えている風を装った。


 最初の頃は良かった。感謝されることはあっても、文句を言われたり恨まれたりはしなかったからだ。所が、何年も続けていると、教えてもらっていない不調があったと苦情を言ってくる者や、確かに結婚年齢で結婚はしたが、酷い相手ですぐに別れた等、責任問題だと騒ぐ者が出てきたのだ。

 真摯に対応し、追加でもう一度見て、より細かく伝えたり、返金をしたりもしたが、クレーマーは諦めてくれなかった。


「信用していたのに、裏切られた!」


 店の前で騒がれた。ほぼ営業妨害だ。裏切ってなどいないし、話したことをきちんと記憶していない客側の落ち度だが、証明しようもない。


「あなた、そんな嘘ばかり言っていると、天罰を受けるわよ? そのままで居ると、明日死にます」

 今まで、死期だけは告げたことがなかったが、明日の欄に白い数字が見えているのだ。


「そんな脅し怖くないわ!」


 時間までは分からなかったが、これでこの人が死んだら疑われるかもしれないと考え、警察に保護を願い出た。


 その日の夜中、日付をまたいですぐに、騒いでいた相手が石段から転げ落ちて亡くなった。同様に騒ぎ立てていた全ての客が、おとなしくなった。


 実は警察では全く相手にされず、受付でもめていたのだが、石段から落ちてきて動かない人が居るとの通報があり、無罪だけは証明された。


 死を予言したと評判になり、客があからさまに減った。気に入らない客に呪いをかけたと、まことしやかに噂されたのだ。


 年齢はともかく、婚期や出産期などが分かる時点で、死期だって分かりそうなものなのに、それだけは皆別枠らしく、一線を引かれてしまった。


 当たる占いだと思っていたものが、事実を見ているだけだったと言うのは、もう人の領域ではないのだろう。外れれば文句を言うのに、当たりすぎたら怖がられる。


 人々から畏怖され、誰も近寄ってこなくなった。


 ある日、鏡台の前に座り、ぼうっとしていると、己の頭上に、数字が浮かんでいるのが見えた。

「あ、私の年齢か」


 今まで、己の数字は見えなかったのだ。なのに、年齢の数字が見えている。そのまま鏡を見続けたら、白い数字も見えてきた。それは黒い数字に重なるように。


 死因は、衰弱死だった。

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