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ルナの森  作者: 葉山麻代


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3/11

透明

 森の中にあるその(ほこら)に祈ると、願いが叶うらしい。


 子供の頃からそんな話を聞いて育った。どんな願いが叶うのかは知らないけれど、絶対にその祠に願ってはいけないとも教えられた。



 その昔、警備の厳しい屋敷に侵入するために、姿を消したいと祈った者がいたらしい。その者の願いはすぐに聞き遂げられ、同時に、守るべき使用法が頭の中に入ってきたそうだ。


・1日の半分以上を変化した姿で過ごしてはいけない。


 なんだ、そんな簡単なことだけで良いのか。12時間も働くつもりなんかないし、余裕だな。この祠に祈らず、真面目に働いているやつらは、愚か者なんだろう。


 そう考え、まず自分の家で、姿を消してみた。


 オー手が見えなくなった! って、あれ? 服は消えないのか。そりゃそうだよな。


 仕方なく着ているものを脱ぎ、鏡の前に立ってみた。 見事になにも写らない。


 よし!俺は勝ち組だ!


 豪商の屋敷に侵入してみたが、ぶつかれば感覚があり、相手が驚く。存在がばれると面倒だと考え、人が寝静まった夜になってから行動することにした。


 見事侵入に成功し、大金をせしめ、揚々と大通りを歩いていた。コレクションされていた高価な酒も手に入れ、それを飲みながら機嫌良く歩いていた、所までは覚えている。


 痛い! なぜか足が痛くて動かない。自身が透明なため、今見えるのは酒瓶と、金の入った袋だけで、足の怪我も見えない。がしかし、ここ大通りで姿を戻して、素っ裸のところを人に晒すわけにもいかない。

 さんざん考え、路地裏まで足を引きずって移動し、姿を戻した。


 まだ夜明け前で人通りがなく助かった。そばに有る店の戸を叩き、追い剥ぎにあったと嘘を言って小銭を差し出し助けて貰った。


「なんだねー、下着まで剥いでいく追い剥ぎは、珍しいね。あんた災難だったね」

「本当だよ」

「下着は取られて金は無事とは、運が良いんだか悪いんだか」

「これはとっさに隠したんだ」


 幸い怪我は打ち身だけで、暫く休んだら、なんとか歩けるようになった。


 夜、出歩くのは、危険が多すぎる。

 

 そう思い、昼間姿を消して出来ることを考えてみた。そうだ、(くじ)屋の当たりを見てこよう。


 その籤は、店主がある1桁の数字を紙に書き、封筒に入れ保管する。客は希望の数字の紙を買い求め、締切日に封筒の数字と同じ数字であれば、5倍の払戻金が貰えるというものだ。


 こっそり封筒を見てみようと侵入したら、なんと、全ての数字の封筒が用意されていた。一番売れなかった数字を当たりとして公開するのだろう。なんてこった。


 俺は怒りに任せ、人にぶつかることも気にせずに歩いていた。そこへ、早がけの馬車が通り、俺は橋の下まで吹っ飛ばされた。




「痛たた」


 腰を打ったようで立ち上がれない。女子供までいる町中の往来で、素っ裸を晒すわけにはいかない。そうだ、夜まで待って、人気(ひとけ)がなくなってから帰れば良いな。


 痛みもあまりないので、のんきに考えていた。1時間たち、2時間たち、段々と痛みが増して、我慢できなくなってきた。変に動いたのがいけなかったらしい。


 助けを呼ぼう。姿を戻そう。声を張り上げよう。


「助けてくれー!」


 人々がキョロキョロと辺りを見回す。だが誰も橋の下に気がつかない。


「橋の下で動けないんだー。誰か助けてくれー!」


 その声に、人々は橋の下を覗き込むが、誰とも目が合わない。ふと気がつき自分の手を見た。


 何も見えない。


 吹っ飛ばされ、丸1日気を失っていたことに、考えが及んだ。


「助けてくれー!」

「嫌だ、嫌だ、この声はなんなんだい? お前は魔物かなにかなのかい?」

「俺は人間だよー」

「人の声真似をする魔物だろう。関わらない方が良い」


 それ以降、どんなに叫んでも、人々は橋の下を見なくなった。


 3か月後、全裸の腐乱死体となって発見されたそうだ。



 ところでこの話、誰がどうやって語り継いだんだろう?

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