表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白い散歩者  作者: こいし
3/3

感謝

前回から結構歩いてきたので、全体的な雰囲気が少し変わっている可能性があるようだ。

歩みはいつもと変わらない。しかし歩を進める度に視界が上や下へと忙しなく動く。

平坦で何も無かった軌跡とは一変し、今は不自然な程に積み重なったパイプや部品などのガラクタ上を歩いている。不規則に地面が凸凹しており、身体に負荷がかかる。


「まるでへいちだね」


「平地と言うにはかなり凹凸の激しい地形だと思われますが」


「その平地じゃなくて、斃れると書いて斃地ってことだよ」


「一般的に“斃れる”という漢字はそのような使われ方をしません」


CIGMAは周囲の状況を記録しながら歩いていく。ある程度の所まで来た時、少し足が重く感じられた。


「……これは、疲れってやつかな?」


声に出すと同時に、MemoriaはCIGMAに警告した。


「警告:電力残量が20%を切りました。このままでは活動を維持できなくなる恐れがあります」


「かなりまずいね」


その言葉とは裏腹に冷や汗ひとつ排気せず、変わらぬ口調で返す。この状況に置かれたら焦せるであろう人間の真似事のように。


「長く見積もって1週間で停止しますね」


「1週間も動けるんだ。じゃあ余裕だね」


「警告を出した意味を理解してください」


CIGMAらは、新たに充電出来るものを探す目標が仕方なく追加された。今までの白い世界では、そういった装置や電池を探すのは非現実的であったが、このガラクタだらけの地帯ならば何かしら残っているかもしれない。



_________________



「警告:電力残量が15%を切りました」


「面白くない冗談言うね」


まだ1日しか経ってないにも関わらず、予想より早く電力を消費している。このガラクタ地帯に入ったことによる足元の不安定さが一因であると考えられる。


「目的地に着くよりも充電出来るものを探す必要があります」


「...気が滅入る」


________________________



歩いても歩いても、錆びた鉄筋や有害物質を含んだガスで充満した変わらぬ風景しか見られない。機能停止が起きてもおかしくない。


「このままだと死んでしまうので、一時的に私のバッテリーをCIGMAに供給することにします」


残りの電力で何とか充電してください、と託すようにバッテリー切り替えの作業を始めた。

託された側は浮かない顔をしている。


「最初からそうすればもっと動けたんじゃないの?」


「この地帯に於いて、私の解析が無い状態で歩くのはかなりリスクが高いです。それでも残りが2%である事から、少しでもCIGMAが動いて捜索できた方が生存リスクが高いのです」


「ふーん、まぁ任せてよ。動けなくなったら…しょうがないか」


「失礼ながらあまり期待してないのでご安心ください。では、新たに充電出来た時に会いましょう」


「あ、ちょっと待って」


Memoriaへの一時的または最後の質問。


「はい?」


「目的地まであとどれくらい?」


「あと30kmです」


「距離増えてない?」


「どうやら発信地は動いてるようです。では、おやすみなさい」


左手が軽くなった。

足元が覚束無くなった。


「さてどうしようかな、目的地も何故か離れてるし」


残された手段が本当に充電出来そうなものを探すだけとなった。Memoriaのサポートが無くなったことにより、一歩一歩にリスクが伴う。仮に足元が崩れ、瓦礫の中に埋もれた場合は死が秒読みである。転んで脚を失ったら、充電切れをその場で待つという形になる。


「その時は空に飛んで行った風船がどうなったのか考えようかな」


CIGMAの持つ風船についてのデータは一部破損している。


_________________



5時間ほど歩き、少し開けた土地に出た。電力残量は約1%といったところか。

鉄臭さや刺激臭は、焦げ臭さと若干の植物による青臭さへと変わっていた。そこには雑草と土で斑模様のようになった地面の一部に似つかわしくない、白い突起物がたまに埋まっている。


「なんだろう。でも今Memoria動かしたら立ち上げの電力で死にそうだ」


その白い突起物は意外とすぐに正体がわかった。地震か何かで大部分が露出した状態で見つけたそれは、とても馴染み深いものだった。


「私と同じタイプの機械だ」


CIGMAのような人型の機械が、腰から下が埋まった状態で項垂れている。なぜそれがここにあるかは分からないが、どちらにせよありがたいものだった。

胸の装甲を乱暴に剥がす。その奥にはバッテリーが内蔵されているので力づくで取り出した。


「まぁまぁ残ってる。助かるね」


CIGMAはそのバッテリーと接続し、充電を開始した。Memoriaも直に目を覚ます。

ある程度経った頃、他の機体からも充電しようとした時に馴染み深い声が聞こえた。


「充電できた事は喜ばしいことですが、あまり褒められた行動はしていませんね」


「寝起きは機嫌が悪いタイプ?」


特に再会の感動もなく、普段通りの会話が始まる。


「あなたの行動は人で例えると、死体の皮膚を剥ぎ、肋骨を壊し、心臓を乱暴に抜き取ったような行為です」


「でももう動いてないじゃん」


「人間への理解を深めたいのであれば、死への冒涜は許されない行為であることを覚えるべきです」


へー、というような顔つきで2体目の露出した機械の前に立つ。胸から下が埋まっており、右腕は引きちぎれている。


「…分かった。じゃあこの辺のものから取っちゃダメってこと?」


「人間が充電、つまり栄養等摂取する際は食材に感謝を伝える文化が世界的にもいくつか見受けられます」


「なるほど、感謝ね」


そう言うと、しゃがみ込んで優しく頭を撫でた。


「どうも」


一言、届かぬ無機質な物体に優しく語りかけた。そのままCIGMAは先程よりも丁寧に、小動物を扱うようにバッテリーを取り外した。


「これでいいかな」


「それは彼次第です」


CIGMAは困った様子で首を傾げた。動かないし、聞こえてもいないであろう目の前の機械に感謝の決定権が委ねられているからだ。


「じゃあ分からないね」


「CIGMAは感謝をして、どう思いました?」


「う〜ん…でも、懐かしい?って思った。面倒に感じたけど、悪い気もしなかったし」


話してる内に電力残量は70%まで回復した。もう少し充電をしたいが、必ずしも電力が残ってる訳では無いので破壊は一体に済みそうにない。


「でも勝手に奪って感謝するって、変な感じだね。冒涜っていうより煽りじゃない?」


「私たちに出来ることはその程度ということです」


あまりにもちっぽけで、最低限であり最大限できる事でしかない。或いは罪滅ぼしのような食材への贖罪の重さはどれ程なのだろうか。

そんな責任の押し付け合いはこの世界では意味を成さない。


「まぁ私は悪い気してないから、感謝しようかな」


「ちなみにCIGMAが彼ら側の場合、感謝されたいですか?」


「私はどっちでも良いよ」


CIGMAは感謝をしながら胸に穴の空いた機械を増やしていった。

C「掘り返したのにバッテリー残量ぜんぜん無い物には感謝する気が薄れたかも」


M「所詮エゴですね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ