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ゲ製  作者: 刺草
/* 第1部 はじめての異世界転移 */
6/11

// 1-3 お使いクエスト

RPGにおけるパーティメンバーとは、つまるところ主人公の仲間である。


主人公の旅路に同行し、共通の目的を持つ仲間たち。


程度の差こそあれど、その能力は主人公に匹敵する。


もちろん、パーティ内におけるパーティメンバーの役割は様々であり、極端な例では戦闘能力が皆無でも、生活スキルや資金援助など、なにかしらの方法でパーティを支援することで貢献するキャラクターも存在する。


さて、話を戻そう。


私、ミヤ猫こと櫻井ミヤコは、いつの間にかサニアのパーティメンバーに加わってしまっていたらしい。


サニアとはこの世界における英雄であり、メタ的に言ってしまえば主人公だ。


その力は先ほどのドラゴン戦で実感した通り、私なんか100人いたって並ぶことはできないだろう。

とてもじゃないが、戦闘で私にできることは皆無だ。


では、その他の要素、生活力や資金力があるのかと言えばNOだ。


生活力に関しては一般人並みにはあると思うけれど、特別優れているというわけでもない。

資金力についていえば、そもそもこの世界の通貨なんて持ってないし、現実でも、どちらかと言えば困窮している方だ。


...一体、『システム』とやらはなんで私なんかをパーティメンバーに加えてしまったのだろう。


サニア曰く、パーティメンバーを任命・解任することができるのは『システム』のみだそうだ。

あまり詳しいことはサニア自身も知らないようだったけれど、察するに、この世界そのものが、私をサニアの仲間と認めたということなのだと思う。


それはつまり、この世界が私に何らかの役割を期待している...?


「あぁ、なんかテンション下がってきたぁ」


最近は落ち込むことが増えてきたなぁ。と言ってもここ数日の話だけれど。


...なんか、めっちゃ濃厚な数日間だ。



私とサニアは今、港町『ポートランド』の宿屋に滞在している。


ドラゴンを討伐し、森を越え山を越え、途中でまたドラゴンに追いかけられたりしつつ、数日かけてなんとか目的の港町に到着することができた。


サニア1人なら1日とちょっとで移動できる距離だったらしいが、貧弱な一般人たる私にはこれでも頑張った方だった。ほめて欲しい。


もうすでに短編RPGとは言えないくらいの時間をこの世界で過ごしている。

まぁ、さすがに数時間ですべての問題が解決するなんて思ってはいなかったけれど、それでも実感せざるを得ない。

この世界は間違いなく、一つの世界なのだ。


***


宿屋のベッドでぼーっとしていると、ドアをノックする音が聞こえる。


「はーいどぞー」


適当に返事をすると、手元に大きな袋を持ったサニアがドアを開けて入ってきた。

いつもの騎士装束ではなく、前に見た質素な衣類を着ている。

まぁ、質素なのは衣類だけで、その中身は金髪碧眼の美少女なのだけれど。


「遅くなって済まない、ミヤ猫殿に合うと良いのだが」


そう言ってサニアが取り出したのは、この町で購入したのであろう、衣類だった。


私がこの世界に来たときに着ていた部屋着はすでにボロボロになってしまったのだ。

まぁ、森やら山やらドラゴンやらを着替えもせずに越えてきたのだがら、むしろよく持ってくれた。


さすがにそのままの姿で町中をうろつくのは問題だったので、私が宿屋にいる間に、代わりの衣類をサニアに買ってきてもらうことになっていたのだ。


「ありがとうサニアぁ。お金とか、大丈夫だった?」


「あぁ問題ない。ドラゴンの素材がいい値段で売れたんだ。それに、ミヤ猫殿には綺麗な姿の方が似合うからな」


その気障っぽい言い回しに、私のぼんくらハートと黒歴史レーダーが同時に反応する。

慌ててサニアから視線を逸らし、告げる。


「あ、ありがとう。 で、さっそくだけど着替えたくて、その、いいかな?」


と、遠回しに退室を促す。

使いっ走りを頼んでおいて(それも奢り)、その上部屋から出ていけというのも酷い話だとは思ったが、家族以外の人間の前で着替えをするのはなんとなく気恥ずかしい。

それに、今回はほら、部屋着どころか、下着やらも替えが無かったわけでして。

さすがに、仮に家族の前であっても真っ裸になるのは厳しい。


「分かった。着替え終わったら声をかけてくれ」


若干の罪悪感はあったが、サニアはいつもの笑顔でそう告げると、ドアの向こう側へと消えていった。


なんか、サニアとの人間性能的な部分で差を感じてしまう。

あれが私から生まれたってマジですか?


***


「ごめんサニア、お待たせしました」


そう言って、ドアの向こう側にいるであろうサニアに声をかける。


「思ったより早かったな。着心地はどうだ?」


サニアが買ってきてくれたのは白いブラウスと黒いレギンスのような履物。

さらに、その上から着用するのであろう、ポンチョのようなベージュの外套と、腰装備の『蒼海拒絶そうかいきょぜつアクア・レクヴィエム』だった。


「ぐはぁッ!」


油断しきった精神に痛恨の一撃を受けた私はその場に膝から崩れ去る。


「どうした!? 何があったんだミヤ猫殿!?」


サニアが買ってきてくれた青を基調としたスカート型の装備は『蒼海拒絶そうかいきょぜつアクア・レクヴィエム』。


なぜ名前を知ってるのかって? 値札が付いてたんだよ!


このネーミングセンス、間違いなく中学時代の私そのもの。

こんなネームド装備仕込みやがって...。呪文やキャラ名はともかく、装備名までとは、油断していた。


ちなみに、レクヴィエムというのはドイツ語で鎮魂歌を表す。

いや、ならもう普通にレクイエムでいいじゃん! 何をそこまでドイツ語にこだわってるんだ!


「いいの、気にしないでサニア... あなたに罪はないから」


お腹にふんすと気合を入れて立ち上がる私。


でもまぁ、改めて確認してみると悪くはない。というより、部屋着と比べたらだいぶそれっぽい恰好になったと言えるだろう。


私が鏡を見ながらニヤニヤくるくるしていると、サニアが安心したように言った。


「うん、気に入ってくれたようで良かったよ。私が特に気に入っているのはその『蒼海拒絶そうかいきょぜつアクア・レクヴィエム』でな。『蒼海拒絶そうかいきょぜつアクア・レクヴィエム』はなんと、水属性のダメージをほぼ無効化するあの『蒼海結界そうかいけっかい・アクアヴェヒター』を着用者の任意のタイミングで一度だけ発動することができるらしいんだ。『蒼海結界そうかいけっかい・アクアヴェヒター』といえば、先日のドラゴン戦で使用した『焔障結界えんしょうけっかい・フレイムヴェヒター』と並ぶ大魔法だ。私ですらまだ未習得のその魔法を、回数制限があるとはいえ誰でも扱えるというのだから素晴らしいものだろう」


「ぐはぁっ!」


私は再度、膝から崩れ落ちた。


***


そんな出来事がありつつ、無事に外に出る服を手に入れた私は、サニアと一緒に渡し船の停留所へと向かった。


サニアの目的は、北の大陸で活動しているという水の災い『混沌のカリブディス』と、死の災い『怪異アリス』、それに、それらの裏で暗躍する『魔術師ギデオン』だ。


北の大陸に向かうには、この港町『ポートランド』にある渡し船を利用するしかないというわけだ。


ちなみに私は、サニアのパーティメンバーになってしまったので付いていく他ない。以上。


ーーいや、本当はそれだけではないんだけどね。


パーティメンバーの制約とは思った以上に厄介だった。

この町に着く前に何度か実験してみたのだけれど、サニアから大体5000歩ほど離れると、強制的にサニアの周囲に転送されてしまうのだ。

私やサニアの歩幅が70cmだとして、だいたい3.5kmと言えばわかりやすいだろうか。


それも、サニアのすぐ近くに転送されるわけではなく、目の届く範囲内、大体10mから50mくらいの範囲内に転送される。


仮に、私を置いて、サニア1人で船旅に出たとしよう。


初めのうちは優雅な船旅が待っているだろうけれど、岸から3.5kmほど離れた時点で、私は船の周囲50m以内に転送されることになる。


転送先が船の上ならまだいい。しかし、海に落とされでもしたら。

船がさらに3.5km進むまで、私は1人、洋上でぷかぷかとするハメになる。


と、そんな事情もあって私にはサニアに同行する以外の選択肢はないのだけれど、それとは別に事情が一つ。


どうやら、サニア...というか、『主人公』のみが閲覧できるという『チュートリアル』に、『現実』へと渡る方法についての記載があったらしい。


『チュートリアル』曰く、『現実』に渡るには、この世界を『クリア』した際に発生する光に触れる必要があるとのこと。


サニアはこの記述を読んだことがあったから、『光』というワードを口にした私を『現実』からの来訪者だと思ったのだろう。


そういうわけで、私はなんとしても、ゲームクリアのその瞬間に立ち会う必要が出てきたわけだ。




しばらく歩き、停留所に到着した私たちが船を探していると、恰幅のいい、日焼け姿の老人が話しかけてきた。


「なんだ、あんたらも渡し船を探してるクチか」


ぶっきらぼうな物言いに私がうじうじしていると、サニアが前に出て対応してくれた。


「あぁ、どうしても北の大陸に渡る必要があるんだ。見たところ、船が出ている様子がないが...なにかあったのか?」


サニアの言葉に、老人がうんざりしたような様子で続ける。


「最近、この辺りに海の魔物が現れてな。みんなビビッて船を出そうとしないのさ。まっ、かく言う俺もその1人だけどな」


そう言って、老人は自嘲気味に笑った。


「海の男を気取っていても、さすがに命と天秤にかけることはできねぇ。俺らは生きるために働いてるんだからな。働くために死んじまったら、本末転倒じゃねえか」


...うん、やっぱりいるよね、海の魔物。


海路を塞ぐ魔物は定番中の定番だ。なんなら姿形もなんとなく予想が付く。どうせタコかイカだ。

私ならそうする。そして、私が作ったゲームなのでおそらくそうなる。


「なるほど。確かに、そういった事情なら無理強いするわけにもいかないな。貴重な話をありがとう」


そう言って頭を下げるサニア。私もつられてぺこりと頭を下げる。


すると、老人は思い出したように話し出した。


「おっと、そういえば1人、当てがないわけじゃあねえぞ。渡し船ではないが、この町の漁業組合の長。あいつは生粋の漁師だ。今は漁期じゃないから船を出しちゃいねえが、奴なら海の魔物だろうとなんだろうと釣り上げちまうだろうよ」


なんだそのおっさん...かっこいいというか無謀というか...。


「なるほど、当たってみるとしよう。色々と世話になったな」


改めてそういうと、サニアと私はその組合長がいるという、漁師小屋へと向かった。


***


「別に船を出すのは構わないけどサ、タダってわけにもいかないんだよねー」


目の前の軽薄そうな男がそう告げた。


日焼けした顔に金髪姿、体のいたるところにアクセサリーを付けた、見るからにチャラいこのあんちゃんこそ、漁業組合の長、アーサーさんとのことだった。


私たちがいるのは漁業組合が管理している漁師小屋である。

話によると、アーサーさんの家でもあるとのこと。


いや、がっつり私物化してんじゃねーよ!


と、色々言いたいことはあるが、先ほど老人から聞いたとおり、漁師としての腕と矜持は本物らしい。


期待を込めた私とサニアからのお願いに対する返答が、先ほどの発言だった。


「ふむ、もっともな話だ。しかし、対価か...。悪いが、こういったことの相場には詳しくない。そちらの希望する金額を教えてくれないか?」


...サニアさんや、そんなことを正直に言ってしまっては、吹っ掛けられても文句は言えませんぞよ?


生暖かい目でサニアを見つめる私。


サニアのその言葉を聞いたアーサーさんが、舌なめずりをしながら、いやらしい目で私たちを見ると、こう告げた。


「へへ、気にすることはないぜ? あんたたちなら、そうだな... 体で払ってくれればそれでいいぜ?」


はい、はい、はい! 中学時代のミヤコさん、今度という今度は言わせていただきますけどね。


中学生がR18展開を自作ゲームに持ち込むんじゃねぇよ!!


というか、そんな描写入れた記憶ないよ、私。

これも、例の、ゲーム描写を現実に落とし込んでいる弊害なのか!?

私がゲームで描写していなかっただけで、本当はこういうことしてたってこと?


んなわけあるか!


私が1人あたふたしていると、申し訳なさそうな顔でアーサーさんが告げる。


「あ、期待させたみたいで悪いけどサ、あれだから。ちょっと肉体労働を頼みたいって話ね」


「うむ、初めからそう言っていなかったか? まぁ、そういうことなら力を貸そう」


サニアがアーサーさんの依頼を快諾する。内容もまだ聞いてないのに豪胆ですね。


私はというと、先ほどからなぜか顔が熱くて仕方がない。

多分きっと、赤くなっている。


勘違い?

ええそうでしょうとも。でも仕方ないのではなくて?

あのような誤解を招くような言い回しをした先方にも非があると思いますわ。


と、内なるお嬢様が気持ちを代弁する。

内なるお嬢様ってなに?


「南にある山のふもとに、船の燃料を管理している倉庫があるんだけどサ、そこから燃料タンクを4つほど持ってきて欲しいわけ。ほら、これが倉庫の鍵ね」


そう言って、アーサーさんは耳につけていたピアスの一つを外すと、サニアに渡した。


それ鍵だったんかい。


そもそも、日焼けしているのも、髪の色素が抜けて金髪になっているのも、別に彼がチャラいからではなくて、漁師として必然的にそうなったというだけなのでは?


中学時代の私がそこまで考えていたのかはさておき、アーサーさんは見かけよりもまともな人のようだった。


不真面目なのは私だけのようですね...。


「燃料さえ取ってきてくれれば、あとはこっちで船用意するからサ。よろしくー」


「分かった。しかし、いいのか? それでは結局、あなたに対して対価を支払ったとは言えないのではないか」


確かに、燃料を取ってくるのは私たちだが、しかしその燃料は元々アーサーさんたちのものだ。

船を出してもらう分、タダ働きをさせてしまうことになる。


アーサーさんは前髪が気になるのか、手鏡で髪を弄りつつ応えた。


「は?何言ってるのアンタ。世界の危機なんだからサ。英雄サマに協力するくらい当たり前っしょ」


アーサーさん、かっけぇ。


***


そうして、無事に燃料タンクの回収に成功した私たちは、アーサーさんが用意した船に乗り込み、北の大陸へと向かう船路についたのだった。

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