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ゲ製  作者: 刺草
/* 第1部 はじめての異世界転移 */
5/11

// 1-2 知らないうちに勇者パーティの一員にされていた件

ドラゴンの強襲からしばらく経ったころ、私とサニアは森の中を彷徨っていた。




あの後、討伐したドラゴンはぐずぐずに溶けてしまった。

驚きつつしばらく観察していたところ、最後には鉤爪の一部と、何枚かの金貨が残されていた。


なるほど、ゲームの都合をリアルに持ち込むと、こういう感じになるんだなぁ。


と、そんなこともありつつ、私1人では危険だからと、サニアに同行させてもらうこととなったのだ。


「ところで、名前を伺ってもいいかな?」

「あっはい、ミヤ猫です」


ついハンドルネームで応えてしまった。


そんな軽い自己紹介を交えつつ、サニアの行先について聞いてみた。


サニアの目的地は、先ほど竜が飛んできた山の向こう側にあるという港町らしい。

そこで船を借り、ここから北方にある大陸に向かうことが目的なのだとか。


サニアの登場するゲームの細かいシナリオは覚えていないが、私は基本的に、ゲームスタート地点を南、ラスダンを北に配置する癖がある。


つまり、サニアは順当にゲームクリアに向けて行動を進めようとしているみたいだ。


***


「ところで、ミヤ猫殿はなぜこんな場所に1人で居るのかな」


足場の悪い森の中を歩いているにも拘らず、サニアは息も乱さずに平然と私に話しかけてきた。

私はというと、慣れない獣道に悪戦苦闘し、転ばないように付いていくのが精いっぱいという体たらくだ。


無事帰ることが出来たら、ジムにでも通おう。


「えっと、光に包まれて、気が付いたらあそこに...」

と言いかけて、ハッと口をつぐむ。


私が認識する限り、今いるこの世界は、中学時代の私が作ったゲームの中としか思えない。

でも、そんなことをこの世界の住人であるサニアに伝えてしまっても大丈夫なのだろうか。


仮に、現実世界の私の前に身元不明の女が現れて、『この世界は私が作ったゲームの中なのです!』とか言い出したらどう思うだろうか。


ーーうん、考えるまでもなく不審者だ。


100歩譲って信じてもらえたとして、それはそれでサニア自身にショックを与えることになる。

サニアとは出会ったばかりだが、製作者としての愛着はある。


黒歴史云々の事情はいったん忘れておくとして。


私がどう伝えたものかと悩んでいると、サニアが驚いたような顔でこちらを見つめた。


「光に包まれた... もしかして、ミヤ猫殿は『現実』から来たのか!?」


「って、知っとるんかい!」


思わず突っ込んでしまった。

さっきまで私が悩んでいた時間を返せ!


急に大声を上げた私に若干引きつつも、サニアは笑顔を保って話続ける。


「あ、あぁ済まない。うん、『現実』のことは知っている。といっても、向こう側からやってきた人間を見たのは初めてだが」


「そ、そうですか」


まぁ、ならば話は早い。

私は、中学時代にこのゲームを作ったこと、ゲームをプレイしようとしたらこの世界に来てしまったこと、カメラを覗いていたらドラゴンに目をつけられてしまったことを話した。


「なんと、ミヤ猫殿は『現実』から来たというだけでなく、この世界の創造者だというのか!?」


「創造者だなんてそんな...へへ」


つい下卑た感じでニヤニヤしてしまった。

創造者って響き、いいよね...。

私の中の厨二マインドが蘇りそうになる。


「といっても、正直10年近く前のことで、私自身この世界のことはうろ覚えで...あ、でもサニアとか呪文の詠唱文とかは今でもなんとなく覚えていて、そしてその事実が私の心を苛んでいく...」


話していて、徐々に暗くなる私。

このゲームのことを思い出そうとすると、芋づる式に中学時代の黒歴史が脳裏にぷかぷかと浮上する。

...もしかして、このままサニアと同行してしまうと、あの呪文やこの呪文も目の当たりにすることになるのでは?


--シンプルにつらい。


「ふむ。創造者の苦労は創造物には理解ができない...ということか。力になれず申し訳ない」


サニアがこちらに向き直り頭を下げる。


「いや、大丈夫です。どちらかというと私の過失というかなんというか...。サニアやこの世界に罪はないので」


そう、罪があるとしたらそれは私自身だ。

それに、知らなかったとはいえ、こんな世界を作っておいて今まで放置していたのだ。

育児放棄なんてレベルじゃねえぞ。


セカイ系ネグレクトの罪から逃れるように、サニアに尋ねる。


「そ、それより、この世界のことをもっと教えて欲しいなー、なんてー、へへ」


と、そんな小物っぽい笑みを浮かべつつサニアにお願いする。


「あぁ、そんなことでいいなら喜んで。まずはそうだな...私の旅の目的について話そうか」


***


それから森を抜けるまでの間、私はサニアの話に耳を傾け続けた。


サニアの話をまとめると、こうだ。


この世界には、三つの災いと呼ばれる魔物が存在する。

火を操る邪龍ニーズヘッグ。

水を操る混沌のカリブディス。

死を操る怪異アリス。


災いたちはお互いにけん制状態にあり、長いこと均衡を保っていた。


しかし先日、邪悪な魔術師ギデオンによってニーズヘッグが討たれた。

均衡を失ったカリブディスとアリスによる争いで世界はめちゃくちゃ。

しかも、その裏では魔術師ギデオンが暗躍しており、いくつもの都市が崩壊の危機にあるらしい。


その状況を打破すべく、英雄の素質を持つサニアがカリブディス、アリス、ギデオンの討伐任務に任命されたのだとか。


...サニアに色々と任せすぎでは?

まぁ、多分この設定作ったの私なんだけどさ。


ーーと、それはともかく話を戻して。


少し前に、北の大陸にて災いたちの目撃情報があり、サニアは北の大陸に向かっているということだった。

そしてそのためには、港町で船を借り、海上を進む必要があるというのは先ほども聞いた通り。


なのだけれど。


「それ、多分、いや絶対、海上でボス戦になりますよ。私の性格的に」


このゲームのシナリオは覚えていないが、それでも自分の性格や癖、傾向からある程度は予想できる。


海路があれば水属性の中ボスを用意する。それ鉄則。


話を聞く限り、水を操る災いとやらもいるようだし、間違いないだろう。


「なるほど、創造者であるミヤ猫殿が言うのなら間違いないのだろうな。だが心配するな。たとえ何時いかなる場であろうと、私が油断することはない」


サニアはいつもの笑顔でそう私に微笑んだ。


やだ、この子かっこいい...。


思わず私のぼんくらハートに火が付きそうになる。

落ち着け私。これは中学時代の自分からの罠だ。


「と、ところで、サニアはどこでその、『現実』のことを知ったんですか?」


とっさに話を戻す私。ぐっじょぶ。


「大したことではない、なにせ私は『主人公』だからな」


そういうと、サニアは空中で見えないなにかをいじるような仕草を始める。


しばらくすると、彼女の纏っていた鎧が消え去り、質素な服に身を包んだ金髪碧眼の美少女の姿に変身した。


「このように、『主人公』である私は『メニュー』にアクセスできる。今のは『装備変更』を実行したわけだ」


サニアがまた空中で何かをいじると、先ほどと同様の騎士装備へと戻る。


「『現実』が存在することは、『チュートリアル』に記載されている内容から薄々予想していたというだけのことだ。ほら、大したことではなかっただろう?」


そういってほほ笑むサニア。


いや、十分大したことだと思いますよ?


急に現実離れした現象(いやドラゴンとか呪文とかすでに色々見てきたけれど)を目の当たりにして、若干放心状態の私。メニューってなんだよ。


ドラゴンとか呪文とかは世界観を崩さないように上手く落とし込まれているような印象はあったけれど、なんか急にメタっぽい要素が出てきたな...。


改めて、ここは私の知る現実世界ではないのだと確信したのであった。


「えっと、一応確認なんですけど、『主人公』以外の人ってこのことを知ってるんですか?」


「いや、知らないはずだ。チュートリアルにそう書いてあった」


そんなわけあるか! どんなチュートリアルじゃ!


どうやら、このゲーム。というか世界?は、私が作ったものと似ているようで微妙に異なる点が多い。


サニアがドラゴンを殺したときのグロ描写やその後の素材ドロップ演出なんかは、ゲームの都合を現実的に落とし込んでいるだけかと思っていたけれど、『メニュー』の存在は明らかに浮いているし、『チュートリアル』に現実世界がどうのこうのなんてことを書いた記憶は微塵もない。


そうなると、気になるのは一体どこまで私のゲームに忠実なのかということ。


このゲームは間違いなく短編RPGだ。なぜなら、中学時代の私に長編ゲームを作る技術はなかったからだ。


それでも、設定の凝ったゲームを作りたかった私は、当時ある手法を多用していた。

それは、主人公のステータスを高めに設定しておき、ボス戦以外は苦戦することなく攻略できるようにする、というものだった。


こうすることでレベリングや道中の雑魚戦でのテンポの悪さを解消することができる。

さらに、開発者目線から言えば、ボス戦以外のバランス調整を半ば放置することができる。


ゲーム製作において、デバッグ作業の次にモチベーション維持が難しいのがバランス調整だ。

モチベーションはゲームの品質に大きく影響する。

もっと言えば、それ以前に完成させられるか、エタるか、といったところにも影響する重要な要素だ。


デバッグは避けて通ることはできない。ならばバランス調整の時間を可能な限り節約したい。

そういう都合で、当時多用していた手法であった。


話を戻すが、このゲームもおそらくその手法で作成されたゲームの一つだと思われる。

先ほどのドラゴン戦からも分かる通り、サニアの強さは圧倒的だ。

普通の人間はドラゴンを投げ飛ばしたり、ブレスを軽くいなすなんてことはできない。


だが、そんなサニアと同等以上の力を持つ存在がいる。

中ボスやラスボスだ。


先ほども述べた通り、この手法は雑魚戦でのバランス調整を放棄し、モチベーションを維持することが目的となっている。

しかし逆に言えば、雑魚戦以外の、中ボス戦やラスボス戦なんかはしっかりとバランス調整を行う必要がある。

そこまで省略してしまったのなら、それはもうただのシナリオゲーだ。


つまり、それらの敵は、今のサニアと同等かそれ以上の力を持っていてもおかしくないということ。


具体的には、先ほど話にあったカリブディス、アリス、そして魔術師ギデオンあたりか。


サニアの強さは圧倒的だが、そいつらとの戦闘では死の危険が付きまとうことになる。


サニアは私が作ったゲームのキャラクターだ。

しかし、こうして相対していると普通の人間にしか見えない。

そんな子を、死地に向かわせてしまっても良いのだろうか。


そして、これが一番重要なのだけれど...そんな人に付いて行って、私は大丈夫なのか?



サニアは疑いようもなくこの世界のキーパーソンの1人だ。

私が元の世界に戻るためには必要不可欠な存在だと、私の直感が告げている。


でも、それで私が無事に帰れるのかというと怪しいところだ。


先ほどのドラゴン戦は数ある雑魚戦の一つに過ぎないのだと思う。

ここから先、あの程度の雑魚戦はいくらでも発生するし、なんならそれ以上の強敵との闘いも控えている。


そんな旅に、無力な私が同行したところで、良くてサニアの足を引っ張り、悪ければこの世界でご臨終、でっどえんど。


ーーうん、だめだ。この先の戦いに私は付いていけない。


「というわけで、私はこの森で待ってます。終わったら呼んでください...」


私がそういうと、サニアはどこか困ったような、不思議そうな表情で私に告げた。


「うん?どういうわけでそうなったのか全くもって分からないが... ミヤ猫殿はすでにパーティメンバーだから、離れることはできないと思うぞ」


サニアから、なにやらとんでもない発言が飛び出した。


「ぱーてぃ、めんば?」


「そうか、創造者とはいえ、『主人公』以外には分からないことだったな、説明が遅れて申し訳ない」


サニアは私に頭を下げつつ、話を続ける。


「ドラゴンを倒した際に『システム』からの通知があった。先ほど『メニュー』を開いた際にも確認してみたが、ミヤ猫殿は私のパーティメンバーに加わったようなのだ」


ぽかんとした顔で話を聞く私。


「『チュートリアル』によると、パーティメンバーの途中脱退は原則不可能らしい。悪いが、私と一緒に世界を救ってくれ」




櫻井ミヤコ24歳。ハンドルネームはミヤ猫。

ジョブはフリーター兼ゲームクリエイター(自称)。

気が付いたら、勇者パーティの一員になっていました。


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