// 0-2 裏
一方その頃、的な話です。
「妹よー、お姉ちゃんちょっと出かけるから。戸締りよろー」
姉の間抜けな声で目が覚めてしまった。最悪な目覚めだ。
もう少し寝ていたかったけど、さすがに戸締りせずに寝落ちするのは色々と危険だ。
気合を入れ、のそのそと布団から這い出て、ドアに鍵をかける。
姉とのルームシェアを始めてから1年くらいが経過していた。
半ば脅されつつ始まったルームシェアだったが、今となっては悪くはない。
姉妹ゆえに気を使うこともないし、喧嘩をすることもあるけれど所詮は姉妹喧嘩の範疇だ。
収入面でも、お互いに大差はないので気を使うことはない。
ドアに鍵をかけた流れで、洗面台へと向かう。
姉のせいですっかり目が覚めてしまった。
ちらりとスマホの時計を確認すると10時を示していた。
この時間では、さすがに姉を責めるわけにもいかないか。
そんな考えがよぎったが、かわいい妹の眠りを邪魔した罪は重い。やはり姉は有罪。
大きな鏡が嵌め込まれた、白い陶器製の洗面台に向かい合う。
毛先を青く染めた、ぼさぼさの髪が見える。
顔を水で洗い流し、髪を櫛で丁寧に梳かしていく。
以前、アーティストを気取って髪を青く染めてみたことがあった。
しかし、長らくメンテナンスを放置した結果、今ではプリンを通り越して毛先にのみが青く染まっていた。
ちなみに、髪を染めた際、それを見て茶化してきた姉がなんとなくムカついたので、ピンク色に染めてやった。
姉は即日黒染めを試みたが、完全には染めきれず、日の光に照らすと今でも赤毛のように見える。
ざまあみろ。
一通り髪を梳かし終わったころ、インターホンのチャイムが鳴る。
一瞬、姉が帰ってきたのかと思ったが、どうやら宅配のようだ。
荷物を受け取り、伝票を確認する。
差出人は母、宛名は私だった。
部屋に戻り、箱を開けると、中から出てきたのは見覚えのある古いノートPCだった。
姉にノートPCを受け渡し、その無様な顔を十分楽しんだのち、自室へと戻った。
姉の黒歴史を一緒に見て茶化してやろうかとも思ったけれど、そこはお互い様なのでやめておく。
中学時代のイラストとか持ち出された日には、きっと私は死んでしまう。
...そういえば、今度upするイラストがまだ描きかけだったな。
時間はまだ22時。もう少し進めてから寝るか。
ベッドの上に転がっているタブレットPCとスタイラスペンを手に取り、ペイントソフトを起動する。
スマホで推しの配信アーカイブを垂れ流す。
さぁ描くぞと気合を入れ、ペンを入れようとした瞬間ーー。
姉の部屋から、白い光が漏れだした。