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灯火  作者: 金子よしふみ
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第5話

 帰郷して、介護の他の懸念材料は職があるのかどうかと言う点だったが、三ヶ月経って知人のコネで入社が決まった。その知人も家の状況を知っていてくれていて、臨時職員としてではあるが、シフトが例えば病院とかがあった場合に都合がつきやすい利点があった。一年経ち、二年経ち、数年すると心境に変化が出てきたと、今にして思えば思い出せる。終業してから帰るのが億劫と思うことが多くなった。この後、介護があると帰りたくないと思いさえもした。もうすでに就寝しているであろう父の介護はさておき、何かをやらかしていやしまいかと、気がかりで仕方なかった。だから、何かをきっとやらかしていると心の準備をして帰宅するのだった。

 案の定、時にはそれは洗面所の水が出しっぱなしになっていた。時には台所の蛇口の水が盛大に出しっぱなしになっていてシンクからあふれ出しそうになっていた。蛇口を閉めながら、どうしたら、蛇口をちゃんと閉めてくれるだろうと思案がため息とともに思い浮かべられる。そんな思案の時間がもったいないほどプライベートの時間を惜しむ。とっととシャワーを浴びて汗を流す。父の寝室を覗いて寝ていることを確認する。仕事で出ている間父がどのような行動をとったのか、それはわからない。が、配膳しておいた食事を摂り、食器を洗い桶に浸しておいたのは言いつけしておいた通りだった。実家のガスは都市ガスではなく、プロパンガスなので月ごとに利用料は集金が来た。その集金の係の人が自分の親のことを言うのだった。それを聞いていたので自分の父の今が、その人の親のどのくらいのあたりの言動をしている指標となっていた。他にも高齢者の言動について耳にすることが多くはなかったがあったから、それも含めて今の父親はこれくらいなのかと判断をしていた。

(ということは、次の段階はこんな言動になって……)

 そんな心の準備にもなった。

 その心の準備がやはりなとなった出来事もあった。寝室には衣装ケースの上に紙パンツと尿取りパッドを置いていた。ふと寝室を覗いてみた時、紙パンツが袋ごと定位置にないことが度々あった。ベッドの下で見つけたり、隣の部屋の隅から発見したり、すぐに見つけられたので定位置に戻すのだが、何度も繰り返されるので父に問うた。

「なんで、紙パンツ隠すんだ?」

 あくまで怒っている気持ちは抑え込んで、単純に尋ねている風を装った。すると、父は

「○○が来て、隠すから」

 だとはっきりとした口調で言った。

「それならもうなんともないから、紙パンツは置いておけばいいから」

 念を押した。なぜなら、父が言う○○と言う人物は近所の、父から見れば従兄に当たり、もう何年も前に他界していたからである。それを理解できたのかどうか、その日から紙パンツの袋が動かされることはなくなった。


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