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灯火  作者: 金子よしふみ
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第3話

 父は、私から言わせれば年々おかしくなっていった。

 夜中一時に起きだして仏壇に行って、手にした懐中電灯を仏間のあちこちを照らしたり、夜中玄関を開けて自動車の助手席の前に立ち尽くしたりした。後者はその日がショートステイの入所日だったので丸々十二時間間違えていたといえなくもないのだが、玄関の鍵がかかっているとか、午後一時の出発ならそれまでの朝食や昼食を食べてないとかいくつもの疑問を飛び越えて、私から言えばやらかしただしたのだった。老健でも深夜に徘徊したり義替えを始めたりすることが生じたため、ベッド脇に立位時に鳴るセンサーシートが敷かれるようになった。

 夜中に起きてアイスを食べることもあった。冷凍庫を見れば箱アイスの在庫が前日と合わない。父の寝室のゴミ箱を見ればそのアイスの空き袋が捨てられていた。糖尿病だと言う自覚がないというか、普通の健常者でも夏夜中に起きだしてアイスを食べるなんてことが多いことはないだろう。

 こういったことのせいか、私は音に敏感になってしまった。寝ていても、父の寝室につながる戸が鳴ったり、開いたような気がする音がしたりすると目が覚めてしまうようになった。祥子は気にならなかったようだが、私には気になって仕方なかった。

 だからからか、早朝に父が今に起きだすと、私も起きなければならなかった。早朝と言っても六時とかではない、四時とかなのだ。特段何も用事もないと言うのに起きだす。例えばそれが日曜日とかならデイサービスへ行くと言う用事もあるだろうが、四時と言うのはまともではない。だから、私の気分は優れて芳しくなく、

「何考えてんだ!」

 とか

「そんなことをする奴が他に誰がいる!」

 とか

「こんなに起きておめえに何ができるって言うんだ」

 とか、怒鳴り散らしてしまった。それでも父が

「デイサービスが」

 とか反論することは一度としてなかった。どんなに私がキレていても、父は自分に言われているのかまさに馬耳東風で無表情のままだった。


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