57.キレネー山脈へ
宿屋メルキュールで再び一泊し、翌日私たちはキレネー山脈麓にあるサラエド研究所に向かうことになった。頼まれた物資は殆どが食料と調味料と薬であった。私たちは冒険者ギルドで渡された資金でこれらを集めるところから始めた。
「用意されてるものを運ぶものだと思ってた。買い出しから始まるんだ」
と、遥が一枚の紙を見ながら言う。
「食料の場合は鮮度の都合もあるので、当日に購入というのは当然の流れな気はします」
と、ヤニックがフォローするように言う。
「でも、空間収納に入れておけば鮮度は保てるでしょ?量も多すぎない?これ1年分の買い出しなの?」
という遥に対して、今度はマルセルが呆れたように言う。
「誰もが空間収納持ってると思うなよ。冒険者が持っているマジックバッグだって入れられる大きさが限られる」
「んー、まあ、この世界の買い物経験値上がるからいいけどさー」
こうして私たちは買い物しては空間収納に収納を繰り返して、買い揃えたところで首都シャルタルを出て、首都シャルタルから少し離れた人通りが少なくなった場所から車に乗り込んで出発した。
助手席に座るのはヤニックになった。私の後部座席に座るのがマルセルだ。意外だったけれど、昨日後部座席からも道案内が出来そうなことを確認したらしく、助手席に座ったことのないヤニックに助手席からの眺めを体験させてあげたいということだった。
初めての助手席&初めてのキレネー山ということでヤニックは感動と興奮が混在しているような反応をしている。
マルセルは様々な場所を徒歩や馬で走りまくっていたようで本当によく道を知っている。今回も基本的には田舎道をひたすら山に向かって走っていく形だったけれど、道中も順調に道案内をしてくれた。
「ただ、このサラエド研究所は行ったことがないんだよ。案内も小難しくて」
マルセルはメモを見ながらピンと来ていないという風な顔をする。
「研究所があるくらいだから、道は繋がっていると思うんだ。森の中を歩いていくということはないと思うんだが、メモを見る限り道は途中で途切れてて森が最終地点への入り口なんだよな」
不安しかないけれど、私たちはひらすら車で進んでいく。そして、キレネー山脈に近づいて道が登り始めたところで、
「道が途切れちゃったよ」
と私は車を停めた。
マルセルが言うとおり道の切れ目に到達して、目の前には森が広がっているだけになっている。
私たちは車を降り、私は車を空間収納に入れた。
「この森を抜けていくんですか?」
ヤニックがマルセルに問う。
マルセルは紙を見て、
「そうなんだが、抜けるとは思えない。可能性があるとしたら…」
遥が「あるとしたら?」と相槌をうつ。
マルセルが紙のある部分を指して、斜め上を見た。
「森の中に転送する魔法陣がある?」
遥は「魔法陣!」と急激にテンションを上げた。
私はマルセルに訊く。
「それってロランス様が言っていた移動手段?」
「そうだ。王家直属の研究機関だから、正確な場所が知られないようにするためとかいう理由で魔法陣で移動する形にしてるとかあり得る」
私は疑問が浮かんだ。
「でもさ、魔法陣作れるくらいなら、首都シャルタルから魔法陣で移動すれば良くない?わざわざ冒険者に荷物運ばせる必要があるとは思えないんだけど」
「長距離転送の魔法陣は禁止されてるんだ。だから全ての転送系の魔法陣は比較的短い距離になっている」
「なるほど」
マルセルが先導する形で私たちはメモの通り森の奥へと入っていく。
「あ~、なるほど。この木の手前で右に60度の方向に55歩進む」
そう言いながらマルセルは進んでいく、私たちはその後を付いていく。
そしてマルセルは「あった」と言った。
そこには小石を土に埋め込む形で作られた魔法陣が存在していた。
「まずは俺が行く。俺が消えたら、すぐに追わずしばらく待っていてくれ。この魔法陣確認後に戻ってくる。俺が戻ってこないようであれば、一旦今来た道を戻ってくれ」
マルセルは真剣な顔でそう言った。自分が実験台になるという宣言をしたようなものだ。
「大丈夫なの?」
私は心配で訊ねる。
「長年冒険者をしてて、こういうのには慣れてる。それに俺はウィザード・ロランスからあんたたちのサポートを指示されてる。これはその業務の一環だ」
頼りになる男マルセル再び、である。
こうして、まずはマルセルが魔法陣に足を踏み入れた。予想通りマルセルは消えた。
「消えた!」
と遥は反応したが、心配というより興奮というニュアンスが強かったように思う。
ヤニックは魔法陣を心配げにじっと見ている。
しばらくして魔法陣が光り、マルセルが戻ってきた。
「大丈夫だ。これが研究所への入り口だ」
そして私たちは、マルセルに続いて魔法陣に入っていた。




