50.城?砦?
宿の確保の無事終わり、私たちは当初の目的である温泉に向かうことになった。
「そういえば宿代確認してなかったけどいくらになるの?」
遥がアルノルドに訊ねる。
「たしか銀貨4枚ですかね」
アルノルドの答えに対して、遥が「安っ」と驚く。どうやらこの世界の金銭感覚が身についてきているようだ。
今度は私がアルノルドに訊ねる。
「宿屋に温泉が付いているわけではなく、別の施設を利用する形なんですか?」
「そうですよ。夏子さんの国では宿屋に温泉があるんですか?」
「ええ、宿によっては各部屋にも付いてます」
私の答えにアルノルドだけではなく、マルセルとヤニックも「えっ!」と驚いた。
「そういう宿はお高めですけど。たぶん、この世界でいうと1泊銀貨50枚くらいですかねえ」
マルセルは口をあんぐり開けて、
「そんな宿には絶対泊まらない。手頃なアパートの1か月の家賃だよ」
ヤニックは首を横に何度か振りながら、
「この2日間で、今まで僕が暮らしていた世界は本当に小さかったと早くも思い知りました」
この人たちが今の日本に来たらどんなことを思うだろう。そんなことを想像しているうちに温泉施設に到着した。
外観はオペラ座のような、凱旋門のような、太くて高い柱が何本もある大きな門が出迎える。奥に城のような砦のような大きな建物があり、その道中の両脇には湯気の昇る温泉の滝が流れている。
この地を初めて訪れた私と遥とヤニックはそれぞれ思わず声を上げる。
「何これ」とヤニック。
「すごー」と遥。
「テーマパークみたい」と私。
「ここは元々、王の保養地だったんですよ。それを前国王が庶民に開放して今に至ります。とはいえ、王の保養地時代そのままではなく、観光用にかなり改装されていますが、この両側の滝と正面の建物自体は当時のままなんですよ」
アルノルドが説明してくれた。
私は「へえ」と感心の声を出してしまった。
「私、銭湯みたいなのを想像してたよ」
という遥の言葉に、私は頷いた。
城のような砦のような建物に入るために、チケットカウンターでチケットを購入する。その際に入浴用の服の持参はあるのか確認され、無いと答えるとレンタル代も払うことになった。
入場ゲートを通り抜けながら、
「入浴用の服?頭とか体とか洗えない感じ?」
遥が私に言ってくる。
それに対してマルセルが、
「服着ないで入る気だったのか?」
と訊いてきた。
「温泉て普通裸でしょ?」
「お前の世界の普通っておかしいな。あと、一応洗い場はある」
「それは良かった」
今度はヤニックが会話に加わってくる。
「金額にビックリしたんですけど」
それに対して遥が同調する。
「私もビックリした。今日の宿代の倍じゃん!って」
それに対してアルノルドが、
「中に入れば納得しますよ。ちなみにチケット代には食事代も入ってますからね」
私と遥とヤニックは同時に「そうなの?」という反応をした。
中に入ると天井の高いホールが出迎える。脇にレンタル服貸し出しカウンターがあり、私たちはサイズを伝え、チケットと引き換える形で入浴用の服とを借りる。水着ではなく、黒いノースリーブワンピースのようなものだった。その下に黒いショートパンツを履くらしい。
次に更衣室に向かう。男女分かれるのかと思ったら同じだった。
「別じゃないの?」
私は驚いて訊くと、マルセルは何を言ってるという風な顔をして、
「何を驚いてるんだ?どうして分ける必要がある?」
と更衣室に入っていく。アルノルドも続いて入っていく。他の客も男女問わず入っていく。
私と遥とヤニックは顔を見合わせてから、続いて入っていく。
中に入ると洋服屋の試着室のようなものが並んでいる。
「まずは、この個室で入浴服に着替えてください。その後荷物や今着ている服はあそこのカウンターに預けてください」
アルノルドの案内に従って、私たちは空いている個室に入り入浴服に着替え、荷物をカウンターに預ける。代わりに腕に巻く番号札を貰う。この札は荷物の引き取りに使うので無くさないようにという指示を受ける。気を付けなければならない。
荷物カウンターを抜けると、そこには様々な大きさ、様々な形の浴槽があった。大きなガラス越しに見える外には50mプールかと思うような大きなプールが広がっていた。




