24.ヤニックの悩み
私たちは今の一件でマルセルへの信頼感は上昇し、彼の方針に従おうとする気持ちを強めた。そして、そのまま今後の方針の話をしながら進むかと思いきや、遥が突然話題を変えてきた。
「そういえばあの人たち、私たちがロランスの客だと納得まで早かったね」
遥がマルセルに言うと、マルセルは何を言ってるんだ?という顔で遥を見返した。
「ロランス様の招待状を持っていて、明らかにこの国のものではない服を着ている人間が目の前にいたら納得もするだろう」
私と遥は同時に「あ…」と互いの服を見た。私はスーツ、遥は高校の制服。自分たちがこの世界では違和感のある服を着ていることを初めて認識した。
「服、変えた方がいいのかな?」
遥はマルセルに聞いた。
「目立ちたくないなら変えた方がいいだろうが、今のように見た目だけで異国人だと一発で分かるから逆に便利になる場合もあるぞ。それに服買う金もないだろ?」
「ない」
「それでも服変えたいか?」
「せめて夜寝る時くらいは服変えたい。いくら魔法で綺麗にできるとはいえ、日中も寝る時も同じ服はちょっと嫌かな」
「だったら、首都シャルタルで寝間着買えるくらいは稼ぐ必要があるな。冒険者ギルドに登録した後に港町に進んでもいいが、冒険者の仕事の数は首都シャルタルの方が圧倒的に多い。そしてぬるい仕事も多い」
「どれくらいの期間で服が買えるようになる?」
「それは仕事によるし、今何の仕事があるかギルドに行ってみないと分からない」
私はヤニックと並んで歩きながら、二人の会話を聞いていた。
すると、ヤニックは私に申し訳なさそうに話しかけてきた。
「マルセルさん、頼りになりますね」
「意外だったね」
「意外でした?」
「うん。昨日の様子しか知らないから、魔法が使えないのに何故ロランス様の弟子を名乗ってるんだろうという印象しかなかった」
ヤニックは「ああ」と納得の声を出してつつ、
「でもすごく頼りになる存在ではありましたよ。ロランス様はちょっと抜けているところがあって、そういった部分をフォローしていたり、食事のときとかは冒険者の経験を生かして率先して動いてくださったり」
今度は私が「ああ」と納得の声を出した。ヤニックの発言もまた、昨日の様子で見て取れたからだ。
「それに比べて僕はまだまだで」
「だってまだ12歳でしょ?」
「もう12歳です。もっとしっかりしなければいけないのに、本当はもっと早く村を出て経験を積まなければならなかったのに自信が無くて」
「いやあ、これからでしょ」
「次期村長と子供の頃から言われ続けたこともプレッシャーで…」
ヤニックは見た目に寄らず自己肯定感が低いタイプなのかもしれない。新卒で入ってくる子の中にもよくいるな。最初は人見知りで積極性はなくてネガティブで心配になるんだけど、褒めると伸びるというか、その子の特技を伸ばしてあげることで自信がついてきて意外な戦力になるタイプ。
日本の常識がこの世界の獣人族にどこまで通じるかは分からないけれど、こういうタイプへの自分の接し方はこうだ。無理させない。彼の特技を生かして自信を持たせる。
「無理にしっかりしようとしなくてもいいんじゃない?」
私は言った。
ヤニックはビックリしたように私を見た。
「この旅をしている間に成長していけばいいんだよ。マルセルを見て勉強したりさ、やったことないことに挑戦したり、まだ気づいてない特技が発見できるかもしれないよ」
「気づいていない特技…」
「もしかしたらお父さんだって昔はそうだったかもしれない。だからヤニックにも旅させて、色々な経験をしてもらおうと考えたんじゃないかな」
ヤニックは一瞬口をつぐんでから、小さく笑った。
「頑張ります!」
「うん、その調子で!」




