第六話 今後の指針
冒険者を大勢、女神の泉に呼び寄せて、大量に武器を落としてもらう。
その武器を全部オリハルコン・ミスリル化、女神の泉コアの魔力を枯渇させる。
そして脱出!
……と指針は決まったわけだが、
「どうやってじゃ?」
「今、考えてる」
具体的な方策は未定だ。
こちらから外にアクションが起こせないため(ドロップのスキルは使えたが)、人に呼びかける事が出来ないのだ。
「さっき剣を変換してやった冒険者たちが、その話をギルドで広めてくれれるかもしれない。
そうすれば、次から次へと冒険者たちが押し寄せて……」
「そう上手くいくかのー」
――三日後。
「……誰も来ないな」
「来ないのー」
くそ、あいつらオリハルコンの武器が手に入った事、周囲には秘密にしてやがるな!?
強い武器を独占することで、ギルド内ランキングを駆け上がるつもりらしい。
今頃、上位クエストをバンバンこなしているに違いない。
「だから言ったじゃろ。そう世の中は甘くないのじゃ」
「千年を引きこもってる女神が言うと説得力があるなー(棒)」
「じゃろ?!」
だめだこの女神、皮肉に気づいてない。
「……しかし本当に三日三晩、水も食べ物も口にしてないのに全然平気だな。
腹もすかないしトイレに行きたいとも思わない。その上眠くもならない。
こりゃ、時間を持て余すなあ」
「じゃろじゃろ!?
だからあ、年頃の男女が閉じ込められた部屋でやる事は……一つしかなかろ!?」
「腕相撲かな?」
「なんでじゃあー! じゃが負けんぞ!」
結局やるんかい。
って、よく考えたら骨を折るほどの腕力じゃないか女神。
見た目はめっちゃ細腕なのに。無理無理!
「ちぇー」
「遊んでる場合じゃない、ちゃんと外に出る方法を考えなきゃ」
しかし、この調子じゃ何年かかっても脱出は不可能。
エルナがラードルフにいいようにされてないか、心配だ……
とその時、例の映像壁がぶんっと音を立てて、外の様子を映し出した。
「来たか? ……ってエルナ!?」
泉の近くへとふらふらやってきたのは、聖女エルナだった。
ラードルフと一緒かと思いきや、一人だけのようだ。
「たった一人で、この森のダンジョンを泉までやってきたのか。
一体なんのために……?」
だが、さすがは聖女と言ったところか。この森を一人でも突破できる戦力。
彼女の退魔系魔法と、防御系魔法、回復系には大いに助けられたものだ……
「ティム様……どこへ行ってしまったのでしょう……
いつもの日課がこなせず、わたくしはとても不安定になっています。
どこへ……いったいどこへ……」
むう、俺を探しに来たのか。
ラードルフにどう言われたのかは分からないが、まだ生きてると思ってるようだ。
つか、日課ってなんだろう。俺と関係があるっぽいのだが。
俺と何か毎日やってた事なんて、まるで心当たりがない。
「誰じゃあの女は!? おぬしとどういう関係なのじゃ!? 日課とは何か!?
ま、まさか大人のかんけ」
「そっち方面の発想をいい加減やめてくれ!
……だがチャンスだ、いやしかしこっちの声は届かない。何とかして彼女に伝えたいが」
バンと映像壁に手をつくが、エルナがこちらに気づく様子はない。
「ティム様……」
映像の中のエルナは、悲し気に泉をのぞき込んでいる。
「だめじゃ! あの女のあの目、確実にお主にほれ込んでおる!
でかい石でも落として、驚かせて追い返すのじゃ!」
俺のスキルをそんなことに使わせるな!
そもそもここは森だし、落とすつっても……
……いや、落とす? 石を?
「……それだ」
「じゃろ!?」
「違う、驚かすんじゃない。ものが落ちる音で、信号を伝えるんだ」
俺たち冒険者は、戦闘中に敵の魔法により一切喋れなくなったり、視覚が奪われるような事態におちいる事がある。
そうなると、言葉やジェスチャーによる連携に支障が出てしまう。
そんな時に、仲間に伝えるための『音による信号』が設定してあるのだ。
これは冒険者ギルドが取り決めた、共通の音信号だ。
そしてここは森。石はないが、樹上には固いボックリの実がたくさん生っている。
「【ドロップ】! 【ドロップ】! 【ドロップ】!」
俺は画面に向かって、連続してスキルを発動させた。
すると、ダンジョンの天井から実がぱらぱらと落ちてくる。
実の落ちる間隔を、上手い事調整して……
エルナ、気づいてくれ!
「……あら? この音……」
コン。ココン。コン……ココン……ココココ……コン。
実が地面を打つ音に、一定のリズムがある事にどうやらエルナが気づいたようだ。
「……こちら、ティム。ティム様!? やはり生きておられるですね!? 今どこに……
頼みたいこと、ある? ……冒険者を集めろ。たくさん。なるべく口の軽い奴、選んで……
そしてこの……泉? に、武器を、投げ入れさせてくれ? 安物、でいい……?」
通じた!
「そして聞かれたことに、素直に、答えてもらえ?
そうすれば、俺、助かる? 勇者に、気を付けて? ラードルフの事なのでしょうか?
助かる? ティム様、どういう状況なのかは分かりませんし、冒険者たちを集める事の意味も分かりませんが。
なにか、危機にあるのですね? この近くに、あなたはおられるのですね?」
そうそう!
頼む、エルナ!
「わかりましたわ! しばしお待ちください、今すぐ冒険者たちを呼んできます!」
エルナが身をひるがえし、森の出口方向へと駆けていくのが見えた。
よし!
思わずグッと拳をにぎる。
これで、大量の武器をゲット、じゃない、変換できる!
「脱出できるぞ俺たち!」
とカリンへ振り向くと、
「その前に、あの女とどういう関係なのか全部教えるのじゃ!
場合によっては、女をこの斧の錆としてくれようぞ!」
金と銀の斧をカチカチとぶつけ合わせながら、どす黒いオーラをまとった泉の女神がそこに居た。
俺は黙って彼女から斧を取り上げた。
「ああん」