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第二十二話 エピローグ

 カランカラン、とドアの鈴が鳴って、来客を告げた。


「こんにちわ。今いいかしら」


「いいですよ」


 俺は、入って来た客に笑顔を向ける。


「これなんだけど、結構しつこい汚れで……」


「任せてください。二分で終わらせますよ」


 若い女性の客が持ってきたのは、相当に汚れた皮鎧だ。

 冒険者、それも軽戦士をやっているのだろう。

 

 返り血や泥がこびりつき、あちこちが黒く変色している。


「ここに吊り下げて……【ドロップ】」


 天井から下がっている紐に鎧を結び付け、俺はスキルを発動させた。

 目標は、『汚れ』。


「……わあ! す、すごい、どんどん綺麗になっていく!」


 女性が声を上げた。

 皮鎧から、汚れだけが引きはがされたように、床にどんどん落ちていったのだ。


「はい、完了です」


「ほとんど新品になっちゃった! ありがとうございます!」


「スキルによる汚れ落としは、本体が痛まないのが売りです。またどうぞー」


 女性の軽戦士はほくほく顔で帰って行った。



 ――俺は今、この街でクリーニング屋を営んでいる。街での評判も上々だ。

 スキルを使って『汚れ』を【落とす】……

 

 冒険者を引退した今、こうやってのんびりと日銭を稼いでいるわけだ。

 

 店は、例の『金のティム像』を切り売りした金で建てた。

 はっきりってこの像だけで一生食っていけるとは思うが、ただただ遊んで暮らすのも性に合わないと思い……

 地味だけど人々に喜ばれる仕事をしている、というわけだ。



「おい、子分一号! 出番なのじゃ!」


「分かりました! カリン様万歳!」


 カリンの命令で姿勢を正し、さっと床の汚れを掃除しだしたのは、ラードルフだ。



 ラードルフに取りついた魔王を排除した後……

 正気に戻ったはいいが、なんと記憶を全て失ってしまっていたのである。


 医者に診せても、元に戻る見込みは無さそうだと言われたので、


「なら、わしが引き取って子分にしてやろう! そして真っ当な人間にしてやるのじゃ!」


 とカリンが教育係? を引き受けたのだ。

 ただのパシリやらせてるだけにしか見えないけども……


 ただ、何もかも忘れたラードルフは非常に素直で従順だった。

 こちらも店員がいるに越したことは無いし、普通に働いてくれるので助かってはいる。


「お昼ご飯ですよー」


 と店の奥から現れたのは、聖女エルナ。

 エプロンが地味に似合う。


「やっほう! 子分一号はこの後、買い出しと洗濯と靴磨きと街のゴミ拾いじゃ!


 昼飯はそれからじゃ!」


「分かりました! カリン様万歳!」


 非情な命令にも文句ひとつ言わず従うラードルフ。

 やや可哀想かもしれん。

 あと、変な応答をさせるのも止めさせなければ。



「ごちそうさんなのじゃ!」


「今日の料理も美味かったな」


「ありがとうございます」


 エルナの手料理に舌鼓をうち、一息ついて寝転がる。



 世の中は平和になった。

 冒険者の仕事は相変わらずあるみたいだが、超強力な武器を皆が持ってるため、クエストは常にスムーズにクリアされている。


 俺のスキルも、平和な使い方で人々を喜ばせる事が出来ており、日々が充実していた。 


 

「次の休みは、どこへ行くのじゃ!? なあなあ!」


 とカリンが俺の腕を引っ張った。

 毎月、一定期間の休みを取って、俺はカリンを連れて世界の各地を巡っている。

 

 千年間も引きこもってたカリンを、色んなところへ連れていくのだ。


 目をキラキラさせながら好奇心いっぱいで駆け回るカリンは、微笑ましいものがある。

 歪んだ心も少しずつ真っすぐになって行ってる、気がする。たぶん。


「次は、そうだなあ。大きな図書館が出来たという隣町に行ってみるか」


「図書館かー! 本がいっぱいあるのじゃろ! 


 燃やすと爽快じゃろうな!」


 ……千年かけて歪んだ心は、元に戻るにはやはり相当の時間がかかりそうだ。


「あらあら楽しそうですね。わたくしも遠出の準備をしなければ」


 そんな感じで。

 休みはカリンと手を繋いで色んなところへ出かけ、後ろからエルナがひっそりつけてくるという

 平和な日々を送っている……



おわり

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