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第二話 勇者の野望 side:ラードルフ

「やれやれ……」


 ティムのやつを始末するのに成功したことで、安堵のため息をつく。


 くそ重い鉄像を浮かばせたため、やたら魔力を消費してしまった。

 しかし、これからを思うと、自然と含み笑いが込み上げてくる。


「ふ、ふふふ。これで聖女と二人きりのパーティとなったわけだ。


 勇者と聖女、美しい組み合わせだ。まるで物語のようではないか」


 収まるべきところに収まったという思いが、思わず独り言に出てしまう。


「そもそも勇者と聖女と弱体士、などというパーティ……


 いらぬ混ぜ物のせいで台無しになった料理がごとく、だ。全く」


 ふんと息を吐き、エルナの帰りを待つ。

 そのとき……

 泉の、ちょうどティムが沈んだあたりに、泡がぼこぼこと湧き始めた。


「!?」


 まさか、ティムが鉄化を解除し、浮上してきたのか!?

 あの程度のやつに、そんな事が出来るとは思えぬが……!

 

「だが、もしそうであれば。

 

 水面に顔を出した瞬間、今度は攻撃魔法で仕留めてやる……!」


 と身構える。

 が、水面に上がって来たのはティムなどではなかった。


 白い薄物をまとった、美しい金髪の幼女だった。


「な……こ、これは……なんとなんと……」


 後光がささんばかりの神々しさ、まさに女神というにふさわしいだろう。

 個人の好みとしては幼すぎではあるが、見とれずにはいられない!


 その謎の美幼女はこちらを向くと、


「あなたの落とした弱体士は、この金の弱体士ですか?


 それとも、この銀の弱体士ですか?」


 と問いかけてきた。


「……は? な……?


 何を言っている……金、銀だと?」


 確かに、謎の幼女は両脇に金と銀の像をかかえているが……

 その像はどういうわけか、ティムの形をしている。


「訳が分からぬ……しかし。この女、金とか銀とか言っているが」


 あの輝き、魔晶黄金オリハルコン魔晶銀ミスリルだぞ……!?

 【鑑定】スキルを使ったから間違えようもない!


 それらは伝説の超希少金属であり、1グラムあるだけで一生贅沢三昧で暮らしていけるくらいの貨幣価値がある!


 それが、等身大の像ほどもあるだと!?


「あの……聞こえませんでしたか? 


 あなたの落とした弱体士は、金ですか? 銀ですか?」


 また美幼女がそう問いかけてきた。

 なんだ……もしかして、答えた方を貰えるというのか?

 

 それなら、答えは一つだ!


「当然……金だっ!」


 オリハルコンはミスリルのさらに三倍の価値があるのだ!

 貰えるのであれば、より価値の高いほうだ!!


「……」


 だが美幼女は、その端正な顔を露骨にゆがめ、


「くそぼけが……」


 と吐き捨てて泉にゆっくりと沈んで行った。

 あ、あれ?

 貰えるんじゃないのかよ!!


 


「おまたせしました、ラードルフ様」


 とそこへ、聖女エルナが花摘み(暗喩)から戻って来た。


「あ、ああ……」


 我に返り、あいまいな返答をしてしまう。


 さっきの出来事はなんだったんだ……

 意味が分からなすぎて、白昼夢でも見たような気分だ。


「あら? ティム様はどこへ?」


 エルナが周囲を見回している。

 そういえば、その件があったな。


 落ち着きを取り戻し、用意していた答えを告げる。


「いや、ティムのやつがな。エルナの様子を覗きにいかないか、と誘ってきおってな……


 私は激怒し、人としての在り方を説いてやったのだ。


 やつはキャンとひと鳴きして、森の奥へ逃げていきおったよ……」


「な……なんですって……!?」


 聖女は驚きに目を見開き、おろおろと周囲を見回している。


「そ、それではこの危険な森に一人きりで?


 わたくしは神聖魔法による加護がありますが、ティム様は身を守る手段に欠けています。

 

 探しにいかなければ……!」


 あ、あれ……

 思ったより引かないな? 

 

 やつはエルナが、……しているところを覗きに行こうと言ったのだぞ!?


「ば、バカなことを。やつは下劣で、破廉恥な行いをそなたにしようとしたのだ!


 もうあのような輩はほっとくがいい」 


「そんな……!」


 なぜ嘆くような顔つきをする!? そこは嫌悪の表情を浮かべるところだろう?

 

「それに、もう今回の探索は潮時だ。そなたも体力、魔力量と共にもう限界であろう。


 ティムに続き、そなたまで失う訳にはいかぬ。彼の救助は、明日以降にするべきだ。


 まずは我々の回復が先だ」


「……」 


 一応の正論と思えたのか、エルナは黙り込んだ。やれやれ。


 まあ、やつは既に泉の底だがな。

 この女の気がすむまで、またこの森を鍛錬がてら探索するのも良いだろう。

 

「……ところで。


 そなた、泉から女が現れて、金か銀かの二択を迫られたこと……あるか?」


 とエルナにそれとなく聞いてみる。どうにもさっきの出来事が気になるのだ。

 聖女はうなずき、


「知ってます。――大昔、勇者が泉に剣をあやまって落としてしまう。


 すると泉から女神が現れて、金の剣と銀の剣、どちらを落としたかと問う……


 勇者は、素直に自分の剣と答えました。


 すると、女神が金と銀の剣を授けてくれたのです。


 その金と銀の剣で、魔王を倒し、この世に平和をもたらした、という」


「じ、実話だというのか!?」


「いえ……ただの伝説、おとぎ話のたぐいだと思いますが。


 それがどうかしたのですか?」


「……」


 私は泉を振り返り、手持ちの短剣を泉に投げ込んでみた。

 しばらく待つも、例の幼女が出てくる気配はない。


「ここがその泉だと?」


 エルナがいぶかしげな顔をする。


「い、いや……と、とにかく。


 もうここからは撤退しよう。私ももう休みたい」


 未練ありげなエルナをうながし、私は森の出口へと向かった。


 ……


 なんてことだ!!!!!


 素直に、ただのティムを落としたと答えれば、ティム大のオリハルコンとミスリルを貰えたのか!

 分かるかそんな引っかけ問題!!


 貴族たるものが、そんな世俗的なおとぎ話など読むわけがなかろうが!!

 親父から見放された四男とはいえ、平民レベルまで落ちるなんてありえぬ!!

 


(くそっ、だがここはティムを始末できたことで良しとするしかない……金など家からいくらでもかすめ取れる!


 この手には、オリハルコンやミスリルほどではないが伝説のアダマンティンの剣があるのだ!


 これさえあれば、百人力というもの!)

 

 そして、現状ギルド中で攻略中の、魔王軍残党を滅ぼせたなら……

 ヴィンクラー家の家督を受け継ぐどころではない、大いなる栄光が手に入るのだ!


 冒険者などに身をやつしたのは、全てそのため……!

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