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第十九話 神の代行者

 世界をやり直す。

 そう宣言した神老人は、全知全能の杖……『ユグドラシルの枝』を振りかざした。



「やってしまうのじゃ! ティムどの!」


「了解。【ドロップ】」



 からーん。


 

「はっ!? ワシはなぜ、落としたのだ!?」


 地面に落ちた杖を拾おうとする神老人。

 やはり、この人……杖がなきゃただの人なんじゃね!?


「そこじゃあー! カリーン・ブーメラン・トマホゥーク!!!」


 カリンが地面の杖を目掛け、右手の金の斧をぶん投げた。

 叩き折るのかと思いきや、斧の刃と柄の間に枝を上手くからめとり……


 逆の放物線を描いて、地面から杖を巻きこんだ斧は、ブーメランのようにカリンの手元へ戻ってくる。

 

「『ゆかだんぼうの枝』、ゲットじゃあー!」


 『ゆ』しか合ってねえ!


「な、なにをする貴様ら!」


 杖を奪われた神老人が、あからさまに慌てている。

 しかし、こちらに掴みかかるとか、神の魔法を発動させるとか、そう言う動きはない。


 俺はカリンから受け取った杖を、神老人につきつけ、


「世界のやり直しなんてさせない。


 もう、あんたの都合で、人の人生を左右させられるようなことは、ごめんだ」


 と言い放った。


「うぐぐ……」


 くやしげに唸る神老人。


「さあ! わしの望みをかなえるのじゃ。


 約束せい、二度と人間たちに……この世界に干渉しないと!


 そして立ち去れ、どこへなりと!」


 カリンが叫んだ。


「さもないと、こいつの『ゆずこしょうの枝』で、お主を八つ裂きにするぞ!


 ……あ、それいいかもな! やれい! ティムどの!」


「やらねえよ! ……まあ、そんなわけだ。


 どうか、平和裏に立ち去ってくれないかな、神のじいさん」


「そうじゃ! 平和が一番じゃ! 血を見たくなければな!」


 カリンは黙っててくれ……


「……わしは厳密には、神ではないよ」


 ふう、とため息をつく老人。

 

「代行者、と呼ぶがふさわしかろう。


 創造神が、世界を作ったのち。この星を離れる前に……

 

 人間の成長と加護を司るものとして、ワシの体を作った。


 その中に、創造神の精神を複製したものを入れたのが、ワシ。


 お主らに分かりやすく言えば、創造神の魂が宿ったゴーレムというところだの」


「なんと!?」


 意外な述懐に、カリンが驚きの声をあげた。


「そ、そんな事が……可能なのですね……創造神と言われましたか。


 わが家に伝わる、最も古い、原初の神……」


 エルナも、驚きに目を見開く。

 ただの人間かと思えば、ゴーレムだったとは。


「でも。原初の神は、もう一柱、居るとも伝えられています」


 エルナの言葉に、神老人……代行者がうなずく。


「遥かな昔……この星には創造神と、悪神と呼ばれる超越存在がいた。

 

 彼らはお互いの存在を許さず……相戦った」


 悪神……さらにそんなものが居たのか。

 

「どちらも神の名にふさわしい、桁外れの力をもっておった。


 人間もそのころ栄え始めたくらいだったが、神の争いに身をひそめるくらいしか出来ぬ。


 だが、神々の争いは星を砕きかねない……とお互い悟った二神は同じ決断を下した。


 この星を去ったのだ……それでようやく、平和が訪れた」


 星を砕く力……想像もつかない力だ。

 

「だが悪神は去る前に、この地に魔族を残していった。


 三つの命を持つ、魔王もな。人間を滅ぼす、生ける災害だ。


 それを察知した創造神も、対抗策を講じた……それがワシだ」


 お互い、自分の分身みたいなものを星に残したというわけか。

 

「ワシは魔族が人間を滅ぼされるのを防ぐため、活動を開始した。


 創造神は人間を作ったが、甘やかし過ぎぬようにするのが基本の考えでの。


 神が実在するのが分かれば、人間は堕落しかねん。


 ワシという存在が悟られぬよう、遠回りの支援体制を作った」


「それが、女神の泉か……」


「じゃが、人間を守るためとはいえ!


 一人の人生を犠牲にする体制、どうかと思うんじゃが!?


 勧誘の仕方も、詐欺めいているとしか思えんのじゃが!?」


 カリンが正論を言う。


「わ、悪かったでな……女神の活動内容を言えば、逃げ出す人間しかおらなんだで……


 なので、ある程度ぼかさないと無理だったのでの……」


「それがふざけるなと言うんじゃー! やはり、八つ裂きしかない!」


 じたばた暴れるカリン。


「待て待て。しかし、カリンの言う事はもっともだ。


 人間を守るために、人間味を欠いた手段を使う……それが神のやることかと俺も思う。


 温かみを欠いた、非情なものだ」


「温かみ、か……そうだの。人間を守護する、それがワシの任務だった。


 だがワシは、この作られた、体温のない人形の体に宿ったことで……


 効率を最重要視する、冷徹な判断をするようになってしまったのかもしれん。


 人ひとりの命、人生がどうなろうとも……全体が良ければ、という、な。


 だがそれは、どうも傲慢な判断だったようだの……」


「……」


「カリン。お主には非常につらい思いをさせたようだの。


 すまなかった」


 と代行者がカリンに頭を下げる。

 突然のことに、「お、おう」などとあいまいな返事をするカリン。


「言う通り、ワシは去ろう。ユグドラシルの枝もお主らに託す。


 お主らなら、間違った使い方はしないと思えるでな」


「どうかなあ。カリンには託さない方が良いと思う」


「確かに」


「ちょーーー! 何を言うんじゃティムどの! 代行者も『確かに』じゃないわ!」


「色々あったが、結果的には魔王も滅び……星は真の平和を取り戻した。


 ワシのやることはもうなかろう。では……さらばだ」


 代行者の目から光が消え、かくん、とその場にくずおれる。

 エルナが駆け寄って、その身を抱え起こした。


「……体温がありません」


「し、死んだのか?」


「いえ、体も固く……確かに、人形というか、この方はゴーレムだったようです」


 創造神と悪神ははるか昔に去り……


 そして今。魔王と魔族、創造神の代行者が去った。


「終わりよければ、すべて良し、かな?」


 ふう、と俺は息をつく。


「一発、代行者をぶん殴りたかった気もするが、そうじゃな!」


「八つ裂きよりかはマシになったが……しかし。本当に良いのか、カリン。


 元の時代に戻らなくて。家族にも会いたかったんじゃないのか?」


 俺の言葉に、しばし目をつむって考えるカリンだったが、


「いや、いいんじゃ! この時代に、新たな家族が出来たと思えば……


 もう寂しくもない! じゃろ!」


 とカリンは右腕を俺の左腕にまわす。

 続いてエルナの左腕にカリンの右腕を回し、ぐっと引き寄せた。


「……もしかして、俺が父でエルナが母、カリンがその子供っていう……?」


「違うわっ! わしが母で、エルナは姉じゃ!」


「あら……意外な配役ですわね。


 わたくしはティム様の後ろに居られるのなら、どういう役でも構いませんが」


 そこは普通、そばに居られるのなら、じゃないのかなー!?


 まあ、いいか……

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