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第十七話 降臨

「やれやれ。一件落着だな」


 うーんと伸びをする。

 カリンの言う神は結局現れなかったが、それ以外の問題はこれで全て解決だ。


「お疲れ様です、ティム様。時間稼ぎ、大変だったでしょう」


「なんかスキルも成長したみたいだし、まあなんとかなったよ。


 エルナも、最後の術式、大変だったろう」


「あんな魔法があるとはのー。神も言ってなかったのじゃ」


「そりゃ、おぬしに言う必要は別になかろう」


「そりゃそうじゃの……って誰じゃあ!?」


 突然、スムーズに会話に割って入った者がいた。


 ここにいるのは、俺とエルナとカリンの三人。

 ラードルフはまだ地面に倒れている。


 新たな声がしたほうへ振り返る。

 曲がりくねった杖を持った、顔全体がヒゲに埋もれたような老人がそこにいた。


「無事、泉のノルマは達成され、魔王も完全消滅したようだのう。

 

 これで、ワシの任務も無事完了したのう」


「か……神!」


 カリンが叫び声をあげる。

 この老人が、神!? いきなり出てきたが……


 ノルマ達成と、魔王の完全消滅が確認されたからなのか。


 と、カリンがいきなり二本の斧を振りかぶって神に突進した。


シャア!」


「うわっとおおお!?」


 高速で振り下ろされる二連撃をあやうくかわし、老人が悲鳴を上げる。


「な……なにをする! いきなり斬りかかるとは、ワシを忘れたのか!?」


「当然おぼえてるのじゃあ! わしを詐欺にかけ、泉に閉じ込めた、神!


 ここで会ったが百年目、いや千年目! 覚悟は出来ておるじゃろうなあ!?


 見敵必殺! どこからカッ斬られたいのじゃ!? 首か? 胴か?」


 邪悪なオーラを立ち昇らせ、左右の斧を振り回しながらニヤリと笑うカリン。

 

「さ、詐欺ではない! おぬしも納得して契約したであろうが……


 って千年だと!? ……いや確かに、この世界、千年経っとるのう。なぜ……?」


「こっちが聞きたいわ! 


 千年、わしの人生を無茶苦茶にした恨み、ここで晴らしてくれるのじゃ!」


「まあ待て、少し落ち着け」

 

 俺はカリンの両肩を後ろから抑えた。


「お主はどっちの味方じゃ! こんな非道な神の肩を持つのか!?」


 確かに……


 神のやることとはいえ、勇者支援のためとはいえ。

 相当に辛い任務を、こんな子供に押し付けたのだ。


「カリンの言う事にも一理ある」


 と、俺は神らしき老人に顔を向けた。


「長年閉じ込められたおかげで、こいつはすっかりやさぐれてしまった。


 物騒極まる言葉をわめいたり、まるでしつけがなってない。


 千年という年月で、こいつの性格を凶悪に捻じ曲げた責任を取るべきでは?」 


「なんかわしの悪口にしか聞こえんのじゃが!? お主本当に味方か!?」


 俺に肩を押さえつけられながら、暴れるカリン。


「い、いや……千年という年月はワシにも想定外でのう。


 いったい何が起こったのか、ちょっと調べてみるかのう」


 神老人は、手に持った杖を振りかぶり、何やら文字を書くような仕草をした。

 すると、空中に突然なにかの絵、それも高速で動く絵が現れた。


「これは……泉の、映像壁で見たものに似てる気がしますわ」


 確かにエルナの言う通りだった、が。


 壁の映像とは違って、空中のそれは恐ろしく高速で動いているように見える。

 何が起こってるのかまるで分からない。


「時をさかのぼり、この地に何が起こったか、全て見ておる。早送りでな」


 最後の言葉は良く分からなかったが、過去を見ているってことなのか。

 めちゃくちゃな映像に見える……しかし、この老人には何が起こっているのか分かるようで、


「なんてことだ……」


 とため息をついた。


「なんじゃなんじゃ。わしらにも分かるように言えい」

 

 カリンの文句に、老人神は悲しげな顔で答えた。


「ああ。全ては偶然のなせるわざだったようだ。


 そもそもの始まり……ワシは、いずれこの地に現れる魔王を人間に倒させるため……


 勇者支援の泉を作ったのだ」


「なんで人間に倒させるんだ? あんたが倒せば良いんじゃないか?」


「何でも神に頼るでない。人間の結束と成長を促すためだ。ただ魔王はやや強すぎたのでな。


 人間側に多少の支援が必要となり……ってええい、話の腰を折るでないわ」 

 

 神老人はふんと鼻息を荒くし、


「女神の泉は、素直で綺麗な心の持ち主である勇者に、強き武器を渡すためのもの。


 ワシ自身が人間の中から勇者を選んで渡すのであれば、過剰干渉となるでの……


 なので代わりに泉の主を設定し、これもまた人間から選んだのじゃ」


 それがカリンか。


「魔王は倒されても、二百年経てば復活する。しかしそれも三度が限界」


「だけど、三度目の復活は六百年後になったようだが?」


「ああ。想定外の偶然が起こった。


 女神の泉は、ただの武器をオリハルコン・ミスリルに変換する。


 そのための魔力は、泉の周辺からかき集める……


 ゆえに、一度武器変換を行えば、周囲の魔力は枯渇するのだ」


「だから、その度に泉の位置が変わったのですね」


 神老人はエルナの言葉にうなずき、


「二度目の変換で、泉は次の、魔力が潤沢な地に飛んだ……しかし、その場所が問題だった。


 偶然にも、魔王城のすぐそばに泉が出現してしまったのだ」


「それが何の問題に?」


「調べたところ、魔王の復活はこの大地の魔力の流れ……龍脈に関係していた。


 龍脈から魔力を二百年間ものあいだ吸収し続け、その力で復活する」


「あ」


 俺はぽんと手を打った。


 そうか。三度目の泉が、龍脈からの魔力が流れ込む位置に出来てしまった、ってことか。

 だから、女神の泉コアの魔力は常に補充されるようになり……

 

「魔王復活のための魔力を、泉が横取りしていたんだな。


 だから、三度目の復活には時間が余計にかかったんだ」


「その通り」


 神老人がうなずく。


「すべては偶然……運が悪かったのう、っておわああっ!!?」


 老人が叫んだのは、またカリンが斬りかかったからだ。


「全部、不運で片付ける気かっ! 


 やはり、神の命であがなうしか、方法はないみたいじゃのう!?」 


「わ、分かった! ワシが悪かった! 


 そ、そうだ、ノルマは達成された、おぬしの願い、何でもかなえてやろうぞ!


 何が良い!? もとの時代に、エイシュウ国の巫女として、戻ることも出来るぞ!?」



 戻る……


 カリンが、過去に?

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