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第十四話 勇者、魔族副官と出会う

 朝食兼昼飯を食べたあと、もうひと眠りしていた俺たち。


「……?」


 階下のやたらと騒がしい声に起こされた。

 

「なんじゃ、うるさいのう……


 ふああ、夕方か。夕飯の時間じゃの」


 カリンが伸びをしながら言った。


「食って寝てまた食う……完全にダメ人間だな俺たち……」


 ちょっと反省。

 緩みすぎた精神、引き締め直さないと。


「つか、ほんとに大騒ぎだな。何が起こったんだ……もしかして?」


「……聞こえてくる会話からして、魔王を討伐できたようですよ」


 エルナの報告に、「やっぱり?」と顔を見合わせる俺たちだった。




「わははははは! 楽勝だったな!」


「さすがに他の魔族とは段違いの強さだったが……なあ!」


「ああ、俺たちにはこれがあるからな!」


 冒険者たちはじゃりーん、とそれぞれの武器を掲げて打ち合わせた。


「この金銀の輝き! 物語の勇者が持っていた、伝説の輝き!」


「こいつのおかげで、俺たちは魔王すら討伐できたんだ!」 


「泉の女神に乾杯! 最大級の感謝をささげるぜ!」


 ギルド一階では、これ以上はないくらいの盛り上がりだ。

 冒険者たちは酒を酌み交わし、豪勢な料理にかぶりつき。

 肩を組んで歌を歌い、笑い声をたてる。


 盛大な祭りがそこで開催されてるかのようだ。



「最大級の感謝だってよ、女神さま」


 一階に降りる階段の近くで、俺はカリンの肩をそっと叩いた。


「わしのおかげじゃなかろう……わしは、あの空間が勝手に作り出す武器を、ただ渡しただけじゃ。


 女神の泉コアの膨大な魔力を、あのような形で消費しようと思いついたのはお主じゃ。


 スキルを使い、彼らの武器を『ルール』にそった形で物質変換に導いたのもな。


 お主こそ、最大の感謝を受けるにふさわしかろう。


 しかし誰もそのことは知らんし、気づきもせん。


 いいのか、それで……?」


 眉をよせ、じっと俺を見上げてくる。


「言ったろ。サポート要員の仕事ってのはそういうものだ。


 感謝が目的じゃない。地位とか名誉のためでもない。


 俺は、自分のスキルで誰かが幸せになってくれれば、それでいいよ」


「さすがはティム様……わたしが見込んで、付きまとうだけの価値がある方……!」

 

 エルナが手を胸の前で組み、目を輝かせた。

 ほめてんの? それ……


「ううっ……お主! ティムどの!


 なんと人間の出来たやつ! 


 お主みたいな人間がたくさんおれば、世界は平和になろう!


 やはりわしとつがって地に満ちるべきじゃ!」


 うるんだ瞳のカリンが、がばっと抱き着いてきた。


「だから十年早いって……」


「なら十年待て! わしは泉から解き放たれた、これからは体も成長するじゃろう!


 まっとれ、聖女エルナのごとく、バインバインになってみせるからな!」


「まあ。わたくしのような体が、お好みなんでしょうか」


 やや照れた様子のエルナ。

 い、いや好みというかなんというか……


「こやつ、隙あらばエルナの尻を見つめておったからな!」


 うそーん!

 そんなことは、ない、とは言えない、かも、だが……


「あら……気づきませんでしたわ。


 なるべくティム様の後ろに居るようにしていたから、でしょうか。


 自分が後ろから見られる事など、想定しておりませんでした」


「さ、さあ! そんなことより、夕飯だ!


 あの祭りに、こっそり混ざって盛り上がろうじゃないか!」


 と、俺はそそくさと階段を降り始める。ここは逃げの一手だ。


「……そういえば。その、本当に魔王は、滅んだんでしょうか?」


 エルナが首をかしげ、妙な事を言いだした。


「どういう、意味だ?」


 かつての勇者も、魔晶金銀の武器を使って魔王を倒したって話だろ。

 今回も、人数は段違いだが……同じやり方で終わったんじゃないのか?


「でも、わたくしが伝え聞いた物語では……」

 


 

 ▲




「こ、ここは……」


 ――泉で、アダマンティンの剣を失ったあと。


 あまりの衝撃に我を失い、どこをどうさまよっていたのか。

 ふと気づくと、いつの間にか、魔王城の近くにたどり着いていた。


 体力の消耗具合、空腹具合からいくと、あれから一日か二日は経っているか。


「こんな状態では、さすがに戦えぬ……む?」


 魔王城はいつもの禍々しさが消え去っており、近づいた時に感じる圧もなぜかなくなっている。

 城に近づこうとしたところ、正面扉が音を立てて開き、中から冒険者の群れがぞろぞろと出てくるのが見えた。


 慌てて物陰に身をひそめる。


「く……! なんで私が! 誇り高きラードルフが!


 あやつらの目を盗み、こそこそとした態度を取らねばならんのだ!」

   

 小声でひとりごちる。

 が、だからといって彼らの前に出ていく理由もない。


 このまま、やり過ごそうと思ったのだが。

 聞こえてくる会話に、私は天と地がひっくり返らんばかりの衝撃を受けた。



「やっぱり俺が、とどめの一撃を加えることになったな!」


「けっ、あの状況じゃ、誰のが本当の致命傷か分かったもんじゃないだろ!」


「そうだ! もはや同時に打ち込んだようなもんだ!


 魔王さま本人に、判定を下してもらうしかねえぜ!」


「もう居ない奴にどう聞くってんだよ!」


 わははは、と大声で笑う冒険者たち。


 なんだ……あいつら、なんて言ったんだ。

 魔王が、もう居ない? 致命傷? とどめ?


 まさか本当に、魔王を討伐してしまった、というのか……?

 私の疑問に、直接答える冒険者がいた。


「そんなわけだから、魔王討伐の報酬は山分けだよな!


 ははは、こんな人数なら、ソロでワイバーン討伐したほうが割りが良いぜ!」


 ……


 ……な。


「なんだと……」


 冒険者の一団が去った後。

 私は魔王城へ乗り込み、あちこちを探索して回った。


 城内はかなり荒らされ、廃墟寸前の有様だ。

 そして、どこにも、誰も、居ない。


「うあああ……あああああ! 私の、最後の、希望が……


 何もかも、なくなってしまったあああああああ!!」


 慟哭が無人の城にこだまする。

 なぜだ。

 なぜ、なぜ! 


「私がこのような目に! 私は、ラードルフだぞ! 栄光ある、ヴィンクラー家の!


 下賤の者どもに、魔王討伐の栄光まで横からかっさらわれ……


 下賤の者……そうだティムだ。何もかも、あの時の泉から始まった!


 けちのつき始めは、ティムから始まった!


 おおおおおおああああああ!!! おのえええええええ!!」


「良い、叫びだ……」


 はっと顔を上げると、無人と思われた城内に、魔族が一人。

 ボロボロの体を引きずりながら、こちらへよろよろと歩いてくるのが見えた。


「怒り、嫉妬。絶望、羨望……


 醜い野心が見える。どす黒い心が見える。貴様なら……託せる」


「だ、誰だ貴様」


「わたしはダルラン……魔王様の副官、だ」

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