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第十二話 復活のお知らせ

「では……斧の女神カリンの脱ひきこもり、俺たちの復帰祝いということで!


 かんぱーい!」


「乾杯です!」


「かんぱいなのじゃ! って、何か聞き捨てならない言葉があった気がするのじゃが!?」


「まーまー」


 とりあえず俺たちは杯を打ち合わせる。


 俺とエルナはエール、カリンは果物ジュースだ。

 ぐびぐびと飲み、


「はー!」


 と満足のため息。久々の飲み物だ……

 カリンはさらに、長い期間味わってないものだ、さぞ感慨深かろう。


「う、うう! うまいのじゃ! 世の中にこんなにもうまい飲み物があったなんて!」


 カリンが涙ぐんでいる。


「なにせ千年ぶりの復帰だからな。


 飲まず食わずで生きていけても、食べ物飲み物が無い人生なんて、なあ」


「考えにくいですわね」


 エルナがうなずく。


「今日はどんどん食え、飲め。ジュース一杯でそんな感動してたら身が持たないぞ。


 女神の泉運営で、特に得た金銭とかはないが、さすがに今日ばかりはパーッといこう!」


「やったのじゃー!」


「良かったですわね」


 カリンがあれもこれもと注文し、満面の笑顔でそれらを口に運ぶ様子を眺める。

 こうして見ると年相応に見えるな。ほっこりする。


「ふふふ……まるで私たちの子供のようですわね……二人目はいつにしましょうか」


「そうだな、っておいおい……!?」


 エルナを見ると、目が完全に据わっている。

 たった一杯のエールで、完全に酔ってしまったか?


「あらあら。わたくしは酔ってなんかいませんよ」


 正気の発言でも、ちょっと反応に困るんだが……


「お主ら、なんかええもの飲んでそうじゃのう」


 カリンが、俺のエールをうらやましげにのぞき込んできた。


「これは子供には早いぞ」


 杯をさっと遠ざける。


「わしは人間年齢に換算すると、千と十歳になるのじゃがのう?」


「千は完全に除外していいだろ……あと、もう女神じゃないんだ。


 カリンは人間になれたんだぞ。自分を人間じゃないみたいに言う必要はない」


「そういやそうじゃ、……ってもともと人間じゃわい! なれたとかじゃない!


 おぬしも斧の女神とか言っとったじゃろが!」


「まーまー」


 カリンがテーブルに叩きつけた杯に、ジュースを補充してやる。

 ぐびぐびと飲む斧女神。目を細め、ご満悦の様子。


「うむ、平和だ……」


 うーんと伸びをする。

 周囲を見回すと、ギルドの冒険者たちも盛り上がっていた。

 クエスト達成の祝勝会のようだ。テーブルには豪勢な食事がならんでいる。


「今回も大勝利だな!」


「楽勝過ぎたぜ!」


「俺たち自身も、相当のレベルアップを果たしてるしな!」 


「何もかも、あの泉のおかげだ!」


「違えねえ!」


 ここにいる冒険者全員が、金銀に輝く武器を装備している。

 掲示板を見ると、ほとんどのクエスト依頼用紙にバッテンが書かれ、達成されたことを示していた。

 それも、ドラゴン討伐だのの超高難易度クエストでさえ、である。


「冒険者たちもたんまり稼いでそうだな。


 逆に、もう冒険者の仕事がなくなってしまいそうな勢いさえある」


「ふわああ」


 カリンが大あくびをした。


「こ、これは……ねむい。ねむいぞ、わし……」


 目をくしくしとこすり、また大あくび。


「千年ぶりの睡眠が取れるってことだな。ええと部屋は」


「わたくしが取っておきましたわ。一部屋」


「ありがとう……って一部屋?」 


「ええ。どうせカリンちゃんはあなたと寝るでしょうし、わたくしも日課がありますし」


 日課……ってあれか。俺の寝顔を観察する……

 思い切りドン引いてみせたが、エルナは意にも介さず「二階です」と部屋へ歩きだした。


 はあ。

 確かに俺も眠いし、なんか疲れたのでそれ以上いろいろと考える気にもならず。


 導かれるまま部屋に入り、キングサイズのベッドに倒れこむ。

 右隣に、俺の腕につかまったカリン。

 左隣に、じっとこちらを見つめるエルナ。


 そんな状態で、俺の意識は遠のいていった。 



「うーん……」


 次の朝。

 じゃなくて、もう昼だった。


「うわ、寝すぎたな。皆、こんな時間までぐっすりか……」


 窓から差し込む日差しに、目を細めた。


「おはようございます」


「おあよーなのじゃ」 


 遅れて目覚めた二人と挨拶をかわし、顔を洗って身支度を整える。

 エルナはいつまで俺を観察していたんだろう……


 考えても仕方ない事は頭から追いやり、階段を降りた。


 ギルドはわいわいとにぎわっており、


「そろそろ、やるクエストが尽きて来たぞ!」


「もっと高難易度のミッションはないのか!」


 などという声すら飛んでいる。


「オリハルコンとミスリルに敵なし!」

 

「魔王城の残党も、ほぼ狩りつくしたしな! 


 こういう時、魔王でも復活したらなあ!」


 わははは、と盛り上がる冒険者たち。


 と、そんな時……

 バーンとギルド入り口の扉が荒々しく開け放たれた。


「お、おい!」


 戦士ふうの男が、何やら慌てた様子で駆け込んでくる。


「みんな、よく聞け……大変な事態だぞ。えらいことだ。


 魔王が……魔王が、復活したんだ!!!」


「……!!」


 ギルドが静まり返る。


 なぜ、今頃!?

 二百年に一度、復活するという魔王。

 しかし二度目に倒されたときから、もう数百年は復活してこなかった魔王。


 しかし、神によれば三回目の復活自体は確定していたのだ。 

 だが……このタイミング。


(魔王、運が悪かったな……)


 俺が考えたことは、その一言だった。

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