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第十一話 さよならアダマンティンの剣

「出れた! 外だ! 元の世界だ!」


 思わず深く深呼吸する。


 森独特の、木々の香りと、澄んだ空気。

 遠くから聞こえる、モンスターらしき吠え声。木々の間をぬって飛ぶ怪鳥。


 まごうことなき、大森林のダンジョンだ……


 カリンも周囲をきょろきょろ見回し、顔を輝かせた。


「こ、ここが外じゃな? おお、空気に味があるぞ……!


 映像壁で見た景色ではあるが、思ったより広々としておるのう!


 というか、こんなに木がたくさん植わっとるとこじゃったのか!


 三度目は深い森の中じゃったとは……」


 三度目?

 俺が何の数字か聞くと、


「女神の泉は、変換した武器を人に与えるたびに、移動するのじゃ。


 移動といっても、泉自体が移動するわけではない。


 この世界に既に存在する泉の下に、女神の空間がランダムで瞬間移動するようになっておる。


 交換の話を聞いた人が、大勢詰めかけてくるのを防ぐためじゃろう。たぶん」


 へえ……って、何かおかしくないか?


 武器を人に与えるたびにあの空間が移動するなら、俺たちも武器を冒険者に提供するたび、

 違う泉の下へ瞬間移動してたはずでは?


「そうなんじゃよな……二度目以降は、あの泉の機能がおかしくなったとしか思えん。


 魔力は勝手に補充されるし、瞬間移動しなくなるし。どうなっておるのか?」


 うーん……

 頭をひねるが、この空間を作り出した神、とやらにしか分からなさそうだ。


「その神、ノルマ達成したんだから、その祝福なり、ねぎらいに来ても良いと思うんだが」


「祝福とかねぎらいどころの話ではない! 達成したら望みをかなえるという約束のはずじゃ! 


 人を千年閉じ込めおってからに……そのうえ無視するというのか!


 また会ったら、文句をたっぷり言おうと思っとったんじゃが!


 いやそれだけではヌルいな! この斧に物を言わせるのが筋ってもんじゃ!」


 カチンカチンと、金と銀の斧をぶつけ合わせる女神。

 いやもう元・女神かな。


 とりあえず物騒な発言は控えてもらいたい。


「……どなたか、ここに近づいて来ていますね」


 ふと、エルナが振り返ってそんな事を言った。

 冒険者たちかな? でも、もう相当な人数に武器は行き渡らせたはずだけど。


「この魔力の感じ……ラードルフ様ですわ」


 げ、あいつかよ。

 

 せっかくこの素晴らしい開放感を持ったまま、今日は宿屋で祝勝会でも開こうと思っていたところだ。

 あいつと顔を合わせれば、不快なひと悶着があるだろう。


(ぶん殴ってやりたい気持ちも確かにあるが、ここはやり過ごすとするか……)


 エルナとカリンの手を引っ張り、俺は手近な大樹の陰に身をひそめる。


 しばらくして、ラードルフが姿を現し、泉の前へに立った。


(あいつ一人か……?


 てっきり、パーティメンバーを補充してると思ったんだが)


 そのラードルフ、しゃりんと音を立てて腰のアダマンティンの剣を引き抜いた。


「くくく……見てろよ愚劣な冒険者ども。貴様らは凡庸な武器を変換したらしいが。


 こちらはこの伝説の剣を変換するのだ! より強化され、より素晴らしき剣となるだろう!」


 あっ。

 

 そういえば、泉につめかけた冒険者たちの中に、ラードルフの姿を見かけなかったが。

 まさか、その情報を掴み損ねてるわけじゃないだろうな、と思ってたら……


「それい!」


 ラードルフが剣を振りかぶり、思い切り泉の中心に向かって放り投げた。


 おいおい。

 情報を掴むのが遅いうえ、わざと投げ込むのは禁止ってのを知らねえコイツ!


 どぼーん。

 

 音を立てて沈んでいくアダマンティンの剣。


 ……


 ……


「……」


 しばらく待つも、泉には何の変化もおこらない。


「……ど、どうしたわけか!?」


 ラードルフに、徐々に焦りの表情が浮かんでくる。


「お、おい女神! オリハルコンとミスリルの剣はどうした?


 冒険者どもに授けたように、私にも授けてくれるのではないのか?


 何だこれは!? 何が起こっているのか!?」


 何も起こってないんだよ。

 泉はもう、普通の泉なんだ。


 女神の武器交換サービスは、終了したんだ……ラードルフ。


「うおおおおお!


 剣が! 剣が! 私のアダマンティンの剣をかえせ!


 あれが無ければ、私は……私はあああああっ!!!」


 何度も泉に飛び込もうとするが、その度に後ずさりするラードルフ。


「くそお! わ、私のような高貴な人間が!


 このような汚い泉に、入れるわけがないだろうが! 気色の悪い!


 誰か! 誰かおらぬか! 私の代わりに、泉の底にある剣を拾って来てくれぬか!


 金、金ならやる! くそ! 誰か! おらんか!」


 ラードルフの懇願に、返事をする者は誰も居ない。

 

「うおおおおおおおお!! こんな、こんなバカなあああああ!!」


 森中に轟くかのような叫び声を上げたラードルフ。

 髪を振り乱し、頭を抱えながら森の出口へと駆け出していった。




「あらら。お気の毒にじゃの。


 いや、ティムどのにやったことを考えれば、当然のむくい……というやつか」


 大樹の陰から出ていき、やれやれとため息をつくカリン。


「自業自得。因果応報……いろいろと言葉はありますわね」


 とエルナ。


「一発、ぶん殴ってやろうと思ってたけど……


 今の一部始終を見て、もうどうでも良くなったな」


 ははっ、と俺は軽く笑い声をたてた。


「それじゃ、今夜は祝勝会といくか!」


「おー! じゃ!」


「はい!」

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