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第十話 魔力、尽きる

「……」


「……」


 俺は今、女神の泉空間で寝っ転がり、目を閉じている。


「……」


「……」


 両隣りに、カリンとエルナが座り込んで、ただひたすら俺を見つめている。


「……非常に、非常に落ち着かないんだけど」


「ダメですよ、ちゃんと寝ないと」


 とエルナ。


 つっても、この空間は食事いらずの睡眠いらず。

 飲まず食わずで永遠に起きていられる場所なのだ。


 自由に出入りできるような場所であれば、有効活用も出来ただろうに……年すら取らないし。


「無理に寝ようとしても、全然寝れないし……」


「フリでも良いですから。私はこれが『日課』でしたもので」


 

 後からエルナに『日課』が何をさすのか聞かされた時には、ぞっとしたものだ。

 

 俺を後ろから付け回し、自宅の寝室を窓からのぞき込んで俺の寝顔を眺める……

 そんな事を常日頃からやってたらしい。全く気付かなかった。


「ひゃー、おぬし良い趣味しとるのう。


 わしもここから出られたら、やってみたいものじゃ」


 驚いたことに女神は同調し、聖女も


「ええいいですよ、ご一緒しましょうね。


 今からでも良いですし」


 などと言いだしたのだ。

 どういう趣味をしてるんだあんたらは!?!?!?


「本当に、ティム様が生きておられて良かった……」


 聖女がまともであれば、嬉しい台詞なんだけどな……



 俺がラードルフの罠にかかり、『行方不明』となってからは日課も遂行できず。

 エルナは日々欲求不満をつのらせていたが、この泉にドボンし……

 ようやく、日課が果たせる時が来たと喜んだのだ。


 で、眠れなくても寝ているフリをしてれば十分だと、エルナは言って、今この有様である。



「なるほど……この男の寝るところをじっと見つめる……趣深い。


 しかし長い事、人のぬくもりから隔絶されていたわしには、やや難易度が高いのう」


「無理はしないほうがよろしいかと。わたくしが満足行くまで眺めたあとは、ご自由になされては」


「そうするのじゃ! あとで十分すりすりするのじゃ!」


 勝手に決めないでくれないか!?

 ……早朝から何やってんだろうな我々。



 などとやってるうちに、映像壁が反応。

 また冒険者の一団がやってきたようだ。


 俺はこれ幸いと身を起こし、


「はいはい、魔力ゲージ消費のお時間ですよ。


 これが今の最優先事項なんだからな」


「仕方ありませんね……」


 エルナには今ここで何が起こっているのかはもう説明済みだ。

 さっそく、俺が【ドロップ】のスキルを使って、本日一人目の冒険者の武器を泉へと落とさせた。


「エルナよ、おぬし『女神の問い』、やってみんか?」


「えっ? 水面に浮きあがって、落としたものは金か銀かを聞く、あれをですか?」


「ああ、この空間に囚われた以上、おぬしもティムも『泉の女神』役をこなせるようになっておる」


 そうだったのか。

 だからってやれ、と言われても俺はやりたくないけど。

 泉から冒険者の格好をした男が現れるってのは、やっぱり画にならない気がするし。


「ティムには拒否されたが、エルナなら問題なくやれるじゃろ」


「確かに……」


 と俺も首肯した。エルナも女神役として相応しい身なりをしているし。

 

「そ、そうですか? ティム様もそう言われるのであれば……」


 やや頬を染め、おそるおそるといった感じで金銀に変換された武器を持った。

 そして天井へ向かって背伸びすると、聖女はふわっと浮かび、見えるのは膝から下の足だけとなった。


「……うーむ。下から見るとわしもこうなっていたのか……珍妙な光景じゃのう。


 足の裏とか、あまり見られとうないぞ」


「こっちも見たいとは思わないが。しかし前衛芸術と見間違えても仕方ないよな」

  

 エルナは無事『女神の問い』を遂行し、金銀の武器を冒険者の一人に与えたようだ。

 天井からフワッと降りてくる。


「あれで良かったでしょうか……」


「映像壁でも確認した、問題なし! この調子でいこう」


 親指を立ててやると、エルナも嬉しそうにほころんだ。


 そういや、冒険者たちに「なぜエルナが女神に!?」みたいに言われなかっただろうか。

 今更そんな事を思いついてエルナに聞くが、今来ている冒険者たちは町で見かけない人ばかりらしい。


 どうやら、うちのギルドの冒険者たちの皆にはほぼ行き渡り、隣町とかから押し寄せてるっぽいな。

 評判が広がればさらなる人数が期待できる、この調子で魔力ゲージを消費していこう!



 そして一日中、金銀変換・女神の問い・武器提供……を繰り返して。


 ついに。ついに……


「ゲージを使い切ったぞおおおおお!」


 女神の泉コアの円筒は、空っぽになったのである!


「やったのじゃあああああーーー!」


 思わず両手を天に向かって突き上げる女神カリン。


「やりましたね!」


「お疲れ!」


 思わずエルナとハイタッチ。


「あ、ずるいのじゃ! ……とどかぬー!」


 カリンの背たけだと、伸びあがってもハイタッチできないか。

 しょうがないので、俺はしゃがんでハイタッチした。 


 これで、ノルマは完全達成となった……となると、この空間はどうなる?


 思わず周囲を見回すと、とくに変化はおこらないな……と思った瞬間。

 部屋中がすさまじい光で満たされ、俺たちは思わず目をつぶる。


 

 ……しばらくして、そっと目を開いてみる、と。

 そこは、森の中にいた。

 目の前には例の泉。


 元の世界に、戻ってこれたんだ!

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