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籠屋  作者: 天月ヒヨリ
二.花と貴方へ
78/145

78.留守―3

「僕こんな目立つ昼食初めてなんだけど」


 些か眉間に皺の寄る羽鶴は向かいに座るワンピース二人に水を差し出す。

 校内にある中庭の一角に応接も兼ねた広いテラスがあり、昼休みとなれば生徒で賑わう中、端の席を選んだというのに視線が絶えない。


「仕方あるまいこれが元看板の威力だ」

「ふふふ物凄く可愛いでしょ羽鶴くん! 俺……夏が選んだんだよ褒めていいよ!」


 適当に水を飲む大瑠璃は所作が完全に余所行きで女性のよう、女装は見慣れたが声までが認めたくはないがおしとやかな女性になっている。髪は白で緩いウエーブのかかった腰までのロング、眼は真っ黒ではなく黒茶色。男女構わぬ視線が痛い。誰だあの可愛い娘、という声が聞こえる。やめろ、こいつらがつけあがる。


「夏さんまでどうしたんですかその、髪も真っ白で服まで……声も女の子だし……」

「ふふん羽鶴くんの稀に遊びに来る遠い親戚という設定で揃いの白髪なのだ! 教師は納得したぞ! 服も声も銀次の兄ちゃんにかかればこの通りだよ羽鶴くん!」

「誰も不審に思わない……この学校大丈夫か……ん? 銀次って誰?」

「まあ今度でいいでしょ。鶴はさっさとお昼食べちゃいなよ。適当に帰るから。ああついでに言うとこいつの名前は夏馬ね。杯夏馬」

「ついで!? やだやだ名前で呼んでね羽鶴くん!! ねえ大……百合ちゃんどう? 大成功でしょ? 褒めて褒めて!」

「ああうんすごいねえ夏すごいすごい」


 半笑いの大瑠璃は夏馬の軍服ワンピースから視線を逸らす。ああ昨日似たようなのをムチムチの筋肉質が着てたなあ、と眼に毒な光景を思い出すが言えるわけもない。

 

「二人ともありがとう。手持ちもなかったから午後どうしようかと思った」

「財布も忘れたわけ?」

「籠屋なら大丈夫だし。今日体動かす授業あるから癖で忘れてきた感じ」

「殴っちゃえば?」

「それが解決策だと思うか」

「物騒だね~俺もよくカツアゲとか遭うけど」

「…………はァ……?」

「うわあ百合ちゃん可愛いのに怖いねー視線でやられちゃうねー」


 機嫌が一気に傾いたのは本当だろうが表情はなんてことはない余所行きのままの大瑠璃に夏馬が冷や汗を流している。


「こないだ兄貴のブラックカード取られちゃって……えへへ☆ うわああ怖い怖い!! 真顔にならないで!! 兄貴にすんごい絞られたしもう解決済みだから!! カードも取り返したし使われた分も取り返して社会的に抹殺したって聞いたから大丈夫!!」

「いろいろ大丈夫じゃない……」

「察しがいいね鶴」

「それに二度とないように護衛もつけるとかなんとか……でも旅行行っちゃったしいつ来るかはわかんないけど!」

「あの兄が休暇前に面倒ごとを残すとは思えん」

「夏馬さん話聞いてなかったんじゃないですか?」

「ええ何二人とも仲いい!! え? それなら俺護衛に挨拶もされてないってこと? マジで?」


 さっと青くなり口元に手を持っていく夏馬をものすごく白けた眼で大瑠璃が見ている。雨麟ならなにかと理由を作って逃げ出すだろうが、どうもこの美人の場合慣れてしまった。


「その辺は自分で確かめなよ。じゃあ鶴、そろそろ帰るね。お弁当は自分で持って帰るんだよ」

「あ、玄関まで送ってく。そこまでお前を使ったら後が怖いわ」

「羽鶴くん食べるの早いねー。はああ百合ちゃんの美貌にギャラリーが付いてくるよ!!」

「お前ら帰り大丈夫なの? 目立ちすぎじゃない?」

「ははは夏がしっかりエスコートしてくれる約束だから」

「え? うんうんうわああ真顔の百合ちゃんも可愛い!! ちゃんとおうちまで帰ろうねええ!!」



 変装はばれないが異様に目立つ白い二人を玄関で見送ると、騒ぎに顔を出した榊が口元を押えて震えていた。


「あれ榊、顔赤いんだけど」

「羽鶴あれ……ふ、……」

「稀に遊びに来る遠い親戚らしい」


 自販機に飲み物を求めて来たらしいがもうどうでもいいと笑いを堪えている榊にようやく合点がいった羽鶴は「さすが白髪ロング検定皆伝」と小声で言うとどつかれた。





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