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籠屋  作者: 天月ヒヨリ
一.後ろを振り向くことなかれ
46/145

46.

 雨麟にからかわれながら過ごした羽鶴は、籠屋内を見て回りたいと申し出一人廊下を歩いていた。

 雨麟と香炉は夕方の支度があり、白鈴は店が開く前に受付の確認をするのだという。茶店が閉まれば朝日が飛んでくるだろうから、昼前までには部屋を見つけてしまいたかった。

 三階へ上がると月夜の木枠に出くわす。どの階段を上ればどこへ出るのか羽鶴はいまいちわからなかった。適当に上れば曲がる度に模様の違う木枠が目印となるから、迷いはしないだろうが。

 まっすぐに月夜の木枠を伝いながら進めば、鳥の木枠に出くわした。羽鶴の部屋を通り過ぎ、開け放たれた部屋を見ながら奥へ進めば壁一面の彫刻が行く手を遮った。


(鳥模様……籠屋彫刻好きだなー……窓枠も全部木で凝ってるし……)


 まじまじと見事な彫刻を眺めていると、ふいに模様が横へとずれた。


「――は?」

「――え、鶴? 何をしているの」


 壁一面の彫刻は扉なのである。大瑠璃は崩れた着流しを直す気配もなく白い指で髪を解く度はだけた鎖骨がくっきりと浮かんだ。探索だと羽鶴が返せば、なんだと小さく欠伸をする。


「起きるの遅えー……。大瑠璃、髪整える気ないだろ」

「しつこいな。自分で整えるなって虎雄に言われたの。宵が揃えてくれるって。それまでほっとくよ」


 眠たげな大瑠璃の黒い頭めがけて白い玉が飛んでは登頂部に陣取った。ずんぐりと丸い体と眼で羽鶴を見る白い玉は十姉妹という小鳥である。一羽が黙っていると隣へ倍はあろうかという図体の白いふわふわした小鳥が飛んできてはくっついた。顔色の一切変わらぬ大瑠璃に、羽鶴は口をはくはくさせながら小鳥を指差す。


「大瑠璃、と、鳥が……十姉妹となんか物凄くぶわっぶわな鳥が……!」

「ああ、部屋にいるから」

「……は?」

「ふみとしらたき。十姉妹っていう鳥で変な鳴き声の」

「どこから突っ込んでいいかわからんが奥の部屋ぶち抜きで使ってるのお前か」

「広いからね。じゃ、探索楽しみなよ」


 ひらひらと手を振り歩いていく大瑠璃を慌てて呼び止めると、頭の上に乗った十姉妹が変な声で鳴いた。大瑠璃は背を向けたままでいる。


「大瑠璃、――ありがとう」

「なんのことやら」


 ひたひたと裸足で廊下を歩いていく大瑠璃の頭の上で十姉妹が忙しなくあちこち向いては変な鳴き声で何かを話している。ゆったりと歩く後ろ姿が見えなくなると、羽鶴は自室まで引き返した。

 鳥の木枠が続く廊下を辿り進んでいくと、空気に花の匂いが混じる。風を運ぶ木枠も花模様となり、羽鶴は別室を探した。戸が閉まっていたなら誰かが使っている部屋だが、一度使った限りの場所の内装ならまだしも、外装がどうであったかは朧気なものだ。頼りはその朧気な記憶だが、廊下自体が見つかれば何も悩むことはないのにと羽鶴は花の木枠を辿って行く。

 花の木枠に変わってから、廊下は複雑に分かれている。奥へ進むことを躊躇うような、普段使いの部屋にするならば候補から外すだろう廊下と部屋の数に目眩を覚える程。

 引き返そうにも元来た道がわからない。朝日が戻る昼までに間に合わないだろうと適当に戻ることを決めた羽鶴が振り返ると、進んできたはずの廊下は消えていた。

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