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籠屋  作者: 天月ヒヨリ
一.後ろを振り向くことなかれ
30/145

30.鉄二郎

 食事が済むと朝日は手を振りながら自室のある三階へ行き、白鈴はぺこりと一礼してから受付へと行ってしまった。香炉はあれきり厨房から出てこず、座敷には羽鶴一人となった。

 黙っているのもなんなので散策を始める。座敷を出ると雨麟に引きずられた方へと歩き出した。磨き抜かれた廊下は羽鶴を映しては先へ伸び、角を曲がると更に真っ直ぐ続いている。

 そちらへ行ってみようかな、と足を踏み出した時、ばかでかい声が響いた。

 受付の方からである。


「宵ノ進ー! いるかぃー!?」

「で、ですからっ……今日は非番で……」


 羽鶴が受付へと行ってみれば、あわあわしている白鈴と玄関先で声を張り上げる紺色髪の男がいる。高く一本に結い上げ、桃の眼の色と同じ髪留めでくくっているその人物もまた着物であり、やや着崩した長着を留めるのは蛇の鱗に似た柄の帯である。

 すらりと背は高く、声も張りがあり些か若い。

 桃色の眼が羽鶴を見つけると、その男は首をかしげた。


「おや、新入りさんかぃ?」

「あ、羽鶴ですはじめまして」

「俺ぁ鉄二郎。宜しくな。問屋やってんだ。荷を持ってきたんだがよ、入りきらんで困ってんのよ」


 親指で後ろを指す鉄二郎にそちらをよく見れば、正面の門下に荷物山積みの荷車が見える。

 そしてその天辺から錦の垂れ幕が下がっており何やら書かれているようだ。

 興味本意で丸石の前で停められている荷車の前に立った羽鶴は、僅かに遠い眼をした。

 錦の垂れ幕には墨で“大瑠璃へ”と書かれている。


「錦、もったいな……」

「だろぉ。見舞いの品だから早急に届けろってきかなくってなあ。今日は納品予定にゃねぇから出れねえとは思ったがよぉ。宵ノ進がいりゃあなあ」


 荷を見上げ隣に並んだ鉄二郎が途方もなく大きく感じる。見上げた羽鶴は、籠屋に来てから長身の者は虎雄くらいで、あとは似たような背丈であったり小さかったりしたのを思い起こした。羽鶴より僅かに背丈のある宵ノ進さえ、鉄二郎と並べば小さく映るのではなかろうか。

小柄ではあるが。そんなことを考えながら、この荷、どうすんだと口から出そうになった時、ころころと下駄を転がす音がした。


「塩かけて燃やしなよ」

「大瑠璃ぃいてめぇ非番じゃねぇのかぃ」

「杯の坊っちゃんからでしょ。燃やせよ鉄二郎。そして帰れ」

「受け取れってんだろぉ引きこもりがぁあ……! どっから入れる!? えぇ!? おめぇの部屋まで投げ込んでやらぁ!!」

「てめえの口に詰め込んで帰れ。錦巻いて寝てろ」

「入るか!! なんでぃ中身も見ねえでからに」

「あぁ鶴、貰ってく?」

「こんなにか」

「会いてぇなぁ宵ノ進……こんなひねくれの引きこもりではなく」

「荷ぃ降ろして帰れ鉄二郎。受付左の部屋に詰め込んでとっとと帰れ鉄二郎。鶴行くよ、決して手伝うな」

「あぁおめえ!! 左のって入れるの面倒な部屋じゃねぇかぃこらぁああ!!」


 喚く問屋を無視してさっさと下駄を脱ぐ大瑠璃に羽鶴は続いた。

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