表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠屋  作者: 天月ヒヨリ
一.後ろを振り向くことなかれ
19/145

19.時越え

 ソファーに座った宵ノ進は、変わらず良い花の香りをさせながら、和やかに両親と話を進めている。

 時折両親が笑う場面もあり、お客に出した茶菓子をまず父親が頬張るという事態も見られたが、気に留めぬ宵ノ進は、すぐその場に馴染んでいた。


「いつでもお嫁にきてもいいんだよ宵ノ進ちゃん!」

「父さん話聞いてた?」

「パパったら、気が早いわ。板前さんは忙しいのよ」

「母さん、どうしてお嫁さんが頭からはなれないのかな」

「恐れ入ります」

「ほら宵ノ進困ってる!!」


 肝心の籠屋で働く話は出だしから即オッケーが降り、後は雑談が主である。

 会話好きな両親と、何やら楽しげな宵ノ進を見ていると、この人は元からここにいたのではないかという気持ちになり、羽鶴はふと思った。


 この人の家族はどういう人なのだろう。


 イメージ通りなら、ふわふわしていそうだ。

 羽鶴がぼんやり考えていると、両親と宵ノ進が立ち上がり互いにお辞儀をしている。そして何やら引き留めて、再びソファーに礼装の男が座らされるのである。


「わぁーい宵ノ進ちゃんとママのご飯が食べれるぞー! ママぁー! 僕も手伝うねー!」

「もうパパったらはしたないんだから。待っててね宵ノ進ちゃん。一緒にご飯食べましょうね」

「御気遣い、恐れ入ります」

「その言葉使いもほぐしちゃうぞ~!」

「パパ、手つきが怪しいわ」

「僕はママ一筋だよ!」

「いいから台所行けよ二人よぉ」


 始終喋りっぱなしの両親が台所へ行くと、部屋の中がとても静かに感じた。


「優しいですね。ご両親」

「引き留めて悪いね、宵ノ進。忙しいのにさ」

「いえ、今日はお休みを頂いておりますから。それに、人と話すのは楽しいです」

(……? 板前の貴重な休みが我が家に……! つうか用事で半日働いてるぞ宵ノ進……!)

「宵ノ進の家族はふわふわしてそうだよね。あと物凄く丁寧そう」

「わたくしは覚えておりませんので、どういったものかよくわからないのです」

「……え?」


 思わず宵ノ進を見た。

 いくら考えても思い当たる節がない、何度も考えた末の、そのような眼をしている。


「父や母、兄弟がいるそうですね。わたくしは、うらやましく思っておりました。ひとりでないということは、なんて心強いのだと。大瑠璃と出会うまで、よそのうちを転々と手伝いをして回っていましたね」

「宵ノ進、いいの? 僕に話して」

「気を悪くされましたか」

「いやそうじゃないけど、なんか、ぴんとこない」

「……ああ、それもそうですね。おかしな話です。小さいおのこが手伝いをして回るなど、今では考えられませんね。わたくしは、虎雄様が言うにこの時代の人ではないのだそうです。“時越え”というそうですよ」

「…………………………話、ぶっ飛んだ」

「そうですか?」


 小首をかしげる宵ノ進が、やはりたまにずれていると思う羽鶴である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ