表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
籠屋  作者: 天月ヒヨリ
一.後ろを振り向くことなかれ
16/145

16.今度こそ

「話が急だよ! 学校に話がついてるとか早い! 手が早い! 朝か! 朝イチか!!」

「あっ味噌汁超美味い」

「榊ぃいいぃい!!」


 正座する羽鶴と胡座を組む榊は料理を口へ運びながら今後について話し合うも、周りの仕方ないよねの空気に納得のつかない羽鶴が不満をぶちまけはじめたので好きなだけ言わせることにした。

 支度があるという宵ノ進が部屋を後にしたので言えば解決するだろう相手がいないのである。


(物事の急な変化はなかなか慣れるもんでもないからなぁ)


 落ち着いて味噌汁を飲む榊の隣で長ったらしく言葉を列べている羽鶴は自分なりに答えが出るまでそうしている節がある。


「……いいにおい……」


 もそりと布団が動き上体を起こした黒髪は、半分開いた眼で二人の方を見た。


「大瑠璃!! もう大丈夫なの!?」

「…………へいき。あいつのはすぐふさがるから……」

「……」

「……みる?」

「見ない!!」


 夜着に手をかけた大瑠璃を慌てて止めた羽鶴が榊の方を勢いよく向いた。


「寝てるな」

「寝てるね!!」


 この低血圧、などと叫びながら羽鶴が頭を抱えて仰け反る様を見ていた榊はまだ寝起きのいい方かもしれないと焼き魚を口へ運んだ。


「……宵は?」

「支度があるから出ていったよ」

「……」


 もそりと布団から出た大瑠璃は、奥の扉を開け中へ進むと、首に手拭いを引っ提げ戻ってきた。


「おはよう」

「お前毎朝大変だな」


 顔を洗ってから起きるタイプかと叫ぶ羽鶴に構わず畳の上へ腰を下ろし胡座を組んだ大瑠璃は、お盆の上に乗った茶器を持ち中身を注いでいる。


「美人、羽鶴の話を聞いてやってくれ。ここで働くことになって頭が追い付かんらしい」

「へぇ。うちで働くことになったの。お預かりかな」

「ねぇええだからどうしてそうなるの!? 坊っちゃんが物騒とか関係なくない!? 学生一人にさ!!」

「自分だけ置き去りにされている感じが嫌なんでしょ。はいお茶。美味しいよ」


 茶碗を受け取った羽鶴に茶を飲みながら黒い眼を向ける大瑠璃は、一口飲んで瞬きをした様子を見てから口を開く。


「まぁ杯の坊っちゃんは言いくるめればなんとかなるんだよ。要は建前で、引き寄せ刀から身を守りたいのが本音かな。あれ、まだ彷徨いてるから夜は危ないんだよ。本当は、住み込みの方がいいのだけどそうもいかないだろうからね」

「ねぇそれって僕があの化け物にストーキングされるってこと? むしろ夜は襲撃されますよってこと? なにその追跡者」

「羽鶴、それはまずい」


 多少顔色の傾いてきた羽鶴は再度茶器を傾け中身を飲む大瑠璃によく飲むなぁと思考をずらされる。

 そういえば雨麟の用意したお茶は彼をも気遣って出されたのかもしれない。


「そうなるね。あれはこの大瑠璃をいつも狙っているのだけど、出入りするものに貼り付いたりするから。大抵は敷地内へ入れない筈なんだけど、鶴は入れちゃうんだろうね」

「僕お祓いに行ったらいいですかね」

「それは虎雄や宵がやってくれるよ。一月くらいだろうけど、我慢して。今度こそ、けりをつけるから」


 茶器をお盆の上へ置いた大瑠璃は、巻き込んですまないね。と端から見れば綺麗な、けれども複雑な眼の色をして、笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ