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籠屋  作者: 天月ヒヨリ
一.後ろを振り向くことなかれ
11/145

11.烏羽の夢

**


 人拐いなど珍しくもなかった。


 仲良くしていた幼馴染が消えた。

 先日、「私は先にいくよ」と言って頭を撫でてきた彼は、人懐こい丸い眼を細め穏やかに笑ったが、お互いに、騙されていることを知りながら順繰りを待つ意味での笑みだった。

 両親はひっそりと私を育て、幼馴染の身を案じながら暮らすも空咳持ちの父が消え、遂に美しいと言われる母が地べたに押さえ付けられ泣き叫び声を枯らす日がやって来た。

 生き写しと言われるこの体を抱き上げられ、真っ黒な視線を浴びそちらに手を伸ばすも、母はずるずると引きずられすぐに見えなくなった。


 上物の着物を着せられ、ただだんまりとそこにいるだけで美しいと言われ続けた。

 さらさらと髪を撫で、頬に手を滑らせ時には口を這わせる持ち主の顔もまた何度か変わっていたのだが、口を利かぬままごとを長い間続けた眼に、価値のあるものは見えなかった。

 いつしか口を開くことも、息をすることも、自分自身へ問うことも放り出して、どこかへいってしまいたいと思うようになっていた。

 体を放り出し、一番心地の良いときに眼を閉じてそのまま、開けずに済むのなら。

 この世に身を寄せることの意味を、人と交わることの意味を、あふれるすべての意味を、その中から探し出す意味を、呼吸し口へものを運び喉を震わす意味を、途方もなく漠然とした、この感情と深く息を吸うことすら放棄してゆく身体の意味を。

 知ることが、できたなら。



 “つくりもの”


 言われ続け髪を撫でられ、ただ思うのは消えた幼馴染が撫でた手が、ひどく優しいものに感じる。

 最後に、とはよく言うものなのだろうか。

 けれど、会いたかった。

 そうして眼を閉じれば、何も言わずそこにいてくれるような、優しい気配をただ味わいたくて。


 寝静まった邸に火を放ち、いつも置かれている飾り棚に座り様子を見ていると、悲鳴が重なり火に巻かれ、崩れていく中で誰も人形を持ち出す者はなく、ようやく人目を気にせずに声を上げ泣いた。


『あの子を、返して…………!!』


 耳から離れぬその声が、わたくしをいつまでもいつまでも絡めとるのであります。

 私の番はいつでありましょうか。

 いつでありましょうか。


 触れてくださいますか、抱き上げてくださいますか、求めてばかりのわたくしを、どうか。

 どうか。


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