後編
吸血鬼ドラキュラが日本に上陸し、今夜、京都の街に出現するという情報が広まった。
吸血鬼は十字架やニンニクを苦手とし、招待されない限り他人の家には入れないという。
料亭「とんぺい」でも女将さんが自治会長から
「外国人の男性客は絶対店に招き入れるな」
と念を押されていた。
閉店間際に、黒いマントを羽織った不気味な外人が店に近づくのを女将は目撃した。
慌てて戸を閉めようとしたが、既に男は店の前に立っている。
青白い顔、真っ赤な唇、充血した目……いややわ、この人、間違いなくドラキュラやわ。
女将さんが立ちすくむと、男は
「スミマセン、オ店、マダヤテマスカ?」
と日本語で話しかける。
「すんまへん、今、閉めるとこどして」
「京都ノオ料理、ゼヒ食べタイデスガ」
「もう、店は終わりどすので」
「中デオ店、見セテモラエマセンカ?」
「あかしまへんのや」
「日本ノ建物興味アルンデスガ」
「あきまへん」
「中デ写真撮ッテ国ノ皆ニ見セタイノデス」
「あきまへん」
「皆キット喜ビマス」
「あきまへん」
「ドウシテモダメデスカ」
「あきまへん」
「ジャ、モウ帰リマス」
ここまで頑張った女将さん、帰るという言葉を聞いてついいつもの癖で
「まあ、そう言わんと中で茶漬けでも」