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99 調査、追跡任務です



 葬霊士の総本山、霊峰ブランカインド。

 王国中からこの山へ、除霊の依頼や相談がひっきりなしに舞い込みます。

 霊山いちの葬霊士ティアナ・ハーディングこと、ティアのもとにも当然ながら、ひっきりなしに舞い込みます。


 ここ最近は『ツクヨミ』騒動のおかげで出撃命令がありませんでしたが、それもひと段落。

 『ツクヨミ』の皆さんが中央都へと帰った翌日、さっそく呼び出しが入りました。


 大僧正さんのお部屋にて、言い渡される新たな任務とは果たしてなんなのでしょう。

 ちゃんとした除霊でしょうか。

 それとも、また猫探しとかでしょうか。



「さっそくだが任務だ。お前らに『エンシャン湖』の調査をしてもらう」


「……調査?」


 除霊でも猫探しでもありませんでした。

 なんと調査です。


「エンシャン湖ってたしか、モナットさんが言ってた場所ですよね」


「そのとおり。『聖霊像』とやらを拾ったって場所だな」


 なるほど、とってもきな臭い。

 ですがティア、もっともな疑問を口にします。


「調査なら、斥候にやらせればいいじゃない」


「斥候ならよぉ、もともと国中に散らばってんだ。で、異変があればすぐに『メッセンジャー』で連絡が来る」


「来た、ということ?」


「来たぜ、とびっきりのヤツがな。……エンシャン湖周辺が『ダンジョン化』した」


「ダンジョン化、ですか!?」


 これにはビックリ。

 聖霊像があった場所が、しかもいきなりダンジョン化だなんて。


「報告によれば5日前、『スサノオ』が聖霊の墓場を破壊した日の夜のこと。謎の光が湖に飛来して、翌日にはダンジョン化が始まっていたらしい」


「謎の光……。十中八九『聖霊』ね」


「墓場から逃げ出した聖霊どもの行方。国中を探させてはいるが、さっそく一匹尻尾をつかんだってわけだ」


「把握したわ。斥候には任せられない『調査』ね」


 なるほど、エンシャン湖には聖霊がいて、ダンジョン化したから魔物もいて、もしかしたら強力な悪霊がいる可能性だってある。

 そりゃティアナに役目がまわってくるはずです。


「理解できたみてぇだな。では改めて、葬霊士ティアナ・ハーディングおよび葬霊士補佐役トリス・カーレットに命じる。エンシャン湖におもむき現地の調査、および逃走した聖霊を捕獲せよ」


うけたまわったわ」


うけたまわりましたっ!」



 ★☆★



 王国の南部には山や森、手つかずの自然がたくさんあります。

 だからでしょうか、自然とともに生きる民族や、超自然的な存在である聖霊への信仰が盛んなのです。


 中央都ハンネスから、南へ数日。

 そんな自然派世界への玄関口が『森の町エンシャント』。

 湖のすぐ近く、森の中にあるのどかな町です。


 のどかな町だと、聞いていたのですが……。


「な、なんかものものしいよねぇ……」


 中央都から来たのでしょう、兵士さんや冒険者さんたちがたくさんいます。

 無理もないです。

 エンシャン湖のまわりの森が、まるごと『ダンジョン化』しちゃったのですから。


「みなさん殺気立っていますよね。ちょっぴりこわいです……」


「ダンジョンにもぐった冒険者たちに、次々と犠牲が出ている……らしいわね」


「斥候さんからの報告にあったね。町のヒトたちも、だいたい似たようなこと言ってるし」


 到着してから、さっそくあちこち聞き込みをした成果です。

 なんでも首から上を引きちぎられるようにして『もぎ取られた』死体が、一日に何人も出ているそう。


 兵士さんから歴戦の冒険者さんまで、死体が見つからない日がないってくらいの大惨事。

 未知の魔物のしわざとして捜索が行われているようですが、それらしきモンスターが一向に見つからないのだとか。


「ねぇティア……。これ、もしかしなくても……」


「聖霊のしわざ、と考えていいでしょうね」


「だよね……。どうして聖霊って、こんなことするんだろう……」


「理由なんて無いわ。あったとしても人間では到底理解できない理由よ。聖霊なんてそんなもの」


「絶対に分かり合えない存在……。なんだかもの悲しいですね、お姉さま」


「うん……」


 ティアの使ってる三体みたいに、言葉を話せる聖霊もいるのに、なのに絶対に分かり合えない。

 人間とは根本的に『違う』から。


「少しでも早く倒して封じましょう。私たちがやるべきはただそれだけ。そのためにここへ来たのだから」


「そうだね……! 行こう、ティア、テルマちゃん! ひとりでも犠牲を減すためにっ!」




 聞き込みの中で耳にした、エンシャン湖のロマンチックな伝説。

 湖の北、『恋人岬』と呼ばれる場所で愛を誓ったふたりは永遠に結ばれる。


 むかしむかし、結ばれない運命に嘆いたカップルが身を投げて、自分たちと同じ思いをさせないために恋人たちを見守る守り神になったのだそう。


 ダンジョンにさえなってなければ、ティアやテルマちゃんと……なんて考えちゃいますね。

 ふたりじゃなくて三人でもいいのかなぁ。


 もうひとつ、十年前に殺人鬼が出たなんて物騒な話もありましたが忘れましょう。

 ムード第一。


 ともかく潜入開始です、大迷宮『エンシャン湖畔』。

 見た目、ただの森ですが、雰囲気がおかしいです。


 濃い霧がかかってて、とってもとっても不気味です。

 それにハッキリと、まるで『すぐそこ』にいるみたいに、聖霊のイヤな気配を感じます。


「よーし、いつものようにアレいくよ!」


「待ってましたお姉さまっ」


 ダンジョンに潜入して、まず最初にやるべきことといえばアレ。

 目を閉じて、魔力を集中させて……開眼!


星の瞳(トゥインクル・アイズ)!」


 はい、いつものように出ました魔力球。

 その中に大きな一枚マップが浮かび上がります。


「太陽の瞳じゃないのね」


「いつもの星の瞳ですっ」


「えへへ……。アレね、使うと幽体離脱しちゃうから。使ったら私の体、ここに寝ころんじゃうんだよぉ」


「抱えるからいいのに」


「役得ですよぉ、ずるいですティアナさん! テルマだってお姉さまを抱えたいですぅ!」


「あなた、いろんなところを触る気でしょう」


「触ったらダメですか、悪いのですか」


「テルマちゃん、私はね、触りたかったら触っていいよ?」


「いいのですかっ!?」


 大興奮のテルマちゃんをさて置いて、マップに目を通しましょう。


 古戦場のときと同じく、階層ごとに分かれてるわけじゃない今回のダンジョン。

 全体像がうつらないほど大きな一枚マップをスライドさせて、聖霊の場所をチェックです。


「うわぁ……、赤い点がいっぱいだぁ……」


「黄色の点もかなり多い。今日も大勢が調査に出ているようね」


「黒い点、ありますか?」


「探してるけどぉ……、あ、これかな?」


 湖の岸辺、東側。

 黒い点がぽつんとたたずんでいます。


「でも、聖霊ってカンジしないなぁ。聖霊の黒点、もっとおぞましいカンジなんだよねぇ」


 もっと黒く、闇より暗く、まがまがしい渦がぐるぐるとまわっているような。

 カーバンクルもそんなカンジでした。


「ただの黒点だもん。普通の幽霊さんだと思う」


「他に聖霊らしきマーキングは……どうやら見つからないわね」


「なぜなのでしょう。お姉さまの星の瞳から逃れられるはずありませんのに……」


 うーん、なんで見つからないんだろうね。

 間違いなくいるはずなのに。


「とりあえず、この黒点のとこに行ってみよう」


「そうね、ほかにアテもないし」


「でしたらテルマ、いつものようにお姉さまに入ります。神護の衣でお護りしますよ!」


「ありがと。心強いよっ」


 テルマちゃんが憑依して、『神護の衣』を発動。

 マップを頭の上に浮かべて準備万端、進んでいきましょう。



 遊歩道と並木道がダンジョンの通路化した影響なのでしょう。

 木々を避けるようにして作られた道が、クモの巣のように張り巡らされています。


 視界をうばう深い霧に、位置感覚をうばう同じような風景の道。

 マップがなければ攻略難度、とってもとっても高そうです。


 しかしです、私たちには便利なマップがあるのです。

 迷わず最短距離を通って、無事に湖のほとりまでたどり着きました。


「おぉ、広い湖だぁ」


 ちいさな町ならひとつまるまる、すっぽり入っておつりがくるほどの大きさ。

 霧がなくても向こう岸がかすんで見えたことでしょう。


 ちょうど東側の岸辺に出たので、黒い点のほうへと歩いていきます。

 すると、すぐに見つかりました。


「あれ……かな」


「ただの人間霊、のようね」


 波打ち際にたたずんで、ぼんやりと湖面をながめている冒険者さん。

 鉄仮面をかぶっていて表情まではわかりません。


 けれど透けているのです。

 だから幽霊だというのはすぐわかります。


「声、かけてみるね」


「わかった。なにかあればすぐにカバーするわ」


 テルマちゃんの神護の衣があるおかげで、多少はムチャが効いちゃいます。

 ティアから離れて、そーっと、そーっと近寄ります。


「あのー、なにをしてるんですか?」


『……落とし物、探しているんです』


「そ、そうなんですね。見つかりそうです?」


『ありませんね。どこにもありません。けれどあなた、もっていますね』


「え……?」


 嫌な予感がして、一歩うしろに下がった直後。

 幽霊さんがぐるりとふりむきます。

 その勢いで鉄仮面がボトリと落ちました。


 どうしてふりむくだけで落ちたのか?

 なぜなら支える首が、頭がなかったから。

 ただ肩の上に乗っていただけだったんです。


『もってますね、あたま。うらやましい』


「ひっ、……きゅ」


『うらやましいなぁ……。あぁ、うらやましい……』


 ですが、身構えても襲ってきません。

 首の穴からただただ「うらやましい」と声をもらすだけ。


「あ、あの……、探すの手伝いましょうか?」


『あぁ、しんせつなひと。ありがとうございます……。ですがあなた、やめたほうがいいですよ?』


「ど、どうしてです?」


『どうしてって、あたまだからです。あたま。あたま。あたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたま』


 な、なに……?

 ぐにぐにと体が歪んで、どんどんちぢんでいって……。


「ティア、これって……?」


「『歪み』ではないわ。むしろコレは……」


 どんどん、どんどん小さくなっていく幽霊さん。

 あたまあたまと連呼しながら、とうとう消滅してしまいました。


「……『捕食』、されたようね。聖霊に」


「ど、どういうこと……? 聖霊、どこにもいないのに……?」



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