95 まっさらな可能性
巨大スサノオ分身たちをやり過ごし、ふたたび本体の前にやってきました。
剣を地面に突き立てたまま、微動だにしない『スサノオ』。
一見スキだらけなのですが、中では弱点の光がぎゅわんぎゅわんと超高速で動き回っている次第。
一筋縄ではいきません。
「トリス、もういちど私と視界を同期して」
『うんっ!』
ティアの中にすっぽり入って、太陽の瞳の力を共有します。
以前、綺羅星の瞳じゃないと使えなかった透視能力が、太陽の瞳では基礎能力。
なんにもせずとも目を凝らすだけでスケスケです。
「……やっぱり、動き回っているわね」
「オレらでとらえきれる早さか?」
「少なくとも、見えてないとムリなレベル……かしら」
「カンじゃぁとらえられないだろうし、このユウナ様でもどうしようもないかぁ。クヤシイケド」
むむむ、さて、どうやって攻撃を当てましょう。
みんなでゆっくり考えよう……なんて、そんなヒマを『スサノオ』が与えてくれるはず、ありませんでした。
『ふしゅぅぅぅぅぅ……』
息を大きく吐くような音が、目玉だらけの頭部から漏れます。
直後、腕に生えてる小さな腕たちが、なんと……!
『の、伸びてきた!?』
まるで触手のように、大量にのびてきたんです。
しかも腕の一本一本に、結晶製の剣を持って。
「無防備なんかじゃなかったってわけか!」
「いいじゃんいいじゃん面白いじゃん! こうでないと張り合いないってね!」
斬りかかってくるたくさんの腕に、まっさきに立ち向かうセレッサさんとユウナさん。
ヤリと双剣、そして二人のコンビネーションで、たった二人で防いでいきます。
「ティアナ! トリス! テルマ! どっちみちオレらにゃあ弱点なんざ見えねぇんだ! 防げてるうちにお前らで決めろ!」
「このユウナ様を足止め役にしちゃうんだから、しっかり決めちゃってよね、お姉ちゃんっ」
「……えぇ、まかせなさい」
『ふたりとも、ありがとう!』
とはいっても、さてどうしたものか。
動き回ってる弱点、早すぎて目がまわりそうです。
『ティア、そもそもあの弱点、とらえられる?』
「速度を重視した攻撃なら当てられる。けれど、それでは装甲を抜けないわ。さっき頭に一撃くれてやったとき、かなり硬かった。胴体となればもっとずっと硬いでしょう。だからこそ、三聖霊を束ねた大剣を用意したのだけれど……」
『あれってかなりの大振り、大技ですものね……』
結論。
装甲をなんとかするか、弱点の動きを止めるか。
このどっちかです。
「私個人の力では、打開できないかもしれない。けれど一人じゃないんだもの。あなたの新しい力、未知なる可能性。信じていいかしら?」
『私の、可能性……』
……そう、そうだ。
私、この新しい『瞳』のこと、なんにも知らないんだ。
どんなことができて、どんなことができないのか、限界も天井もまったく見えないまっさらな道。
その第一歩、どう転ぶのかわかんないけど……!
『……うん、とりあえずやってみる!』
力になるって言ったんだもん。
力になってみせましょう!
まずはいつものように瞳を閉じます。
そして魔力を集中させて、させて、させて……。
今やりたいこと、とりあえず弱点を止めたい、止めたい、止めたい……!
止まれぇぇぇぇぇぇ……!!
『――えいっ!』
開眼!!!
ばっちりと弱点を視界におさめて、おもいっきり凝視っ、です!
すると、なんと……。
「……止まった?」
『止まりました! すごいですお姉さま! ……お姉さま? あれっ、お姉さま!!?』
二人の声が、遠くに聞こえます。
ティアの姿がはるか下に見えます。
触手の腕と戦っている二人の姿も見下ろせます。
……えっ?
えっ、えっ??
『ティアナさん、大変です! お、お姉さまの霊体が、よだれを垂らして動きません!!』
「なんですって……?」
私もなんですって!?
えっと、つまり今、私……?
ためしに横に、スーッと動いてみましょうか。
『あっ、弱点動きました! 失敗ですか!?』
「いえ、なにか妙だわ……」
あー、やっぱり。
私、弱点を操れちゃってます。
しかも勢い余って、意識まで飛ばしちゃってるみたい。
そうとわかれば意識して、意識をもとにもどしましょう。
『……っは!』
『お、お姉さま!? お姉さまが起きました!!』
『ティア、うまくいった! あの弱点、今は私がコントロールできてるの!』
「トリス……。よかった、無事で。よくやったわね」
『えへへ。さぁ、思いっきりやっちゃって!』
これで弱点逃げちゃう問題解決です。
あとはティアが決めるだけ――かと思いきや。
「お、おい、目処がついたなら早くしてくれ! そ、そろそろ持たねぇ!」
「セレッサ!」
セレッサさんに限界が近づいています!
三本の腕から生えてる大量の腕を、二人でさばいているわけですから、とてつもない重労働ですよね……!
「わかったわ」
と言っても、装甲をつらぬいて弱点まで一撃で砕くには、かなりのパワーを溜めなきゃいけないことでしょう。
これまでも、この技を使うときには数十秒のチャージ時間が必要でした。
大剣を高々とかかげ、三属性の力をみなぎらせるティア。
溜めすぎても逆に力が散っちゃうから、あらかじめチャージできないのがもどかしいところです。
「このユウナ様が、さっそうとカバーに入りたいとこだけどねー」
「へっ、もともとお前の方が負担多いだろ。自然と二本分を受け持ちやがって」
「あら、バレてた」
「『筆頭』として、オレにも少しはいい格好させてくれよ!」
えっ、つまりユウナさん、ひとりで半分以上をさばいているってことですか!?
セレッサさんでも一本分で限界が来てるってことなのに。
あのヒト、底が知れません。
「く……っ、まだかティアナ!」
「あと少し……」
「できるだけ急いで――」
と、視線をティアにむけた一瞬のこと。
セレッサさんの防御をすり抜けて、剣が喉元に迫ります。
「しまっ――」
まずいです、誰もカバーに入れない状況。
このままじゃ……!
「……っやあああぁぁぁぁぁ!!!」
バチィン!!
セレッサさんの絶体絶命を救ったのは、飛び込んできた黒い影。
なんと、メフィちゃんです!
「お、お前……!」
「こ、怖いぃぃ……! 怖いけど、でも、でも……っ!!」
ブルブル震える腕で、にぎりしめているのは黒い棺。
パチンとフタをあけると、中からオオカミさんが飛び出します。
ですがなんだか普通とちがって、とっても大きなオオカミさんです。
「でも、見てるだけしかできずに終わるの、もっとイヤだから!! お願い、力を貸して!!」
『グルゥ』
答えるようにうなずいたオオカミさん。
メフィちゃんのかざした手に吸い込まれるように消えていって……。
「ブランカインド流憑霊術――」
メフィちゃんの帽子が吹き飛んで、半透明のオオカミの耳と牙、爪、それから尻尾が生えました。
「憑依霊獣・ダイアウルフ……! グルァァッ!!」
文字通り、オオカミが乗り移ったメフィちゃん。
うなりを上げながらセレッサさんに加勢して、すごい勢いで引き裂き、食いちぎっていきます。
すごいです!
「……へっ、やるじゃねぇか。オレも『筆頭』、下ろされたくねぇんでな! ピジュー、力を貸しやがれ!!」
セレッサさんも奮起。
木の霊力を全開にして迎撃です。
そんな中、淡々と腕二本分を処理しているユウナさんはなんなのでしょう。
「――チャージ完了。待たせたわね」
おっと、みんなの奮戦の甲斐あって、こちらのトドメも準備できましたようです。
風と炎がうずまく巨岩の刃。
これならいけます!
「おせぇんだよ!」
「お姉ちゃん、おもいっきりやっちゃって!」
『弱点までは、テルマの全力でお護りしますので! ノーガードで突撃してください!』
「えぇ。一気に決める……!」
地面を踏みしめて、ティアが飛びます。
弱点は私ががんばって押さえつけてます。
たくさんの腕たちをユウナさんたち三人がおさえてくれています。
迎撃に飛んでくる残る数少ない腕たちは、テルマちゃんの神護の衣ではじけ飛びます。
目の前に迫る『スサノオ』の弱点。
大剣をふりかぶって、ティアの最大最強の一撃が放たれました。
「奈落へ導く獄炎の嵐」
ズガアアァァァァァァァァアァッ!!!
岩の重さと風の鋭さ、炎の熱。
そして刃の切れ味が、『スサノオ』の硬い装甲をつらぬき、弱点を一刀両断。
胴体を蹴って飛び離れるティアの前で、『スサノオ』が天をあおいでうめきます。
『やったっ!』
決着です!
これで弱点を失った『スサノオ』は、モヤとなって崩壊して――。
『……えっ?』
なにか、妙な感じです。
霊気の増大?
このカンジ、さっきもあったような――。
『――!! みんな、いそいで逃げてぇぇぇぇ!!』
ティアの体から顔を出して、声の限りに叫んだ次の瞬間でした。
『スサノオ』の巨体が光を放ち、そして……。
ズドオオオォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオォォッ!!!!
天地をひっくり返すほどの大爆発が起こったのです。