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90 復活のユウナ様



 石造りの暗い廊下に、無造作に並べられた鉄格子。

 特殊な封印術が張られた牢の中、厳重に封印されている赤い棺。


 ここが話に聞いていた『聖霊の墓場』。

 聖霊様の力を封じ、自由を奪い、永遠の牢獄に閉じ込める、忌まわしきブランカインドの愚行の象徴。


「なぜこんな酷いことをできるのか。聖霊様こそ原始の時代から、我らの上位に君臨する偉大なる存在だというのに」


 そう、太古の昔。

 人がまだ闇をおそれ、闇とともに生きていた時代。

 この世を支配していたのは、まぎれもなく聖霊様なのだ。


 ブランカインドの連中がはばを利かせて、聖霊様を封じてまわり、道具のように扱うようになるまでは。


「正さなければ。世界を在るべき姿へ。聖霊様の世界へと」


 そのために『ツクヨミ』に協力し、こうして騒ぎを起こし、ついに『聖霊の墓場』までもぐりこめた。

 さぁ、まずは――。


『きいろいの、もってなぁい?』


「あら」


 突如として目の前に現れた、白い巨人。

 聖霊様かとほんの一瞬思ったけれど、どうやら少し違う存在ね。

 どれ、正体を見極めようか。


「秘伝霊術・聖霊秤(スピリット・スケール)


 『一族』に伝わるこの技は、霊的存在を解析し、情報を得ることができる。

 聖霊様か、それに類する存在のみにしか効果がないけれど、聖霊様とのコミュニケーションに一役買える優れもの。


 解析はすぐさま終わり、情報が頭の中へ流れ込んできた。


「『人工聖霊ネフィリム』。かつてブランカインドの葬霊士が聖霊の墓場を守るために生み出した、意思を持つ霊力の結晶体。代々の当主の持つ霊力を込めた札を持たぬものを、排除しようと襲ってくる防衛機構、ね」


 なるほど、想像以上に哀れな存在だった。

 聖霊様に対する冒涜ぼうとく、と言ってもいい。


『きいろいの、もってないのぉ? もってないなら、だめぇ』


「侵入者を排除するためだけに生み出された聖霊もどき。あなた、これから私を守りなさい」


『もってないならぁ、なかみ、しらべるぅ』


「『半月の瞳(ハーフムーン・アイズ)』。あなたの正気、すこしいじらせてもらう」


 あの『聖女』の力は、さいわいにしてまだ生きている。

 じきに使えなくなるだろうけれど、使えるうちは使わせてもらおうか。


 月の瞳の魔力で『催眠』をかけた。

 これでネフィリムは私を認識できなくなる。

 同時に『後ろをけてきている三人』のイメージも刷り込んだ。


『……しんにゅーしゃ。きいろいのもってない、しんにゅーしゃぁぁぁ!!』


 怒り狂ったネフィリムが、一目散に入り口の方へと這いずっていく。


 ブランカインドのセキュリティ、しょせんはこんなもの。

 ……いや、『月の瞳』が強力すぎるがゆえ、か。


 『ツクヨミ』の協力者を名乗り出て、本当によかった。

 聖霊様の時代を、ようやく聖霊様たちに取り戻してさしあげられそう……。


「さて、まずは『あの方』を探さなければ。成功した気になるのはまだ早い。最後まで気を抜かずに行きましょう……」



 ★☆★



 斬られた腕をくっつけられず、苦悶する白い巨人。

 タント――いや、ユウナの攻撃、相当きいたみてぇだな。


 しかしこの状況。

 タントがユウナの記憶を取り戻した、と見ていいのか?


「お前、記憶がもどったんだな!?」


「んー、すこしちがうかな。私は私、ずーっとユウナ・ハーディング」


「……つまり?」


「人格からして違う、的な? 殴られたショックでタントちゃんが気絶して、同時に私が目覚めさせられて、みたいな?」


「あやふやだなオイ。……へっ、まぁいいや」


 ユウナはユウナ、タントはタントとして、同じ魂に別の人格が宿っている、ってことなんだろうが、細かいこたぁどうだっていい。

 今この瞬間、となりにユウナがいる。

 それだけで最高じゃねぇか!


「ユウナ! 『筆頭』としてお前の次に強くなった、オレの力を見せてやる!」


「おーおーテンション高いねー。はしゃぎすぎてハメを外さないように」


「お前こそ、寝起きでなまってるんじゃねぇだろうな? 行くぜ!」


 オレがヤリを、ユウナが双剣をかまえ、ともに並び立つ。

 こんな日が来るなんて、半ばあきらめてた。

 爆発しそうな喜びをおさえつつ、息を合わせて巨人へ駆け出す。


『きいろっ、きいろっ! だしてくださぁぁぁい!!』


 オレたちをにらんで絶叫する巨人。

 それから口を大きくひらいて、いったい何をするつもりだぁ!?


「お、お二人とも逃げてくださいっ! すっごい霊力感じます、なんか来ますぅ!!」


 悲鳴混じりのメフィの忠告で、なにが来るのか予想がついた。

 ユウナと同時、左右に飛び離れた次の瞬間。


 ゴッ――!!!


 ヤツの口から極太の霊光が放たれ、地面をえぐり、かなたの山肌を削る。


「ひひゃあぁぁぁぁ!! とんでもないの来ましたぁ!!」


「だがナイスアシストだぜ、メフィ!」


 おかげであらかじめ、安全に回避できた。

 霊光を放ち続け、身動きが取れない巨人のふところに飛び込んで、


「ブランカインド流葬霊術――乱喰樹根ヴルツェル・ドルヒボーレン!」


 ヤリを突き刺し、ピジューの魔力でヤツの体内に木の根を実体化。

 体中に走らせて、全身から根の先端を突き出すほどに成長させる。


『あ゛ああ゛ぁぁあ゛ぁぁぁぁ゛!!』


 でっけぇ悲鳴だ、痛てぇだろうな。

 なんせ体中から木の根が飛び出してるんだ。

 だが、この程度じゃ倒せねえだろ。


 コイツはおそらく聖霊のはず。

 全身に巡らせた弱点を同時に破壊しなきゃいけねぇ。


『……いたいねぇ! きいろ、だしてってばぁ!!』


 やっぱりな。

 ケロッとしてやがるぜ、バケモノが。


 弱点をかすらないかと範囲攻撃してみたが、やっぱりダメか。

 となると……。


「おいユウナ、いったん退くぞ! トリスを連れてきて――」


「ブランカインド流葬霊術っ!!」


「っておい!」


 アイツ、いきおいのまま突っ込んできやがった!

 飛びながら体を回転させて、遠心力を乗せて……。


「ユウナ様大車輪っ!!」


 ……マジかよ。

 真正面から正中線を斬りつけながら駆け上がって、巨人を真っ二つにしちまいやがった……。


 ってかなんだその技の名前。

 たしかそれって、輪廻の円転ゼーレンヴァンデルングだろ。


「からのー、シューっト!!」


 ドゴオォォっ!!


 そして半分になった聖霊の左半身を、再生前にガケ下へと蹴り飛ばし……。

 いや、どんな脚力してやがんだ。


「……っとぉ。これでどう? 倒せなくても再生に、メチャクソ時間かかんでしょ」


「いやぁ、たしかにそうだろうけどよぉ……」


『はんぶん、なっちゃたぁ……。きいろ、きいろなのにぃ……』


 真っ二つになったもう半分で這おうとする巨人だが、やっぱ半分じゃ思うように動けねぇっぽいな。

 コイツがガケの下に降りて、体の片割れと再会して、再生してから追ってくるまで、かなり時間がかかるだろう。

 大型聖霊への対処方として完璧、だが……。


「お前、相変わらずメチャクチャだな……」


「破天荒といいたまえ。ユウナさんなら相変わらずさ。……しっかし、キミは変わったねぇ」


 お?

 なんだ、ニヤニヤしやがって。


「強さはもちろん、言葉づかいだって。なに? 大僧正のマネ? 昔はあんなにかわいらしかったのにねぇ……」


「マネってわけじゃねぇ。いろいろあったからな。……お前が死んでから、いろいろとよ」


「……そっか。いろいろあったんだ」


 おぉ?

 今度はいきなり真面目な表情に……。


「よしよし。セレッサ、よく頑張った」


「な、なぁっ!?」


 抱きしめてからの、『よしよし』だとぉ!?

 こんなの、こんなの……。


「~~~~~~~っ」


 こんなの、ずっと抱きしめてほしくなるだろうがよぉ……。

 ……いやいや、今はそんな場合じゃねぇ。


「……ユウナ、ご褒美はあとだ」


「ん、そっか。まぁそうだろうさ。任務優先、立派立派。えらいぞセレッサ」


「だ、だからなぁ……。まったく、調子狂うぜ」


 ……さて、かなり時間を稼がれちまったな。

 『聖霊の墓場』の中で、この間にキツネ面がなにをしてるかわかったモンじゃねぇ。


「急ぐぞ、ユウナ。巨人を倒して終わりじゃねぇんだ」


「あいあいっ! おともするよ、筆頭サマ」


「メフィ、お前は残るか?」


「えっ? えっ、えと……」


 へたり込んでたアイツの目線が、オレとユウナを行き来する。

 それから半分になった巨人の、巨大な右目と目が合って……。


『きいろ、もってるぅ?』


「ひ、ひぃっ! こんなのと二人っきりなんてゴメンですぅ!! ついて行った方がマシぃ!!」


「そうか、ならついて来い!」


「はいぃ!!」


 駆け出したオレたちのあとをついて、半泣きで走り出すメフィ。

 ガッツがあるのかないのかわかんねぇが、アイツの特技は力になるはずだ。


 キツネ面が何を企んでるか知らねぇが、ユウナがいればなんとかなる。

 となりにこの上ない頼もしさを感じつつ、吐き気がするほど猛烈に嫌な霊気がただよう『聖霊の墓場』へと駆け込もうとした、そのときだった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!


「な、なんだ……!?」


 地響きとともに、寒気がするほど『嫌な気配』が地面の下からせり上がってくるのを感じたのは。



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