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83 今夜の月は



「……ふむ、充分以上の量だね。よくやった」


 本殿裏口、キッチン近くの勝手口にて、大僧正さん自らがカゴに入ったキノコを確認。

 満足そうにうなずきました。


「任務完了だよ。さすがだね、トリス」


「いやぁ、えへへ」


「それにメフィも。よくやったよ」


「わ、わたしもですかっ!?」


「このサンクトリュフ、メフィが大半を収穫したんだろ? ティアナから、『メッセンジャー』での報告が届いてるよ」


「えひゃっ!? ティアナさんいつの間に!?」


「あなたの知らない間に」


「感知力、力の応用・拡張性。ひとまず『十席』としているが、そこに収まる器じゃないと俺ぁ思ってんだ。これからも励めよ」


 ポンっ、と肩を叩かれて、メフィさんがみるみる笑顔に。


「ありがとうございますっ」


 ブオンッ!


 なんて音がするほどの速度で頭を下げました。

 頭突きとして攻撃に転用したら、とっても痛そうです。


 ともあれ、これであの子も少しは自信ついたかな。

 ……私の方こそ、自信だけじゃなくもっと『出来ること』を増やさなきゃ。


「さて、任務が完了したところで、ティアナとメフィには新たな任務だ。セレッサ・タントの両名と合流し、合同して警備に当たれ」


「任務、うけたまわったわ」


「うけたまわりましたです、はいっ」


「で、トリスとテルマだが……」


「ティアといっしょに……?」


「……そうだね。いつも通り、ティアナの目になってやんな」


 大僧正さん、すこし考えてました。

 敵が私のことも狙ってるって、わかっているから。

 本当は安全なところにかくまっておきたいのでしょう。


 けれど、やっぱりティアのそばが一番安全だから。

 そういう決断なのだと思います。


「トリス。今回も頼りにしているわ」


「……うん」


 私の複雑な思いを察したのでしょうか。

 やさしい言葉をかけてくれるティアですが、やっぱり私も、もっともっとみんなの役に立ちたいよ……。



 ★☆★



 キノコを届けた私たちは、その足で本殿前の広場へむかいます。

 もちろんそこにいるはずの、セレッサさんとタントさんと合流するためです。


 到着した私たちをさっそく見つけて、片手をあげつつ気さくに声をかけてくるセレッサさんです。


「おう、キノコ狩り無事終わったか?」


「当たり前よ。私を誰だと思っているの?」


「ティアナさん、なにかしてましたっけ」


「幽霊を斬ったわ」


「なんだそれ。キノコ採りに行ったんじゃなかったのか……?」


 ホントになんだそれ、だよ。

 なんでティア、そこでドヤ顔かますのさ。

 セレッサさん困惑してるじゃん。


 そんな二人の会話を輝く瞳で見つめる女の子がここにひとり。


「はわぁぁっ、『筆頭』のセレッサさんと『最強』のティアナさんのおふたりがぁぁあ、わたしには及びもつかない雲の上の会話をおおぉぉぉ」


「雲の上でもなんでもないよ?」


「そも、会話になっていますでしょうか」


 あこがれというフィルターをかけると、あんな会話でも輝かしいものに映るんだね……。

 苦笑しつつも少し視線を外して、誰にも見られないようにため息。

 憂鬱な気分が、どうにも抜けません。


「……トリスさん」


「あ……、タントさん」


 あちゃぁ、見られちゃってた。

 心配したタントさんが私のほうに来ちゃったよ。


「浮かない顔ですね。『月の瞳』の件ですか? それとも聖女の……」


「うん。どっちも心配。けどね、ちがうの。ただ私……。……ううん、ごめん忘れて」


「……トリスさん。人間、ひとりで出来ることなんてたかが知れていますよ」


「え……?」


「あのティアナさんだって、私生活はだらしないですし、昔のボクにいろいろと世話を焼かれていたようですし、感知力さっぱりですし、壊滅的な方向音痴です」


 そ、そこまでボロクソに言ってあげなくても……。


「ですが戦いにおいて、右に出る者はいません。あなたもそう。感知において、あなた以上の人はいない。自信を持っていいんですよ」


「……ありがと」


 タントさん、優しいなぁ。

 私がこんな感じで悩んでるんだろうって感じ取って、はげましてくれるなんて。


 でもね、ちょっとちがう。

 自分に出来ること、出来ないこと、自覚してるつもりだから。


 ただ、もう少し出来ることを増やしたい。

 ただそれだけなんだ。


「……で、結局お前、『キノコ集めでは』なんの役にも立たなかった、と」


「人聞きが悪いわね。霊を斬ったと言っているじゃない」


「いや、だからな?」


 あ、まだやってる。

 おそらくティアは、ほめてもらいたいのだと思います。

 だからああしてあしらわれるのがガマンならなくて引き下がれない、と。


「……よしっ」


 これも私に出来ることのひとつです。

 あれやこれやと言い合っているティアのとなりに行って。


「ティア、がんばったもんね。助けてくれたとき、すっごくかっこよかったよ」


 なでなで。

 またはいい子いい子とも言う。


 頭をなでられたティア、とたんに機嫌がよくなりました。

 他のヒトからしたら、表情の変化にとぼしいかもですが、私にはわかります。

 ルンルンのホクホクです。


「ふふん。それほどでもないわっ」


 ファサァっ、と髪をなびかせて、もう絶好調。

 セレッサさんとの言い合いなんて、すっかり忘れてます。

 かわいいね。


「……もういいか? 今夜の会食時の警備、オレらの配置を決めてぇんだが」


「配置……。そっか、こんな大人数で一か所を見ててもしかたないもんね」


「おうよ。つっても2グループに分けるカンジか」


「となると、自然と決まりだね。セレッサさんとタントさんのコンビとー」


「……オレとコイツ、そんなニコイチに見えるか?」


「ボクの記憶を蘇らせる、とかで一緒の行動が多いですから」


「で、もう片方が私たちっ」


「当然ね」


「テルマ、お姉さまから離れません。そもそも離れられません」


 うん、あっさり決定……じゃないや。

 もうひとりいるんだよ、メフィちゃんが。


「あ、あのぅ、そのぉ、わたしの名前が出ませんが……。つまりはわたし、いらない子なんですかぁ……?」


「いや、決して忘れてたわけじゃねぇんだがな」


「戦力的にどう割り振るべきか、ですね」


 普通に考えたら葬霊士二人ずつで割り振るべきなんだけど、ティアがあまりに強すぎるもんね。

 並み以上の葬霊士何人分、ってくらい。


「セレッサたちの方がいいのではなくて?」


「……いや。ここはティアナたちに組み込もう」


「ひゃぐっ!? つつつつつまりわたし、セレッサさんからいらない子宣告をぉ!?」


「ちげぇよめんどくせぇな。オレらはお前のことをよく知らねぇ。一方アイツらとはキノコ狩りでいっしょしたぶん、連携も取りやすいと思ってよ」


「戦力外通告ではないのですねぇ!?」


「ではないですから安心しろ」


「よかった!!」


 泣いたり青ざめたり震えたり笑ったり、表情豊かな子だなぁ。

 こう、小動物を観察しているみたいです。


「では引き続きよろしくお願いしますティアナさんたち!」


「……お姉さまに変な気を起こさないでくださいね?」


「ひぃぃぃっ! すみませんすみませんすみません、わたしなにかしちゃいましたかぁぁぁ……?」


 テルマちゃん、圧かけないであげて。

 せっかく元気になってたんだから。



 ★☆★



 ……夜が来ました。

 月が出てます、しかしまんまるではありません。

 ブランカインドのいろんな場所の案内が終わって、いよいよ会食の時間です。


 私たちの集めたキノコが効果を発揮して、聖女『ルナ』が誰かの中から飛び出してくるのでしょうか。

 それとも誰にも憑いていなくて、取りこし苦労のめでたしめでたしで終わるのでしょうか。

 結果は神のみぞ知る。


 私たちの警備場所ですが、食事会場の部屋の前です。

 警備として堂々とそなえることができて、いざとなれば部屋の中に踏み込める絶好のポジション。


 セレッサさんたちですが、本殿の屋根の上に隠れてあたりを見張っています。

 こっそり隠れていた誰かが、外から仕掛けてくる可能性だってありますからね。

 可能性、潰していきましょう。


 さて、お部屋の中からはとってもいいニオイ。

 調理次第でくっさいキノコもいいニオイ。

 おもわずお腹が鳴りそうなところへ、見知った顔がやってきました。


「やぁ、トリスさん」


「あ、レスターさん! こんばんは!」


 いつもながら笑顔の裏が読めませんが、このヒト、信頼に値するヒトだと判断しました。

 もう心は許しています。

 なので安心してあいさつです。


「今回の訪問、ずいぶんとあっさり取りまとめたのね」


「えぇ、反対する者もおりませんでしたし。『ルナ』様のために、是が非でも成功させたかったですから」


「――そう、ルナのため……」


 他のヒトたちの目もある手前、本音を言えないカンジでしょうか。

 迷いのない笑顔でそんなことを言うなんて、とんでもない腹芸してますよ、このヒト。


「んん、いい香りがここまでただよってきます」


「ですよねー、いいニオイ! 私たち、食材集めを手伝ったんですよっ」


「……ほう、それは楽しみだ。ではそろそろ」


「はいっ、心ゆくまでおくつろぎくださいっ」


 ぺこりと頭を下げると、レスターさんは二コリと笑って会場へ入ってきました。

 そのあともツクヨミの事務方さんでしょう、どんどんヒトが入っていって、最後に。


「……!」


 仮面のヒトが、やってきます。

 少し空気がピリついた感じに。

 ティアにいたっては殺気まで出しちゃってるし。


「えと。ようこそ、いらっしゃいました」


 いちおう、あいさつです。

 お客さまですので、ぺこりとお辞儀します。


「……今夜の月は、何色だと思う?」


「え……?」


「なんて。入らせてもらうね」


 よ、よくわかりません。

 なんかよくわかんないこと言って、入っていっちゃいました。


 月が、何色……?

 ……何色でもいいけど、血の色だけには、なってほしくないな。



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