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76 またね



「お姉さまの玉の肌に、ぜったいに傷跡を残さないでくださいね……? もし残ったら呪います。祟ります」


『わ、わかってる。私のせいでもあるんだもん、責任もってバッチリ治すね』


 テルマちゃん、圧がすごい。


 今フレンちゃんは、私の体に憑依した状態で、治癒魔法を私の肩にかけてくれています。

 目の前まで来て無表情で見つめてくるテルマちゃんの迫力たるや、さっきのフレンちゃん以上かもしれません。


 ちなみにケガした私の体を借りてるのは、一度借りた経験があるから。

 他のヒトだとうまく出来ないかもしれないとのこと。


 斬れた腕をつなげた実績もあるもんね。

 問題なく治療できることでしょう。


『……よし、終わり。傷跡ひとつ残っていないはず』


「はず、ですか……?」


『自信はあるけど、確かめないと断言できないから。兄さんがいるのに、まさか脱いで確かめるわけにもいかないでしょう』


「それはそうですね……。お姉さまの裸を見られるの、あの世でテルマだけですから。この世では特別にティアナさんも許可しています」


『そ、そうなんだ……』


 なにフレンちゃん、そのただれた関係を知ってしまったみたいな反応は。

 ちがうからね。

 いや、ちがわないかも……?


『さ、次は兄さん。先にケガさせちゃったのに、後回しにしてよかったの……?』


「フレンを取り戻すため、体を張ったのはトリスさんだ。先に治療を受ける資格がある。それに今回の件、全て自分に責任がある。罰と思って受け止めるよ」


『……本当、ヘンなところで真面目だよね。真面目すぎ』


 ため息つきつつ、肩のキズに手をかざします。

 治癒の光が照らすレスターさんと、その瞳にうつる私の体を借りたフレンちゃん。


 二人の表情は、やわらかい微笑みでした。

 あんなことがあっても、兄妹の絆は少しも揺らいでいないみたいです。


 ……いいなぁ、血のつながった家族って。

 私とタントさんもそうなんだけど、いつかこんなカンジになれるのかな……。



 ――無事に治療が終わって、フレンちゃんが私の体の中から抜け出しました。

 もともとティアの腕を治すために呼ばれて、カーバンクルが捕まるまで安心できないからって残ったわけで。

 この世にやり残したこと、今度こそなくなったんだよね。


 とってもとってもさみしいですが、引き止めたりはしません。

 フレンちゃんが決めたこと、どこまでも尊重したいから。


「ティアナさん。召霊術の解除、お願いします」


「……わかったわ」


 さぁ、とうとうお別れです。

 二度目のお別れ、だけど永遠のお別れじゃない。

 どんな形でも、きっとまた会える日が来るから。


「トリスちゃん、体貸してくれてありがとう。それから、私を私に戻してくれて、本当にありがとう」


「当たり前のことしただけだよ。親友だもん」


「うん、親友。トリスちゃんは、私の最高の友達だよっ!!」


 両手をぎゅっとにぎって微笑むフレンちゃん。

 死んじゃった友達とこうして触れ合って、言葉を交わせる。

 いつかティアが言ったとおり、私ってとってもとっても幸せ者です。


 私から離れて、今度はレスターさんのところへ。


「……兄さん」


「フレン……」


「さみしい思い、またさせちゃうと思うけど、大丈夫?」


「兄さんだからね。妹にこれ以上情けない姿を見せるわけにはいかないよ。……それに、フレンが自分自身の意思であの世に逝くことを選んだなら、それを尊重したい」


「……独り残して逝っちゃって、ホントにごめんね」


「謝らないでくれ。こうしてもう一度言葉を交わせただけで、僕は……、僕は……っ」


 こらえきれなかったのでしょう。

 せきを切ったように、レスターさんの目から涙がこぼれだします。


「……はは、情けない姿を見せないなどと、言ったそばからコレとはな。フレンが安心して逝けないじゃないか」


「ううん。そんなことないよ。兄さんはきっと大丈夫。信じてるからね。……あっ、それと大事なことをひとつ。すぐに追いかけてきちゃダメだから! 幸せに暮らして、誰かわかんないくらいのしわくちゃおじいちゃんになってからだからね!」


「わかっているさ。ツクヨミの教義は『生きてこそ』だ」


「そっか。なら、安心して戻れるよ」


 最後にテルマちゃんとティアのほうをむいて、ぺこりと一礼。


「お二人とも、私の大事な親友をよろしくお願いしますっ」


「頼まれたわ」


「頼まれるまでもありませんっ!!」


「あははっ、頼もしい」


 ティアってば、やり取りがひと段落つくまで術の解除を待っていてくれていたのでしょう。

 最後のお願いをした直後、黒いモヤがフレンちゃんの体から立ちのぼります。


 まるで糸がほどけていくように、少しずつ黒いモヤに変わっていく。

 召霊術で呼び出された霊の消え方です。


「フレンちゃん。またね、だよね?」


「……うん。そうだよトリスちゃん。またねっ」


 『あのとき』と同じ別れの言葉を交わして、それから今度はレスターさんにも。


「兄さんも。またね」


「……あぁ、フレン。また、いつか」


 胴体が、手足が、欠けるように消えていく中、おだやかな笑みを浮かべるフレンちゃん。

 最後にぜんぶが消えるまで、ずっと笑顔のままでいてくれました。



 フレンちゃんが消えると同時、レスターさんがガクリと両ひざをつきます。

 頭をかかえて泣き崩れますが、コレはきっと気持ちの整理をつけているのでしょう。


 わかるよ、頭がぐちゃぐちゃになって泣くしかできないときってあるもん。

 そういうとき、ひとしきり泣くと頭がスッキリするんだよね。


 しばらく無言で見守ったあと、


「……皆さん、本当にお騒がせしました」


 起き上がったレスターさんは、キリっとした表情に戻っていました。

 気持ちの整理、ついたみたいです。


「本当、お騒がせだったわね」


「まったくですっ! お姉さまにお怪我まで負わさせて!」


「ふ、二人とも、おさえておさえて」


「弁解の言葉もございません。甘んじて受けましょう」


 レスターさんもレスターさんで、すっかりしおらしくなっちゃってるし。


「――『生きてこそ』。この世にこそ喜びがあり、この世にとどまることが最高の幸福。そう信じていましたし、今でもその信念は変わりません。しかしその信念を万人に共通すると信じ込み、あろうことかフレンに強要してしまった……」


「反省しているのなら、『ツクヨミ』について知っていることを洗いざらい話しなさい」


 ティア、さっそくぶっ込みすぎだよぉ!!

 弱ってるトコにつけ込むようなやり方、いいのかなぁ……。


「『ツクヨミ』に……? はぁ、特にかまいませんが……」


「ではまずあなたたちの親玉、聖女『ルナ』とやらについて詳しく教えなさい」


「ルナ様、ですか。……教団員にも明かしていない事実があるのですが、いいでしょう。ご迷惑をかけたお詫びです。ただし、他言無用でお願いします」


「えぇ誰にも言わないわ。さぁ話しなさい」


 ほらぁ、なんか教えちゃいけなそうなコトまで教えてくれるし。

 しかもさぁ、内容によっては大僧正さんに報告する気満々でしょ!

 ティアってば悪いよ、悪いんだぁ!


「彼女はですね。じつは『幽霊』なのです」


「幽霊、ですか!?」


「すでに死んでいる、ということ……?」


「えぇ。詳しい死因については不明です。……葬霊しようなどと、考えないでくださいね。彼女こそ、まさに『この世に在り続ける』ことを望む霊なのですから」


「そう。意思なら尊重したいわね。『歪む』心配がないのなら、だけれど。……続けて」


「歳の頃は11ほど。そして不思議なことですが、『トリスさんに非常によく似ている』のですよ」


「……えっ? えっ、私に? 私にそっくり??」


「トリスさんがわたくしを警戒していた理由、なんとなく想像がつきます。ザンテルベルムでわたくしににらまれたと思ったのでしょう」


 うわぁ、警戒してたのバレてたぁ!!


「じつは、ルナ様とうり二つのあなたに驚いてしまいまして。凝視ぎょうしした結果、おどろかせてしまったようですね」


「そ、それであんなすごい顔……」


「そんなすごい顔していましたか?」


 してましたよ、すごい顔。

 トラウマになりそうなレベルでしたよ。


「『星降りの洞窟』で接触したのも、ルナ様に似たあなたの正体を確かめるため。フレンの親友のトリスさんだったと知って、二度おどろきました」


 なるほどねぇ。

 ……しかし、私と同じ顔の聖女かぁ。


 同じ顔と聞いて思い出すのが、ブランカインドの夜に見たそっくりさんの幻影と、モナットさんから出てきた霊。

 ティアとテルマちゃんも、それぞれに思うところがあるようで真剣な顔をしています。


「トリスと同じ顔……。まさか――」


「お姉さまと同じ顔……? ですがテルマはお姉さまひとすじ……」


 ……真剣だよね、テルマちゃん?


「――わかったわ。もう少し詳しい情報は、提供可能かしら」


「そう、ですね……。他に変わったことと言えば、『月の力』を他人に分け与えられる……ことでしょうか。フレンやテルマさんを見る限り、霊体のままで力を行使可能な霊は、どうやら珍しいみたいですね」


「月の力……?」


「瞳に不思議な力を宿らせる術です。光彩が月の形に変わり、さまざまな力を行使可能になる」


「瞳に、月を……? ティア、それって……!!」


 ジャニュアーレさんの記憶で見た女の子。

 聖霊カーバンクルをあやつって襲ってきた女の子。

 月の瞳を、その身に宿して使っていました……!


「……あなた、モナットという名に心当たりは?」


「モナット……? どうして彼女の名を、あなたが……」


「そう、知っているのね。私たち、夕べ彼女に襲われたの。危うく殺されかけたわ」


「なん、ですって……!?」



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