表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/173

75 あなたを助けたい



 実のお兄さんに襲いかかって、首筋に歯を突き立て、グリグリと押し込むフレンちゃん。


「う……っ、うっ、うああああぁぁぁあっぁぁあぁぁあぁぁぁぁっ!!!!!!」


 レスターさんの恐怖に満ちた悲鳴が、森の中にひびきます。

 なにこれ、どうしてこんなことに……!


「フレンちゃん、まさか――」


 急いで目を閉じて、魔力を集中、集中、集中して……開眼!


綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズ!」


 霊のすべてを見通す瞳で、フレンちゃんの霊体の中を確認です。

 すると、やっぱり。

 人間でいう心臓の場所、胸の中心にある魂の輝きが、黒く染まってしまっています。

 これって、つまり……。


「フレンちゃんが……っ、『歪んで』る……っ」


「お兄ちゃあぁあぁぁん!! オニィチャアアァァァァァ!!!」


「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃ!! なぜだっ、なぜ、儀式は成功したはず……っ」


「失敗よ」


 ティア、とっても怒っています。

 ドライクにむけたのと種類こそ違いますが、とっても怖い顔でにらんでいます。


「魂に直接干渉する術なんて、熟練の術師でも成功失敗、五分と五分。だからこそテルマをずっと切り離せないでいるというのに」


「そ、そんなっ、そんな……っ!!」


「軽率にも程があったわね。妹を思ってのことなのでしょうけど、結果がコレよ」


「オニイチャンっ!! 私ねっ、喰い殺されたのよッ!! とぉぉっても痛かったのっ!! オニイチャン、一緒がいいんでしょ!? 一緒になろぉぉぉぉぉ!!?」


「や、やめてくれっ! 僕が悪かったっ、だから正気に戻ってくれぇ!!」


「もう無理よ。ここまで『歪んで』しまったからには――」


 ティアが背負った十字架から、双剣をスッ、と抜きます。

 まさか、まさか……!


「……斬るしかないわ」


「ティア、待って!!」


 斬りかかろうとするところ、間に割って入って止めます。

 ティアがフレンちゃんを斬るだなんて、そんなの、そんなの……!


「トリス……。気持ちはわかるわ。でも――」


「お願い、ちょっとだけ待ってっ! 大事なヒトが親友を斬るトコなんて、見たくないよ……」


「けれど……。他になにか、考えがあるの?」


「……私にまかせて。テルマちゃんも、私がいいって言うまで衣を出しちゃダメだから」


「えっ……、ですがお姉さま……!」


「お願い。聞いてくれなきゃ嫌いになっちゃうよ?」


「うぅ……っ、ずるいですっ。信じましたからね?」


 コクリと、二人にうなずいて、ゆっくりとフレンちゃんに近寄っていきます。


「ねぇ、フレンちゃん?」


「……なぁぁぁぁにぃぃぃ? トリスちゃぁぁん?」


 ぐるり。


 首を真反対に回してほほえむフレンちゃん。

 口元にはびっしりとレスターさんの血がついています。

 フレンちゃんじゃなかったら泣き出していたところです。


 レスターさんは拘束から解放されて、


「あ、あぁぁぁ……」


 ドサっ。


 大量に血を流しながら、しりもちをつきました。


「ね、ちょっとお話しようよ」


「いいよぉ、親友だもんね。たくさん、たぁくさんお話しよぉ?」


 フレンちゃん、フラフラ、よたよたと近づいてきて、私の目の前へ。

 思いっきり顔を近づけて、下からのぞき込んできます。

 フレンちゃんじゃなかったら逃げ出していたところです。


「でも、その前にぃぃぃ……」


「え――」


 ガブゥゥぅうっ!!


「い……たっ!!」


「トリスちゃんも、お揃いになろぉぉぉぉう!! 仲良しだから、おそろいにぃぃぃぃィィィ!!!」


 肩に走る激痛。

 レスターさんと同じように、フレンちゃんが私の首筋に噛みついてきました。


「お姉さまッ!!!」


 悲鳴混じりの声をあげて、私のほうに飛んで来ようとするテルマちゃん。

 そうだよね、テルマちゃんならそうするよね。

 だけど……。


「待っ、て……!」


 左右に首をふって、来ちゃダメって意思表示。


「ですが……!」


「まだ、いいって言ってないよ……?」


「――ッ!! わ、わかりました……」


「いい子、だね……っ」


 テルマちゃん、もしも霊から血が出るのなら出ちゃってそうなくらい、拳をぎゅっとにぎってこらえてくれました。

 ありがとね……。


「フ……っ、フレン、ちゃん……!」


 肩が焼けるように痛い、熱い。

 見たことないくらい血が出てる。


 こっちを『見える』と認識してる幽霊に襲われると、こうなっちゃうんだ。

 けどね、むこうが私を噛める、つまり触われるってことは、私もフレンちゃんに触れられるってこと。


 だけどつき飛ばしたりしない。

 むしろ逆。

 フレンちゃんの背中に手をまわして、力いっぱい抱きしめる。


「ゴメン、ね……?」


「なあぁぁぁにがぁ?」


「こんなに、痛かったん、だね……。ううん、きっともっと痛かった……。私が、あんなドジして追い出されなきゃ……、こんな痛い思いしなかったのに……」


 肩の肉を食いちぎろうとするフレンちゃんの力に負けないくらい、私のせいいっぱいの全力で抱きしめて。

 言いたいこと、全部全部伝えたい。

 フレンちゃんが大好きだから。


「……ねっ、覚えてる……? 私たちが、初めて会ったときのこと……」


「…………ハジ、めて……」


「そ……、初めて……。私、言ったよね……。誰かのためになりたい、『人助け』がしたいって……。笑われるかな、って思ったのに……、私と友達になってくれて、パーティーにまで入れてくれた……。すっごく、すっごく嬉しかったよ……?」


「ヒト、だすけ……」


「『人助け』したいって気持ち、今もずーっと変わってない……。うぅん……、むしろずーっと強くなってるよ……! この欲求の正体に気づいても、そんなの関係ないくらいに……っ!」


「……う、ウゥ……っ」


 噛む力が、ほんの少しだけゆるみます。

 私の声、届いてるのかな……?


「困ってるヒトを見たら、放っておけない……。そのヒトが生きてても、死んでても、関係ない……! フレンちゃんだって……、今まさに困ってるフレンちゃんだって、全力で助けたい……!!」


「ワタし、わたし……!」


「フレンちゃん、あの世に逝くって決めたとき、こう言ってた……。やり残したことはあるけど、『歪んで』自分じゃなくなっちゃう方が、ずっとイヤだって……! だからこんなの、フレンちゃんは望んでない。望んでるはずがない!!」


 あごの力がさらに弱まりました。

 その瞬間、両肩をグッとつかんで引き離して、目と目をしっかり合わせます。

 私の声が『本当』のフレンちゃんにとどくことを願って。


「戻ってきて、フレンちゃん! 『歪み』なんかに負けちゃダメ! 守りたかった『自分』を取り戻して!!」


「う……、うぁっ、ああぁぁぁっ……」


 揺らぐ瞳、震える声。

 私から体を離して、一歩、二歩と後退していくフレンちゃん。

 両手で頭をかかえてうずくまって、


「あああぁぁあぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁッ!!!!!」


 苦しげな絶叫が、静かな森にひびきました。


 叫んだあと、まるで糸が切れた人形のようにうずくまってうごきません。

 ど、どうなったの……?


「……フレン、ちゃん?」


 おそるおそる呼びかけてみます。

 すると、顔をあげたフレンちゃんは……。


「トリス、ちゃん……? その肩、私が……?」


 瞳にたしかな理性の色。

 胸の中に燃える魂の炎も、『歪み』がキレイに消えています。


「よかった……。もどってきてくれた……!」


「トリスちゃん、私……。私、なんてことを……」


「いいの……。アレはフレンちゃんじゃない。だから、もういいの……」


 あらためて、ぎゅっと抱きしめます。

 今度は噛みつかれず、優しく抱きしめ返されました。

 力弱め、ひかえめなのがフレンちゃんらしいです。


「兄さんも、ごめんなさい。ひどいケガを負わせてしまって……」


「あぁ……。あぁ、フレン……。兄さんこそすまない……! すべて、すべて自分の責任だ……!」


 レスターさん、地面を殴りつけて、何度も頭を左右にふっています。


「謝らないで。私のためを思ってしてくれたことなんだよね?」


「そう、なのだろうか……。本当にフレンのためを思ってやったのだろうか……。ただ自分の寂しさを埋めたかっただけなのでは……」


「レスターさん。今さらあれこれ後悔しても意味ないです。こうしてフレンちゃん、戻ってきたんですから。大事なのはこれからどうするかですよっ!」


「兄さん。そうしてくれると私も、安心してあの世に戻れるかな」


「フレン……」


「ウジウジ後悔ばっかりしていたら、逆に未練になっちゃうかも」


「そう、か……。そうだな、フレンがそう言うのであれば、フレンのためになるのなら……」


「うんっ、これで解決だね――あ、いったぁぁぁぁ……い!!」


「トリスちゃん!?」


 ここまで気にしてる余裕がなかった肩のキズ。

 安心したら、一気にズキズキし始めました。


 私ってば、よくこんな痛いのガマンできてたなぁ……。

 泣きそうになりながら、フレンちゃんとの友情のすごさも感じたのでした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ