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73 感動の再会……ですか?



 中央都南東、すこしさびれた路地の裏。

 いました、カーバンクルです。

 日の光を避けるように、路地のすみっこでうずくまって寝そべっています。


「いたよ」


「いたわね」


『いましたね』


 テルマちゃんは、すでに私に憑依済み。

 神護の衣も展開済みです。


 いつでも万全、私をしっかり守ってくれるテルマちゃん。

 大事にされているんだなぁ、って胸が暖かくなります。


「で、ティア。どうする? 昨日みたいに私が目になるカンジかな」


「えぇ、それでいきましょう。シンプル、けれど一番確実よ」


「よぉぉし。……あっ、フレンちゃんは私といっしょに隠れてようね。聖霊って霊を食べちゃう怖いヤツなんだから」


「昨日見たから知ってるよ。絶対に近づけないよ、あんなの……」


 怖いよね、ホント。

 テルマちゃんの衣が無かったら、きっと私の足、ガクガク震えているでしょう。


「よし。1、2の、3で仕掛けるわ。トリス、目の準備をお願い」


「うんっ。まずは天河の瞳ミルキーウェイ・アイズを解除して――っと、ちょっと待って」


「……どうかした?」


「こっちにヒトが来ちゃってる……! 今戦い始めたら巻き込んじゃうよ……!」


 消すためにマップに目をむけたとき、気付きました。

 黄色い点がこっちにむかってきています。


「……本当ね、誰か来るわ」


『なんなのでしょう、こんな路地裏に来るだなんて。悪いヒトかもしれません、気をつけましょう!』


「悪いヒトならティアがいるから大丈夫だと思うなぁ……」


 ともかくとして、もうすぐ姿を現します。

 マップと角を交互に見比べつつ、姿を現したのは――。


「……コホン。おや、皆さん奇遇で――」


 なんと、レスターさんでした。

 私たちの顔を見て声をかけてきたのですが、その中のひとつに目がとまったのでしょう。

 表情が凍りつきます。


「……にぃ、さん……?」


 フレンちゃんも、また同じ。

 思わぬ場所でのまさかの再会に、二人とも思考が停止してしまったようで……。


「……っ! やっぱり、フレン……。本当に、フレンなのか……?」


「兄さん……、こんなところで会えるなんて……」


「フレン……! フレンっ!!」


 レスターさん、『大声』で駆け寄ってきてしまいました。

 そもそもこちらの状況を知らないのなら、仕方のないことなのでしょうが。


『……ギギッ!』


 その結果、カーバンクルが私たち――というか、自分を痛めつけたティアの存在に気づいてしまったんです。

 すると行動は早かった。

 すぐさま姿を消し、カベを四つん這いでよじ登っていってしまいます。


「ティアッ! カーバンクルが逃げちゃう! 前の建物、上から三つ目の窓の上!」


 綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズに切り替えられていませんが、爪がカベにめり込む様子で手に取るように位置がわかります。

 正確な場所をすぐさまティアに教えると、


「わかったわ」


 シュッ!


 ノータイムで飛んでいく長剣。

 私の言ったそっくり同じ場所に突き刺さりました。


『ギッギュあぁぁ!!』


 姿を現したカーバンクルが、絶叫しながら真っ逆さまに落下です。


「『私たち』から逃げ隠れできるなんて、思わないことね」


 もちろん撃墜するだけじゃ終わりません。

 すぐさま駆け込み、双剣を十字にかまえて……。


「ブランカインド流葬霊術――十字の餞(シルヴァ・クロイツ)


 ザンッ!


 十字架状に、正確に弱点を斬り裂きました!


『ギョグぇェェェ!!!!』


 断末魔の叫びをあげて魂を吐き出し、緑のモヤモヤへと変わるカーバンクル。

 ティアはすぐさま聖霊用の赤い棺を取り出して、吸い込み、フタを閉じます。


「どれだけ再生できようとも、閉じ込めてしまえば関係ないわ」


「やったっ。被害が出る前に片付けられたねっ」


「そうね。吐き出した霊たちは、歴代の犠牲者たちみたいね」


 吐き出した人魂、合計で36個。

 これまで長い間生きてきて、これだけの魂を食べてきたんだ。


 そのうちのひとつに、見覚えのある歪んだ顔がついているものがありました。

 モナットさんです。

 声にならない悲鳴を上げて飛び回ってる……。


 ティアが封縛の楔(ズィーゲルン)を使って、犠牲者たちの魂を吸い込んでいきます。


「こちらは別で吸い込んでおきましょうか」


 モナットさんの魂も、別の黒い棺に吸い込まれていきました。

 一応、って言ったのは、きっとまともに話ができる状態じゃないって判断したんだろうなぁ……。


 さて、一連の動きの元を作ったレスターさんですが、なんだかバツが悪そうにしています。


「すまない、どうやら取り込み中だったようだね。ものすごい怪物のような霊と戦っていたみたいだが……」


「あっ、こっちはこっちで気にしないでください。さいわい無事に片付いたのでっ」


 ちょっと予定が狂っちゃったけど、まぁ結果オーライ。

 死んだはずの妹さんがいたら、誰だって取り乱すでしょう。

 あの世まで追いかけるほど妹思いなお兄さんならば、なおのことです。


「……しかしあなた、やけにタイミングが良すぎない? しかもこんな、滅多に人の通らない路地裏で」


 ティアはまだまだ警戒しっぱなしだね。

 怪しんでるのを、もはや隠そうともしていません。


「偶然をよそおって来たようだけれど、いささか演技臭かったわよ」


「……じつは、往来おうらいでキミたちを見かけてね。その中にフレンの後ろ姿を見た。本当にフレンなのか確かめたくて、ここまで追ってきてしまったんだ」


 このヒト、ホントのこと言ってます。

 表情でわかるんです。

 そんな意味をこめてティアにうなずきます。


「……はぁ。もう少し気をつけなさい? 一歩間違えれば大惨事になるところだったのよ」


「本当に反省しているよ。軽率だった」


 よかった、ティアも信じてくれたみたい。

 あきれつつも許してくれました。


「それにしても、だ。フレン、どうして現世にいるんだい?」


「えぇっと、ね……。話していいのかな?」


 チラリとこちらにおうかがいを立てるフレンちゃん。

 ティアがうなずいたので話し始めます。


 昨日の夜に私たちが襲われて、ティアが大ケガしたこと。

 その治療のために呼び出されたこと。

 襲撃者が聖霊を持っていて、そいつが逃げ出してしまったこと。

 事態がおさまるのを見届けるまで、帰りたくなかったことまで。


「そんなことが……。しかしフレン、こうしてキミと会えてうれしいよ。たとえつかの間の時でも、ね」


「私も、兄さんが元気そうで安心した。私がいなくなってダメになっちゃったんじゃないかって、未練のひとつだったから」


「ははっ、心配性だな、フレンは」


「ねぇ、今兄さんはなにをしているの? かなり立派な、貴族のような身なりをしているけれど、危ないことしてないよね?」


「……本当に心配性な子だ。安心してくれ、兄さんは『人のためになる事』をしているんだ。あぁ、ちょうど『現場』に行く途中だったのでね。よかったら見に来ないかい? トリスさんたちもいっしょに」


 ヒトのためになること……!

 わ、私の中の『人助け欲』がうずきだしました。

 もうこの衝動、止められません!!


「行こう、ティア! ぜひついていこう!」


「えっ? ……えぇ、そうしましょうか」


 あぁ、私の剣幕にティアが少し怯んじゃった。

 おのれツクヨミ、私にこんなものを植え付けて……!



 ★☆★



 兄さんに連れられて、やってきたのは街の南東、自然が多い公園。

 ここの入り口ちかくに来ると、なんとなく目的がわかりました。


 兄さんの所属している団体の人たちでしょう。

 せっせとテーブルやイス、それから鍋とか『結晶』を使った調理器具を出しては並べています。


「これが今、兄さんが所属している団体『ツクヨミ』の活動さ。今日は貧しい人たちのために炊き出しをしているんだ」


「わぁっ、すごいですっ!!」


「ト、トリスちゃん……」


「私もお手伝いしていいですかっ!!?」


「あ、あぁ、もちろんさ。ただしボランティア、給金などは一切出ないからね」


「見返りなどは求めませんとも! 行こう、ティア!! 人助けが私を待っているッ!!!」


「わ、わかったわ……」


 すっごい張り切ってるなぁ、トリスちゃん。

 人助け魂に火がついちゃってる。

 ティアナさんをひっぱって、さっそくお手伝いに飛び込んでいっちゃった。


「ふふっ、相変わらずだなぁ。トリスちゃんってば」


「フレンからの手紙で知っていたつもりだが、これほどとはな。以前からあんな調子なのだろう?」


「うん。困ってる人を見たら放っておけないの。人助けしたくってたまらなくて、田舎から飛び出してきたくらいの筋金入りなんだから」


「それはそれは……」


 苦笑いを浮かべる兄さん。

 いくら事前に知ってても、初めてナマでちゃったら、そりゃそんな反応になるよね。


「おかしな子だよね。だけど、そこがとっても大好きで、誇りに思える友達なんだ」


「……良い友達を持ったんだな。トリスさんに感謝しなければ」


「ホントに、感謝してあげて。……だけどね、トリスちゃん私以外に仲のいい人いなかったから。『ふたり』も心を許せる人が出来て、とっても嬉しいな。またひとつ、未練が消えちゃった」


「――二人?」


 あれ?

 兄さんが不思議そうな顔してる。


 なんだろう。

 私、なにか変なこと言っちゃった?


「二人、と言ったね。ティアナさん以外に、誰かいるのかい?」


「うん。兄さん知らなかったの? いつもトリスちゃんといっしょにいる、テルマちゃんっていう幽霊の女の子。とっても楽しそうでね、うらやましいなぁって思っちゃうくらい」


「ゆう、れい……の……? いつも、一緒にいる……? うらやましい……」


 ……その時、兄さんが浮かべた表情は、私が見たコトもないものでした。

 背筋がゾッとするような、狂気をはらんだ表情で……。


「……そうか、そうだったのか。わざわざ生き返らせずとも、幽霊のままでよかったのか……。そうだ、フレンは今ここにいる……。あぁそうだ、あのご婦人もそうしていたじゃないか……」


「えっ? えっ……? 兄、さん……?」


「なぁフレン。兄さんとずっといっしょにいよう。ずっと離れず、兄妹いっしょに……!」



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