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69 笑顔の裏が読めません



 『ツクヨミ』の教団本部は、中央都の中心近く、いわゆる一等地にありました。

 タマスク教に代表される一般的な教会とちがって、ホントに事務所ってカンジですね。

 三階建ての建物で、ヘタなお屋敷より大きそうです。


「さぁどうぞ。遠慮せずお入りください」


 レスターさんにうながされて入り口をくぐります。


 中は思った以上にしっかりした礼拝堂でした。

 信者さんたちが祭壇にまつられた銅像に、熱心に祈りをささげています。


 ちなみに銅像はよくある女神様ってカンジ。

 美人さんに作られてますね、なかなかの仕事です。


「ごらんの通り、ここが礼拝堂。一般の方はここまでしか立ち入れません。まぁ、どこの教会にも言えることですかね」


「ですねっ。それ以上はお店の裏側みたいなものですし」


 雰囲気明るいし、レスターさんも笑顔で和気あいあい。

 なんだか構えて来たのが拍子抜けなくらいです。


「……つまり、私たちが立ち入れる場所はここまで、ということかしら?」


 ティアは私とちがって、ぜんっぜん気をゆるめていないですけどね。

 探りを入れる気まんまんだ。


「お望みでしたら、奥まで案内いたします。客人にお茶の一杯もお出ししたいところですし」


 レスターさんも笑顔を崩さず。

 腹芸してるのかホントにいいヒトなのか、私にはわからないので言葉通りに受け取っておきましょう。


 うたがう役がティア、警戒を解く役が私、ということで。



 奥の応接間まで案内されて、ソファーに座って二人分のお茶を出されます。

 ちなみにテルマちゃんはまだ私の中に隠れたまま。

 いつでも衣を出せる状態です。


 それにしても部屋の中、思った以上に簡素ですね。

 置いてあるの、シンプルな家具だけです。


「……儲かっていないの?」


「そんなことはありませんが、私腹を肥やすための教団ではありませんからね」


「そう。ならば『なんのため』の教団なのかしら」


 いきなり切り込んでいくなぁ。

 さてさて、レスターさんの反応は?


「――ふむ、なにか誤解なされているようだ。いいでしょう、教団『ツクヨミ』についてご説明いたしましょう」


 やはり笑顔を崩さず、です。

 にこやかに教団の解説をはじめます。


「まず教団の最大の目的は、『あの世』ではなく『この世』で幸せになることです。『生きてこそ』が第一の教義」


「具体的な活動は?」


「寄付金をほぼ全額、困窮している信者への生活支援や仕事の斡旋あっせんをはじめとした慈善事業にあてています。世をはかなんであの世への逃避をはかる悲しい結末を、ひとつでも減らすために」


「立派な活動ね」


 ティア、目が笑ってないよぉ。

 まるで「どうせ裏があるんでしょう」って顔で言ってるみたいだよぉ。

 もう少し愛想よくしよう?


「もういくつか、質問いいかしら?」


「えぇ。ふたつみっつと言わずいくらでも」


「たしかザンテルベルムの演説で名を出してたわね。聖女『ルナ』といったかしら。その聖女が教祖なの?」


 聖女ルナ、たしかに言ってました。

 一度死んで生き返った、とか、私的にとっても聞き捨てならないことを……!


「『創始者』という意味でなら、その通りです」


「彼女は今ここに?」


「あいにくと出かけておりまして。いつ戻るかもわかりません」


「生き返った、というのは本当?」


「真実、と受け取っております」


「……あいまいな答えね」


「真相は彼女のみぞ知る。ただ、彼女の『誰かを救いたい』という想いが誠の心から出たものだと、わたくしは信じております」


 むむ、うまくかわされたカンジですね。

 レスターさんの表情、笑顔のままで固まって私でもウソかどうか見分けがつきません。

 表情が変化しないんじゃ、読み取れませんから。


「最後の質問よ。『ツクヨミ』という教団名の由来、教えてもらえるかしら」


 そしてとうとう核心へ。

 そもそも警戒対象になったのは、その名前が原因ですからね。

 なんだかドキドキしてきました。


 レスターさん、すこしだけ戸惑ったような表情を見せます。

 初めて見せた笑顔以外の表情でしたが、またすぐに、にこやかな顔をとりつくろって……。


「死者をよみがえらせる聖霊の伝説、ご存じでしょうか」


「……!!」


 やっぱり……!

 ツクヨミって、あの『ツクヨミ』です!!


「詳しく聞かせてくれる?」


「はるか昔のことです。どこか遠い異国より、この大陸へ三体の聖霊がやってきました。ひとつは願いを叶える力を持ち、ひとつは死者を蘇らせる力を持ち、ひとつは世界を変える力を持つ」


 願いを叶えるって、『ヤタガラス』のことだ。

 ヤタガラスとツクヨミに、つながりがあったってこと……なのかな。

 だったら残りの一体は……?


「聞いたことのない話ね」


「古文書の解読が趣味でしてね。たまたま見つけたまでです。……ほかの二体に関しては存在自体が怪しいもの。しかしルナ様は見たのです。『ツクヨミ』が死者を生き返らせる瞬間を、ね。つまりツクヨミだけは実在する。確実に」


「ルナもツクヨミの力でよみがえった、ということでいい?」


「……詳しい事情は存じ上げませんので。ともあれ、ツクヨミの力こそ現世を至上とする我らの象徴。ゆえにその名をいただいた、というわけです」


「ありがとう。興味深い話が聞けたわ」


「いえいえ。こちらとしてもブランカインドとは、いい関係を保っていきたいと思っています。これからもなにとぞ良しなに」


 引き出せる情報はここまで、ってカンジでしょうか。

 握手をもとめるティアと、笑顔で応じるレスターさん。

 一見すると平和な光景、なんですけどね……。



 レスターさんに見送られて、本部をあとにする私たち。

 時刻はすっかり日が暮れて、月が夜空に顔を出すころ。

 思った以上に長居しちゃってたみたいです。


 『ツクヨミ』本部から遠く離れて、テルマちゃんがようやく私の中から出てきます。


「……ふぅっ。お姉さまに何事もなく、テルマ安心しました」


「ありがとね。ずーっと隠れて守ってくれてたの、とっても頼もしかったよ」


「そのねぎらいの言葉だけで、テルマは百年頑張れます!!」


「言葉だけでいいの?」


「……っ!! そ、それは、ですね……?」


 あらら、もじもじし始めちゃった。

 押しが強い子ほど、押してあげると弱い説。

 私の中で立証されそうな今日このごろです。


「ティアもお疲れさまっ。大変な一日だったねぇ」


「そうね。ただ、あのレスターという男。腹の底が見えないわ。フレンさんの兄だからって必要以上に心を許さないように」


「うーん……。ティアが疑ってかかってるから、ちょうどバランス取れてたんじゃないかなぁ」


「……言えてるかもしれないわね。ただ、私は最後までうたがってかかるわよ。『ツクヨミ』も、あの男も。きっとそれが、あなたを守ることにつながるから」


「……っ」


 け、結局私のためなんじゃんっ。

 顔が赤くなるのを感じつつ、王都より街灯が少なくって薄暗い中央都に感謝する私でした。



 ★☆★



 トリスさんたちが帰ったあと、わたくしは本部の奥へとむかう。

 その『瞳』で一部始終を見ておられた、我らが聖女様のもとへと。


 月明かりが差し込む薄暗い部屋。

 玉座に腰かけた『赤い髪と黄色い瞳』の少女にひざまずき、うかがいを立てる。


 歳の頃は11程。

 しかし不思議と、ひざを屈することにためらいを覚えたことなど一度もなかった。


 しかし、一方で疑念が生まれている。

 歳こそひとまわり幼いが、あまりにも彼女と『似すぎて』いるのだ。

 いったいどういうことなのか……。


「……ルナ様、いかがでした? 彼女たちの『記憶』の中を覗かれたとのことですが」


『いろいろとわかった。願いを叶える「ヤタガラス」が実在していたなんてビックリ。「あの男」の妄想じゃなかったのね』


「なんと……」


『けれど残念。どうやら不完全。どこかに心を忘れてしまって、チカラが失われているの』


「そう、でしたか……。やはり我らの悲願を果たすには、ツクヨミが不可欠……」


『だね。そんなレスターに、ヤタガラスよりもっとビックリな情報。「ツクヨミ」、ブランカインドが捕まえてるの』


「そ、それは真ですか……! おぉ、なんたる僥倖ぎょうこう……」


 死者を蘇らせる。

 夢のような力を秘めた聖霊、ツクヨミ。

 我が妹フレンをこの世に呼び戻すために、その力、是が非でも手に入れたい。


『さ、在りがわかったよ。次はどうする?』


「次、ですか……。今後のことも考えれば穏便にすませたいところですが――」


「あっ、レスター帰ってたんだ」


「……モナットか」


 ズカズカと入室してきた、ルナ様と同じ赤毛に青い瞳を持つ女。

 ノックもせずに入ってくるとは、不躾ぶしつけな女だ。


 彼女のことはどうにも好ましく思えない。

 信徒でもない上に、『月の力』をルナ様に分け与えられてからというもの、増長がいちじるしい。


「で、なに? なんの話かな」


『「ツクヨミ」が見つかった。ブランカインドにある』


「へぇ~」


『それともうひとつ。「私が欲しくてしかたないもの」。すぐそこにいるから、奪還チャレンジしてきてくれない?』


「……ふふっ、りょうかーい」


 ルナ様の言葉にニヤリと笑い、部屋を出ていくモナット。

 この方の欲しいモノ、とはいったい……?


「……ルナ様、なぜあのような者を重宝ちょうほうしているのです」


『重宝なんてしてないよ。使えるモノを使ってるだけ。「彼女たち」は信徒じゃなくて、外部からの協力者だもの』


 ……モナットと、もう一人の少女のことか。

 たしか南方から来た『部族』だと聞くが……。


『さ、こちらはこちらで正式に、ブランカインドへの訪問と交渉の手続き、進めていこう。そういうの、得意でしょ?』



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― 新着の感想 ―
[気になる点] モナットがジャニュアーレを殺した女かな? [一言] 結局『ツクヨミ』もろくな事考えてなさそうだなあ。 でもルナが『彼女』と似ている理由や欲しくて仕方ないものを考えるとあっちも被害者っぽ…
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