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67 あの世へと続く道



「星の瞳、キレイですね」


「ありがとうございますっ」


 あなたに褒められても、あんまりうれしくないですよぉ……。

 けれどそんな気持ちを悟られないように、警戒してるって悟られないように笑顔でうなずきます。


 相手がなにを考えているのか、さっぱりわからないうちは。

 腹の内でなにを考えて、私のことをあんな目で見たのか、はっきりしないうちは、心を許したりしませんから。


「その瞳、生まれつきで?」


「生まれつき……。そうですね、生まれつきですっ」


 ウソ、ついちゃいました。

 死んじゃう前の記憶、正直まだちっとも思い出せていないのですが。


 『生き返るまでできなかった』はずです。


「うん、素晴らしい力だと思います。特別な瞳のチカラ。まさに天から与えられた才能、贈り物です」


「いやいやそんな……」


「じっさい、そうだと思うわよ。トリスの力にはいつも助けられているのだから」


『ですですっ、お姉さまっ!』


 ティアとテルマちゃん、この二人に褒められると、とってもとってもうれしいです。

 言葉を素直に受け取れますし、


「えへへぇ」


 うれしすぎて表情がだらしなくなっちゃいます。


「……っと、そろそろ最深部だよっ」


 頭の上のマップによれば、もうすぐそこ。

 ここまで猫ちゃん、どこにもいません。

 最深部にならいるのでしょうか……。


「――ァ、――ャァ」


「おっ?」


 よーく聞こえる私の耳が、かわいらしい鳴き声をキャッチです。

 奥の方から、ほんのかすかに聞こえてきます。


「声が聞こえた。この奥に猫ちゃんがいるよ」


「はて、わたくしにはなにも聞こえませんが……?」


「トリスには聞こえるのよ。目だけじゃなくてこの子、いろいろ敏感だから」


 敏感て、なんか言い方がアレだよティア。


『敏感なお姉さま……。耳とかでしょうか。耳とか敏感なんでしょうか……』


 ほら、テルマちゃんが興奮しちゃったし。

 イケない妄想を繰り広げるかわいい妹を体の中に感じつつ進んでいくと、鳴き声がどんどん大きくなっていきます。


「……聞こえたわ。たしかに猫の鳴き声ね」


「よかった。探し猫は見つかったようですね」


 ティアとレスターさんにも聞こえたみたいだけど、私は逆に違和感をいだきます。

 近づいたことでさらにわかったこと、それは……。


「なう、にゃぁ……」


「あーぅ」


「ふなぁぁご」


「……一匹じゃない」


「なんですって……?」


「間違いないよっ。鳴き声が一匹だけじゃない、たくさん聞こえるの」


 猫が一匹だけじゃない。

 洞窟の反響でもありません。

 しかも二匹や三匹じゃなく、たくさんの声がします。


「……あの情報通りね。念のため、警戒していきましょう」


「うん……!」


 ティアと顔を見合わせてうなずいて、そーっと坂を降ります。

 そうしてたどりついた最深部の三階フロア。

 通路の影から覗いてみると、やっぱりです。


 夜空のようにちりばめられた光がまたたく最深部。

 奥にある『マナソウル結晶』の大きさは、それほどでもありません。

 そして紫色の結晶の上に座るねこ、ネコ、猫。


 結晶から離れた場所にも猫。

 思い思いに転がったり歩いたり、丸まって眠っていたり。

 ここはねこねこ天国ですか……?


「この子たち、どうして集まってるんだろうね……」


『猫さんたちの秘密の集会所なのでしょうか』


 ダンジョンの最深部にこんな光景が広がっているとは思いませんでした。

 私たちみんな、まさかの光景に目を丸くします。

 レスターさんだけ、あんまり驚いていませんが。


「この中にサルバトーレちゃん、いるのかなぁ」


「確認するわ。読み上げるから探してね」


 ティアがコートの中からメモを取り出して確認します。

 探すのは私の役目。

 この視力からは逃れられないよ、サルバトーレちゃん!


「毛色は薄いグレー。顔のまわりが黒くなっている」


「ふんふん」


 該当する猫、12匹確認!


「尻尾の先も黒。右の耳だけ先っぽが黒」


「むむ……」


 該当猫、4匹に減少です。

 かなり絞れてきましたよ!


「瞳の色は右が青、左がオレンジ。それから右の後ろ脚以外、すべて靴下をはいているように足先が黒くなっているわ」


「……えっ?」


 該当猫、消滅です……。

 条件にあてはまる子が一匹もいなくなりました。


「ティア、間違いない? メモ見せて」


「かまわないわ」


 ティアをうたがうわけじゃありませんが、念のためです。

 私自身も目を通してみます。


「うぅん……。間違いないね」


 ティアが読み上げた内容のとおりでした。

 しかもリアルな似顔絵つき。

 似顔絵というか肖像画レベルですよ、コレ。


 物陰に隠れていて見落としてる、とかなのでしょうか。

 だけど隠れられそうなところなんて無いわけで。


「メモが間違ってる……とかじゃないよねぇ」


「可能性がない、とは言い切れないけれど、考えにくいわね。死んでも手元に置きたがるほどの飼い主よ。それにこれだけ細かい特徴が、絵まで添えて書かれているのだもの」


「だとすると、ここにはいない? だけど見張りのヒトたち、絶対に出て行ってないって言いきれる、って……」


 もしもみんなが間違っていなかったとしたら、サルバトーレちゃんは果たしてどこへ……?

 うーん、謎が深まります……。


『お姉さま、見てください! 結晶の様子が……!』


 テルマちゃんの声に、結晶のほうへと目をむけます。

 するとなんだか紫色に怪しく輝きだして……。


 カァァァァァァッ……。


 とつぜん、黄金色のまばゆい光を発したんです。


「え、なにっ? なにが起こってるのっ?」


「この光、葬送の灯(アウフヴィダーゼン)に似ている……!? まさか――」


「……おぉ、始まりましたか。これです、これが見たかった」


 私たちがとまどう中、レスターさんだけがおどろきません。

 知っていた――もっと言うと待っていたって感じです。


 発光がおさまると、結晶の前に光のうずが出来上がりました。

 これまで自由気ままにすごしていた猫たちみんな、渦を見るといっせいに立ち上がります。

 そして吸い込まれるように、どんどん渦の中へと飛び込んでいくんです。


「レスターさん、アレがなにか知っているんですか……?」


「……猫が死ぬとき、どこかに姿を消すという話は知っていますか?」


「え? まぁ、聞いたことあるかな……」


 小耳に挟んだくらいはあります。

 ホントの話か迷信か、そこまでくわしくないですけども。


「霊も同じのようですね。いや、より性質が濃い。『この場所』にあの世とこの世をむすぶゲートが開くことを、本能的に察しているのですから」


「あの世とこの世をむすぶゲート……。そんなモノがあるなんて」


「あるわよ。でないと葬霊士がいない場合、すべての霊がさまようことになるでしょう?」


「おぉ、言われてみれば」


 自然にあの世に逝けなかったら、この世が霊であふれちゃうか。


「けれどね、霊がどれだけ望んでもあの世に逝けないこともある。なにせゲートが開く場所は霊にも、私たち葬霊士にすらわからないんだもの。――そう、誰にもわからないはず」


 ジロリ、と。

 ティアがレスターさんを横目でにらみます。


「あなた、どうして知っていたの? 今日この日、この場所に、冥府へのトビラが開くことを」


「ふふっ。なぁに、たまたま知っていただけですよ。この場所に四日に一度、決まった時刻にほんのわずかな時間だけゲートが開くことを知っていた。ただそれだけです」


「……そう。この事実、ブランカインドに報告しても?」


「かまいません。たまたま突き止めただけですから。……おっと、こうしちゃいられない」


「えっ……? レスターさんっ!?」


 あのヒト、なにを思ったかとつぜんゲートへ走り出しました。

 猫ちゃんたちがビックリする中、大急ぎで走っていって、光の渦に飛び込もうとして……。


 バチィッ!!


「……っぐ!」


 まるで神護の衣にはじかれる霊みたいに跳ね返されて、痛そうに顔をしかめます。

 そんな姿に『人助け欲』が刺激されて、思わず駆け寄る私です。


「だ、大丈夫ですかっ!? ケガしてたりとかっ」


「問題ありません。しかしやはりダメでしたか……」


 名残り惜しそうにゲートを見やるレスターさん。

 その間にもどんどん猫が飛び込んでいって、どんどん光が小さくなっていっています。


「どういうつもりかしら」


 そしてティア、ちょっと怒ったカンジです。

 機嫌悪そうにツカツカ歩いてきました。


「弾かれたからよかったものの。生者の身でありながら、あの世に逝こうとでもしているの?」


「――そのとおりです」


 なんと肯定。

 ティアの問いかけに、うなずきましたよレスターさん。


「あの世に行きたい。行って連れ戻したかった。最愛の妹――フレンを」


「え……? フレン……、って……?」


 ぐうぜん?

 たまたま名前が同じだけ?

 そんな私の疑問には、すぐさま答えが出されます。


「トリスさん。じつはあなたの話、よく妹からしてもらっていましてね」


「じゃあレスターさん、フレンちゃんの……?」


「えぇ。改めまして自己紹介を。フレンの兄、レスター・イナークと申します」



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