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59 見てはいけないモノ



 幽霊に襲われたフロアから先も、洞窟みたいになっています。

 せまい通路を通り抜けて、とくになにもない広場を素通りして、その先の通路を抜ければいよいよです。


「この先のフロアね。黄色い点がずっと動かない場所は」


「う、うん……」


 先頭に立つティアが、通路の影から広間の様子をのぞき見ます。


「ど、どう……?」


『ジャニュアーレさん、いましたか?』


「……えぇ、いるわ。あおむけで倒れてる」


「い、生きてるカンジ?」


「わからないわ。トリスなら見えるんじゃないかしら。広場に入る前に、確認してくれてもいい?」


「うん、わかった……」


 生死の確認、ちょっとだけ怖いけどやってみましょう。

 ティアの後ろからそっと広間をのぞくと、ティアの言うとおり。


 広間の奥の奥のほうです。

 黒いコートに黒いつば広帽子。

 ブランカインドの葬霊士の格好をした、黒い髪の男のヒトがあおむけで倒れています。


 ここから見た感じ、目を閉じて意識を失っているようですね。

 呼吸は――。


「……うん、息してる。だいじょうぶ、生きてるよ。広間に魔物も悪霊もいない」


 もともとマップに映し出されてる情報じゃ、黄色い点しかいませんが。

 目視で念のため確認しても、大丈夫、安全です。


「そう。ならば急いで救出しましょう」


「うんっ!」


 安全確認を終えて、ティアといっしょに広間へ踏み込みます。

 すると――。



 すると、あたりが一瞬で、霧がかかった感じになりました。


「な、なにこれっ!?」


「わからないわ。ともかくトリス、気をつけて」


「気をつける!」


 テルマちゃんの『神護の衣』があるから平気、だと思うけど、悪霊を警戒して左右を警戒です。

 ……と見せかけて、上から襲ってきたり?


 バッ、と上を見てみますが、残念ハズレ。

 モヤモヤばかりでなにも見えません。


 だったら下っ!

 なーんて、前もこんなことあったよね。

 そのとき下にはなんにもいなかっ――。


『あぁぁぁ』


『痛いよぉぉ』


 ……いました。

 下半身を無くして内臓と背骨を引きずりながら、私の足首にしがみつこうとする兵士さん。

 全身が焼けただれて、見るも無残な姿の兵士さん。

 ふたりの幽霊と、バッチリ目が合ってしまいました。


「っひ――」


 で、でも神護の衣があるから、私にさわったらはじけ飛んで……。


 ガシィッ。


『なぁあんたぁ、痛いんだよぉぉ』


『みずぅ、みずをくれよぉぉぉ』


「な、なんで……っ」


 なんで、私の足首をガッシリつかんでもはじけてくれないの……!?

 なんで少しずつ、足首からふくらはぎ、ふとももって、だんだん這い上がろうとしてくるの……っ!?


「テルマちゃんっ!! これっ、これ、どうなってっ……!!」


『わかりません、わかりませんよぉ!!』


 もうやだ、怖い怖い怖いっ!

 助けて、たすけてっ!


「ティア、助けてぇぇえぇっ!!」


「トリスっ!」


 助けをもとめたティアも、だけどやっぱり私と同じく霊にまとわりつかれてる。

 双剣を抜いて斬ってるけど、


「こいつら、手ごたえがない……?」


「そ、そんなっ」


 ティアの剣、効いてません。

 刃が幽霊をすり抜けて……!

 ティアでもどうにもできないの……っ!?


「――落ち着きなさい、トリス。落ち着いて、いつものヤツをお願い」


「い、いつもの……っ」


 この状況で私に求められてること、わかります。

 わかりますけど、この状況で?

 幽霊がどんどん這い上がってきてる状況で、目を閉じて集中できるの!?


「大丈夫。私を信じて」


「信じ、る……」


 そう、そうだよ。

 ティアはいっつも私のことを無条件で信じてくれる。

 信頼してくれている。


 だったら私だって。

 ティアが大丈夫だって言ってるんだから大丈夫。

 信じて目を閉じます。


 這い上がる幽霊の手の感触を意識の外にシャットアウト。

 瞳に魔力を集中、集中、さらに集中させて――開眼っ!!!


綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズっ!!」


 あらゆる霊の弱点と、真実を見抜く夜空の光彩。

 目を見開いて、この瞳に映し出した光景は。


「……あれっ?」


 なんにもない、元通りの広間。

 なんの変哲もない、どこにも幽霊の姿なんていない空間で、ティアが見えないなにかを必死に振り払ってる。


 もちろん私の体をのぼってきていた幽霊の姿だって、すっかり消えてます。

 これは――。


「……ティア、これ幻覚だよ。誰かに幻を見せられてる!」


「やはり、ね。幻覚ならば……」


 ティア、剣を納めて瞳を閉じます。

 それから霊気をみなぎらせて……。


「はっ!!」


 気合いとともに開眼。

 どうやら幻覚を吹き飛ばしたようです。


「……ふぅ。私たち、どうやら幻覚トラップに引っかかっていたみたいね。この広間に入る前から(・・・・・)


「えっ? それってどういう――うっ……!」


 ティアの言葉の意味、すぐにわかりました。

 私の目じゃなくても、ティアにも誰にも一目瞭然です。


 広間に転がっている、おそらく獣系の魔物に内臓を引きずりだされて喰い散らかれて、目玉を鳥系の魔物にほじくり出された男の葬霊士さんの、無残な死体を見たならば。

 部屋に入る前に見た無事な姿から、ぜんぶ幻だったんです。


「あまり見ない方がいいわ、トリス」


「あ、ありがと……」


 ティアに抱きしめられて、死体から視線をカットされました。

 私ってどうしても、死に顔とかはみだした内臓や骨とか見えすぎちゃうから。

 気をつかってくれてありがとね。


「……間違いなくジャニュアーレね。指の先やくちびるの一部が腐敗し始めている。死後十日、といったところかしら」


「うぅっ、やっぱり亡くなってたんだ……。でも、どうして……」


「わからないわ。魔物にやられるわけないし、コイツが遅れをとる霊がいるとも思えない。それに幻覚トラップ……」


『どなたか、悪意を持った何者かが仕掛けたわけですよね』


「えぇ。おそらくソイツが『犯人』ね」


 犯人、かぁ。

 つまり誰かに殺された、ということだよね。


「本人に聞けば、誰にやられたのかすぐわかるよね。ジャニュアーレさんの霊、どこかにいないかなぁ」


 綺羅星の瞳トゥインクルスター・アイズを使ったら、星の瞳(トゥインクル・アイズ)のマップは消えてしまいます。

 霊探しのため、あらためてマップを出そうとした、そのときでした。


「……あれ?」


 部屋のすみっこでうずくまって震えてる、霊の存在に気づいたんです。


 服装も顔もどう見ても、そこで死んでるジャニュアーレさんの霊だ。

 幻覚トラップめ、私の感知力やマップまでだませるとは。


「ティア、あそこ。いた」


「……いた、わね。とにかく話を聞いてみましょう」


 そうだね、探し人を見つけたんだから。

 頭をかかえてがたがた震えてるジャニュアーレさんに、まずティアが声をかけます。


「ジャニュアーレ。久しぶりね。私よ、ティアナよ」


『あぁぁ……、見るなぁ……。オレを見るなぁぁぁ……! 見ないでくれぇぇえぇ……』


「……? ねぇ、聞いてる?」


『見ないで……。見ないでぇぇ……』


「……ダメね。話ができる状態じゃない。正気を失っている上に『歪み』まで出ているわ」


「むむ、お話聞けないのかぁ」


「ここまで狂気にとらわれていたら、犯人にとっては好都合ね。手がかりひとつ引き出せないのだから」


「で、でも、私の存在が誤算だよねっ。ちょぉっと怖いけど……」


「アレをやってくれるの? 嫌なもの見るかもしれないわよ?」


「覚悟の上っ!」


 ティアのお役に立つための、葬霊士補佐役ですっ。

 瞳を閉じて、魔力を集中、集中、さらに集中、集中させて……開眼!!


流星の瞳シューティングスター・アイズっ!!」


 霊の記憶をのぞき見て、当事者として追体験できる流れ星の光彩で、ジャニュアーレさんの身に起きた出来事を確かめます!



 ★☆★



 ……ここは、オルファンス古戦場のどこかですね。

 薄暗い岩肌の通路を歩いているようです。


「なんだぁ、ここは。こんな通路があったんだな……。新たな発見だぜ……!」


 口ぶりからするに、隠し通路なのでしょうか。

 どんどん歩いていって、一番奥の広間にたどり着いたとき、ジャニュアーレさんが息をのみます。


 そして私も、ちがう意味で息をのみました。


「こいつぁ……。相当な年代物だぜ、オイ」


 広間の中央に祭壇があって、そこに安置されていたのは『鳥の頭をした人間の像』。

 まさしく『ヤタガラス』の像でした。

 サイズはとっても小さいですが。


「霊的なモノもビンビン感じるな……。コイツを土産みやげにしたら、大僧正のばあさんも喜ぶんじゃねぇか? ボーナスたんまりくれたりしてな……!」


 ヤタガラスの像をコートの中のポケットに入れて、立ち去るジャニュアーレさん。

 そこから場面が切り替わって。



 ……今いる場所、ですね。

 歩いていたジャニュアーレさん、立ち止まってふり返ります。


「……なぁ、さっきからけてきてるけどよぉ。バレてんだぜ? いい加減出てきなよ」


「……」


 物陰から姿を見せたのは、赤い髪の女の子でした。

 歳は私と同じくらい……かな?

 テルマちゃんみたいな古い民族衣装っぽいのを着ています。


「ヒューッ、かわい子ちゃんのお出ましかい? こんな場所でレディが一人っきりたぁ、関心しねぇなぁ」


「……見て」


「あぁ?」


「私の目を、見て?」


 なんでしょうか。

 吸い込まれそうな青い瞳にジャニュアーレさんの注目が行って……。


 ……あれ?

 女の子の光彩が、月の形に。

 三日月の形にかわっったっっ。


「あっ、あぁぁぁっ、あぁぁあぁぁっ、っあぁぁ」


「見たね? 見たらもうダメ。さよならよ」


 ったっ、あっ、あぁぁっ。

 あぁぁああぁぁあぁぁぁあああぁぁあぁぁ。

 ああぁぁぁあぁぁああぁ。


「見てはいけないモノっていうのが、この世には存在しているの。たくさん見てしまったね」


「あぁぁっ、あぁぅっ、ううあぁぁぁ」


「コレは返してもらうから。……保管場所、変えなきゃね。ヒトがめったに来ないから置いてたのに、ココもダメか」


 あぁぁあぁっ、ああああぁぁぁ。

 あああぁぁぁっああぁ。


「うあぁっ、あぁっ、ああ゛あぁ゛ぁぁ!!」


「あなたはそこで狂い死にしていきなさい。それと、女の子だからって油断して、ホイホイ目を覗き込んじゃダメだからね? なんて、もう聞こえてないか」


 あぁぁぁあぁぁ。

 あぁぁああああぁぁあああっぁぁぁっ。


 あぁぁあああぁぁっ、あぁぁ!!

 おあっ、うぁぁああぁぁぁぁ!!

 うぁぁぁっ、ぁああ゛ぁぁぁあ゛!!!!!



 ★☆★



「……ぁぁあああぁぁぁぁああっ!! あぁああ゛ああ゛ぁぁ゛!!!!!」


「トリスっ!? トリス、どうしたの!?」


『お姉さま!? しっかり、しっかりしてください!!!』


「あぁっぁぁあぁ……っ!! ――っあ、あぁ……。はぁ、はぁ……っ。わ、私……っ」


 よ、よかった……。

 なんとか、なんとか『私』を取り戻せました。

 直接じゃなくてジャニュアーレさんの記憶を通して見たからかな。


 見た相手を『狂気』に落とし込む……?

 とんでもなく恐ろしい瞳です。


「あの目……。『月の瞳』……? いったい、いったいあの子、何者なの……?」



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