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57 新たな日々のはじまりです



「いやぁぁぁぁっ!!」


 薄暗いダンジョンにひびく悲鳴。

 悪霊に襲われる少女のもとに、私は駆けつける。

 銀の双剣を手に、黒いコートをなびかせて。


「誰か、誰か助けてぇぇぇ!!」


「ブランカインド流葬霊術――十字の餞(シルヴァ・クロイツ)


 ザンッ……!


『うぉあぁぁぁぁ……!』


 私のふるう白銀の刃が、十字架状に悪霊を斬り裂いた。

 続けて封縛の楔(ズィーゲルン)

 黒いモヤとなった悪霊を棺に吸い込み、私はその場を立ち去っていく。


「あ、あの……っ」


 おっと、呼び止められちゃったね……。

 私がかっこよすぎて惚れちゃったかな?


「助けてくださってありがとうございます! あの、あなたのお名前は……?」


「……ブランカインド流葬霊士。トリス・カーレット。二度と会うこともないでしょうね」


 黒いつば広帽をクイっと下げて目元を隠しつつ、クールに名乗って去る私。

 そんな私の背中を、女の子が追いかけてきて。


「あのっ、トリス様っ! わたくしもご一緒に――」



「むにゃぁ……。だめだよぉ、ついてきちゃぁ……。……んん?」


「……うふふ。おはようございます、お姉さま。楽しそうな夢、見てたみたいですねっ」


「……夢ぇ? 夢なわけないよぉ? だって私はクールな葬霊士……」


「ぷっ……。誰がクールな葬霊士なのかしら……っ」


「……。……ぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛!!」


 ぼんやりしていた頭が覚醒してきて、どんどん顔が熱くなってきます。

 恥ずかしさのあまり、お布団の中に頭からもぐりこんじゃいました。


「忘れてっ! ティアもテルマちゃんも全部忘れてぇ!!」


「忘れられないわよ。トリスがクールな、ふふっ、葬霊士だなんてっ。ふふふっ」


「うぁぁぁぁぁん」


「かわいらしかったですよ、お姉さまっ」


 いっしょのベッドで寝ていたばっかりに、ティアとテルマちゃんの二人ともに恥ずかしいトコ見られちゃった……。

 顔を真っ赤にしつつ、布団をかぶりながら体を起こします。


 ここはブランカインド、ティアの家のティアの部屋。

 ブランカインドの正式な『葬霊士補佐役』となった私には、当然ながら住む場所が必要なわけで。

 こうしてティアの家に厄介になることになりました。


 ですが補佐役はあくまで補佐役。

 カッコいいコートや帽子や武器なんか、まったく支給されません。


(だからかなぁ、あんな夢見ちゃったの。よっぽど着たかったのか、私……)


 こうしてティアの家に住むことになったのですが、家に転がり込んだのは私だけではありません。

 ソレが私がティアの部屋に寝泊まりしている理由のひとつにもなるのですが。


 コンコン。


 おっと、ウワサをすれば。


「入ってもいいですか?」


「えぇ、どうぞ」


 ガチャリとドアノブがまわって、入ってきたのはタントさん。

 転がり込んだもう一人とは、ほかならぬこのヒトのこと。


 このヒトの魂はユウナさんでもあるわけで、元の持ち主、ユウナさんの部屋で寝泊まりすることに。

 もしかしたらユウナさんの記憶がもどるかもしれないという、大僧正さんのはからいです。


「朝からにぎやかですね。楽しそうでなによりです」


「楽しくないよぉ、恥ずかしい……」


「よしよし、いいこいいこですっ」


 テルマちゃんにいいこいいこされて、嬉しさ半分みじめさ半分。

 朝からさんざんだよぉ……。


「ふふっ。……ねぇ、タント」


「はい?」


「どうやら私、あなたより早く起きられたみたいね」


「……? そうみたいですね」


 首をかしげつつうなずくタントさん。

 ティアの言葉の意味、私にもわかりませんが、きっとティアにはわかるのでしょう。

 あるいはティアとユウナさんの、過去を見て来たヒトならば。



 ごはんを食べて支度をととのえて、いざ『葬霊士補佐』としての初仕事。

 大僧正さんから、新たな任務の言い渡しです。


 私とティアとテルマちゃん。

 いつもの三人で大僧正さんのお部屋に呼び出され、横一列にならびます。


「そろったようだな。帰ってそうそうわりぃんだが、依頼をこなしてもらうぜ」


 な、なんだか緊張しますね。

 ごくり……。


「今回行ってもらう場所は、王都の南西にして中央都の北東。両都のちょうど間にある『オルファンス古戦場』だ」


「オルファンス古戦場……!」


「お姉さま、ご存じなのですか?」


「うん。テルマちゃんは知らないだろうから――」


 こほん、説明しましょう。

 王都と中央都をむすぶ交易拠点ザンテルベルムがなぜ、中央都の北、王都の西にあるのか。

 どうして最短距離の直線上じゃないのか。


 その理由が『オルファンス古戦場』。

 王都と中央都のあいだにある渓谷地帯。


 グレンターク将軍の活躍で、メシア王国が統一を果たしたあとのことです。

 初代メシア王が、グレンターク将軍が謀反むほん――裏切りをしたと断じ、王都から兵を挙げました。


 対するグレンターク将軍も中央都から迎撃に出て、両軍が激突したのがこの場所。

 奮戦する将軍でしたが、圧倒的な物量の差にはかなわず敗戦、戦死してしまいました。


 真相はわかりません。

 将軍が本当に裏切ったのかもしれませんし、影響力があまりにも大きすぎたグレンターク将軍をうとましく思い、罪をでっちあげたともささやかれています。


 ひとつだけたしかなのは、将軍の死後に中央都の将軍をしたう住民が像を建てて、王家もそれを許したこと。

 ただそれだけ。


 ともあれ、たくさんのヒトがそこで亡くなったわけですね。

 それ以来、兵士の亡霊に襲われたというヒトが後を絶たず、王都と中央都をむすんでいた宿場町がゴーストタウン化。

 しかも渓谷に『マナソウル結晶』が出現し、天然のダンジョンとなってしまいました。


 と、ここまでテルマちゃんのために説明です。


「すごいです、お姉さまっ!」


「でっしょー? 本で読んで勉強してるからねっ」


「ですが、そうでしたか。将軍のおじさま、そんな最期を遂げられたのですね」


 テルマちゃんにとっては、一方通行ながら顔見知りだもんね。

 ちょっとだけ、思うところがあるようです。


 ともあれそんなわけで、この渓谷地帯をさけるようにちょっと遠回りして、街道が通っているというわけですね。

 と、とんでもない大仕事な予感です……!


「有名な心霊スポットですよねぇ。やっぱり、兵士さんの亡霊が……?」


「いいや。じつはこの場所、定期的に葬霊士を送り込んでいてな。何十年も前から、少しずつ亡霊の数を減らしていってるんだ」


「当然ね。出るとわかりきっている場所。放っておくわけもないわ」


「な、なるほど……。そりゃそうだよね」


「やっぱり葬霊士さんって、さまよえる霊を放っておけない方ばっかりなんですねっ」


 天使のようなスマイルで、両手を重ねて感激するテルマちゃん。

 ほんとに天使みたいないい子です。


「依頼が来てゼニが動かなきゃ、オレぁ動かねぇがなぁ。キーッヒッヒッひっひっひぃ!」


「えうっ」


 あぁ、とつぜんゼニの話を浴びせられてテルマちゃんがショボンとなっちゃった……。


「で、この私に亡霊退治のトドメを刺してこい、と?」


「かなり数が減ってる状況だ。ティアナの実力とトリスの探知力が合わされば、全滅も夢じゃねぇだろうが、本題はそこじゃねぇ。……定期的に見回りにいってる葬霊士が一人、帰ってこねぇんだ。連絡が途絶えてもう十日になる」


「十日……ね。戻らないのは誰なの?」


「第五席のジャニュアーレ。知ってんだろ?」


「あぁ。あの自信家でいけ好かないキザったらしい優男」


 さ、散々な物言いだね、ティアってば。

 そのヒトの好感度、あんまり高くなさそうです。


「いけ好かないけどかなりの腕前のベテランよね。そんじょそこらの悪霊に、遅れをとるはずがないわ」


「だろう? そこで腕前だけはとびっきりのお前をご指名だ。人探しなわけだから、感知にすぐれたトリスもいっしょに行ってこい」


「なるほど、理にかなった采配ね」


「ほめてもボーナスなんざ出ねぇぜ? 報奨金はキッチリ一律だ」


 大僧正さんってしっかりしてるなぁ……。

 あ、そういえば耳慣れない単語が出ましたね。

 わからないままにしておけないので、すぐに手をあげて質問です。


「はい、大僧正さん! 第五席ってなんですか!?」


「教えてなかったのか、ティアナ。めんどくせぇからテメェで説明しな」


「まぁ、いいけれど。トリス、『筆頭』はもちろん知ってるわね?」


「うん、知ってるよ。ブランカインドでいちばん強くて優秀な葬霊士さんだよね」


「そう。『筆頭』の次に優秀な者は『次席』。次に三席、四席と続き、十席までカウントされるわ」


「ほへー。つまり戻らないヒト、五番目に優秀なヒトなんだ」


「その五席が戻らない。私に話が来るのも当然ね。この、『筆頭葬霊士』のティアナ・ハーディングに」


 ビシッ、と自分の顔を親指でさして決め顔のティアですが、大僧正さんの表情が氷より冷たいよぉ……。


「なにが筆頭だ。前にもテメェはヒラだっつっただろこのクソボケが」


「そんな……。『ヤタガラス』の事件を解決したのに……」


「そんだけで筆頭に戻したら、真面目にやってる奴らがバカを見るだろうがよ。今の十席までをワンランクずつ降格させるわけにもいかねぇしな」


「そう……、私、これからずーっとヒラのままなのかしら……」


「……つっても、テメェほどの実力者を遊ばせておいても、それはそれで示しがつかねぇ。そこでだ、この任務を解決したら『ゼロ席』を特別に作って、そこにお前を置いてやるよ」


「ぜ、零席……? 数字が少なくなるほど強い。ということはつまり……、一席である『筆頭』を越える者……! いい響きね……っ」


 おぉ、ティアの瞳に炎がともった。

 大僧正さんから、めんどくさいから適当に作った役職にぶち込んどけ的な空気を感じるけど、ティアが嬉しそうだし。

 ま、いっか。


「さて、ブリーフィングはここまでだ。改めて指令をくだすよ。葬霊士ティアナ・ハーディング。および葬霊士補佐役トリス・カーレットに命ずる。『オルファンス古戦場』にむかい、『葬霊士五席』ジャニュアーレの安否を確認せよ」


うけたまわったわ」


「承りましたっ!」


 ブランカインドの一員として、はじまりました、新しい第一歩。

 葬霊士補佐としての正式な初任務、がんばります!



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