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56 これからもよろしくね



 さて、私はある約束をしています。

 なんかそれどころじゃなくって、ずーーっと先延ばしにしていた約束です。


 その約束とは、『テルマちゃんといっしょにお風呂に入ってぎゅーって抱きしめる』こと。

 このくらい、今なら全然オッケーです。

 むしろバッチ来いなのですが、


「テルマちゃん。今日こそ――」


「い、いえっ! まだ心の準備ができておりませんのでっ!」


 なんてずーっと断られちゃってます。


 私たちは今、ブランカインドへ帰る途中。

 いつものメンバーに加えてセレッサさんと、タントさん。

 それからヒーダさんもいっしょです。


 女の子ばっかりの中にいるヒーダさん、すこし居心地悪そうですね。


 さておきテルマちゃんにアタックし続ける私ですが……。


「テルマちゃん、今日はいっしょに――」


「ダメです今日はっ!」



「テルマちゃーん」


「いっしょに眠るだけでいいのでっ」



「ねぇテルマちゃんってばー」


「髪の匂いを嗅ぐだけで充分ですぅ」


 ずっとそんな感じで旅が続いて、テルマちゃんにいっしょのお風呂を断られ続けたまま、十日くらいの旅の末、とくに何事もなく無事、霊山ブランカインドに到着。

 本当に、ビックリするくらいなんにもありませんでした。


 『ヤタガラス』の事件に関する報告は、あらかじめ大僧正さんに知らせてあります。

 『メッセンジャー』のハトさんたちのおかげです。



 大僧正さんの部屋に通されて、イスに座った大僧正さんは開口一番。


「よくやったッ!!」


 と。

 ティアとセレッサさんに言いました。

 とってもいい笑顔です。


「コレで商売(がたき)が消えたなぁ。葬霊稼業、引き続きブランカインドの独占だぜぇ。ヒィーッひっひっひっ」


 うわぁ、悪い笑いですねぇ。

 だけど大僧正さん、私の目はごまかせませんよ。


 タントさんにむけた、嬉しさと悲しさが入り混じった複雑な表情。

 ほんの一瞬でしたが、ユウナさんのことで思うことがないわけないですよね。


「相も変わらずゼニゲバね」


「うっせぇ不良葬霊士。さてセレッサ、急な任務だったがご苦労だったね」


「ねぎらいなんていらねぇぜ。むしろこっちが礼を言いてぇくらいさ。……この件、オレにまかせてくれてありがとよ」


「……。……ふんっ、たまたま手前テメェが近くにいただけさ」


 すなおじゃないですね、大僧正さん。


「……さて、『ヤタガラス』の葬霊士。アンタら二人の処遇を言い渡そうか」


寛大かんだいな処遇をお願いしたいものダネ。最終的にハ協力したのダカラ」


「ツラの皮が厚い男だな。まず『ドライクレイア式葬霊術』のすべてをブランカインドに開示すること」


「ブランカインドの流派に取り込むつもりね」


「使えるモンはすべて使うさ、ヒヒっ。次にアンタら自身だが……」


 ジロリと二人の顔を見回します。

 ちょっと怖い顔ですが、二人ともひるみません。


「商売敵を野放しにするわけにゃあいかねぇなぁ。まとめてウチの葬霊士になりな。拒否権なんざねぇよ?」


「ほ、本当にいいのですか?」


 タントさん、ちょっと信じられないって表情です。

 私もビックリしました。

 まさかスカウトとは。


「牢屋に閉じ込められるくらいハ、覚悟していたのダガネ。思った以上二寛大じゃないカ」


「ウチは万年人手不足。優秀な葬霊士なら、ノドから手が出るほど欲しいんだ。覚悟しな、馬車馬のごとく働いてもらうぜぇ……。キィーッヒッヒッヒッヒ!」


 か、寛大……なのでしょうか。

 ふたりとも、死ぬほどこき使われたりしないですよね……?


「ありがとうございます、大僧正さん。ボクのような者を拾っていただいて」


「……ま、気にすんな。特にアンタ、他人ってわけじゃねぇんだ。全部忘れちまってても、な」


 大僧正さん、立ち上がってタントさんの前へ。

 真正面からぎゅっと抱きしめました。


「よく戻ったね。待ってたよ」


「……はい」


 やっぱり大僧正さん、やさしいヒトだ。

 タントさん、これからユウナさんとしての記憶も思い出せるといいね。


 タントさんから離れた大僧正さん、こんどはティアとセレッサさんのほうへ。


「さて、念のために持たせた聖霊用の封縛の楔(ズィーゲルン)。よりによってみっつ全部使いきったんだってな」


「えぇ。ピジューと『大聖霊ヤタガラス』。それから『正体不明の聖霊』よ」


「厄介なモン持ち込みやがる。野放しにしておくよか万倍マシだがな」


 ティアとセレッサさんが取り出した合計みっつの赤い棺のうち、ティアのふたつをヒョイっと取り上げました。

 セレッサさんの持つ『ピジュー』だけそのままです。


「セレッサ、そいつはお前にあずけた。今後も戦力として使用することを許可するよ」


「ありがてぇ! ぜってぇ乗りこなしてみせるぜ!」


「……あとのふたつは?」


「あまりにも危険すぎる。ブランカインドで厳重に保管させてもらう」


「そこまで危険なのね。『ヤタガラス』はともかく、もうひとつの聖霊も」


「ヤベェだろ。明らかに人間の心を操る力を持ってる上に、詳細がいっさいわからねぇ。『わからねぇ』ことがヤベェんだ」


 なんか、ドライクの持論を思い出しました。

 わかんないモノほど怖い。

 たしかに納得できる気もします。


「ヤタガラスは永久封印。もう片方は後日、能力の検証実験を行うこととする。異論はねぇな?」


「もちろん無いわ」


「右に同じ」


「よろしい。では両名、次の任務の指示があるまで本山で待機。しっかり疲れをとるように」


 ふたりともうなずいて、大僧正さんの指示出し・ねぎらい完了。

 ……かと思いきや、最後に私のほうへ来ましたよ?


「トリスさん、ごくろうさまでしたじゃ」


 しかもものすっごく腰を低くして愛想笑いしながら。

 完全に接客モードですね、これ。


「今回の事件の解決、トリスさんのお力添えによるところが大きいと聞き及んでおりましてな。いやはや、ブランカインドを代表してお礼をさせていただきたい」


「いえ……っ。私にも関係してることでしたしっ」


 そしてやっぱり感謝されるのに慣れてない私。

 どうしても遠慮とか謙遜しちゃいます。


「いやいや、トリスさんの霊視能力は素晴らしい! まさしく千里眼!!」


「い、いやぁ、そんな……」


「ひいてはその力、これからもブランカインドのために使っていただけると、こちらとしても助かりますのですがのう……。あいや、もちろん無理にとは言いませぬが」


 これからも、か。

 思えばティアの仇討ちと妹さん探しの旅は終わったわけで。

 これから先、元通りブランカインドの葬霊士として働いていく生活にもどるんだよね。


 これからもティアのそばにいて、これからも私のチカラで『人助け』をしていきたい。

 だから、答えはひとつだよ。


「……私、ずっと誰かの助けになりたかったんです」


「ほほう……?」


「だから冒険者になって、だけどいろいろダメダメで。そんなとき、ティアに出会ってわかったんです。私のチカラで、誰かの助けになれるんだって」


 みんなの前でこんなこと、ちょっとだけ恥ずかしいですが。

 なにせ大事な決意表明。

 恥ずかしがらず、ハッキリと。


「こちらこそ、お願いさせてくださいっ! これからも、葬霊士のお仕事をお手伝いしたいですっ!!」


「……ふっ。よく言ったッ!!!」


 パチンっ。


「ひゃっ」


 お尻叩かれたっ!?


「言った以上はこき使わせてもらうぜぇ、トリスッ! 『葬霊士補佐役』として、正式に登用させてもらう!!」


「あ、ありがとうございますっ」


 言葉遣い、みんなと同じく乱暴になってるし。

 コレ、『身内』として認められたってことなのかな。

 ……だとしたら、なんだかうれしいかもっ。


 こうして私、正式にブランカインド所属となりました。

 葬霊士じゃないですけど、引き続き悪霊退治と人助け、がんばりたいと思います!



 ★☆★



 さて、私は考えました。

 テルマちゃんがいっしょのお風呂に入りたがらない理由です。

 もしかして、二人っきりで抱きしめられると理性がはじけ飛んで私のことを襲っちゃうとか考えてるんじゃないでしょうか。


 だとしたら簡単です。

 頼れる誰かを連れて入れば万事解決!


 ……というわけで。


「久々ね、ここのお風呂。癒されるわ」


「だねぇ」


 前にテルマちゃんといろいろあった、ブランカインドふもとの温泉。

 ティアも連れて三人で入浴です。


 ティアがいれば変な気にならないだろうし、いざとなっても止められるから、テルマちゃん安心して抱きしめられてくれるでしょう。


「テルマちゃんは湯加減どぉ?」


「いいお湯ですよぉ」


 というかそもそも、抱きしめごほうびされると思ってないみたいですね。

 ほんとに気持ちよさそうで、このままとろけて消えちゃいそう。

 テルマちゃんが消えるだなんて、冗談でもゴメンですが。


「ふへぇ、神聖な霊気が染みわたりますぅ」


「テルマちゃんの好物だもんねぇ、ここの霊気って」


「王都のマナソウル結晶漬けが長かったですから。たまった穢れが抜けていきます」


 うんうん、すっかりリラックス気分。

 ……こうしてみてると、やっぱりすっごくかわいいなぁ、テルマちゃんって。

 白い髪に白い肌、とってもととのった顔立ちにキレイな紫の瞳。


「……んぅ? お姉さま、いかがしました?」


 こっちを見て小首をかしげるテルマちゃん。

 正直、私が辛抱たまりませんでした。


「テルマちゃんっ! ごほーびあげるっ!!」


「えっ、ひゃわっ!?」


 ばしゃーん!


 水しぶきをあげて抱きしめちゃいます。

 胸とかいろいろ当たるでしょうが関係なしに、ぎゅーっと。


「お、お、おおおおお姉さまっ!?」


「やーっと渡せたぁ。テルマちゃんへのご褒美」


「いやその、ティアナさんが見ている前でぇ!?」


「……見てるわよ」


 おぉ、ティアがじーっと見ています。

 うらやましそうに見ています。


「……ティアも混ざる?」


「そうさせてもらおうかしら。さみしいし」


 私のうしろに回り込んで、ぎゅっと抱きしめられました。

 テルマちゃんを抱きしめながら、ティアに抱きしめられる形です。


「……いいわね、コレ」


「いいでしょぉ? えへへ、ティアもテルマちゃんもやわらかぁい」


「お姉さまっ、もうなんですかこれぇ!? テルマだってやわらかいの堪能しちゃいますよぉ!?」



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