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49 全力逃走です!



 あらわれたのはメガネをかけた、赤いちぢれ髪の葬霊士さん。

 コートに三本足のカラスの紋章がありますし、あのヒトもヤタガラス、ですよね。


「王都の霊がネ、めっきり減ったダロウ? 実は悪霊が暴れたあの日、霊たちが大挙して王都を出ていく光景を目にしていてネ。追ってみればみな、この遺跡に入っていくじゃないカ。それ以来、ちょくちょくここに数を減らしにきてるのサ」


「おぉ、なるほど。悪霊退治に熱心なキミらしい。……して、気になることとは?」


「……あなたのことダヨ、ドライク殿」


 チャキっ……。


 右腕に装着した十字架型のクロスボウ。

 矢じりの先がドライクの眉間をとらえます。


「聞き捨てならないセリフだったヨ。悪霊のいない世界を作ル、大いに結構。だが『必要な犠牲』ダト?」


「おやおや、聞いていたのかい」


「盗み聞き、悪いとは思ったのダガネ。あまりにも怪しすぎたものでツイ。許してくれたまエ」


 口ではああ言ってますが、ぜんぜん許してもらおうなんて思ってませんね。

 武器をむけてますし。


「ドライク殿。あなたに見た理想、どうやら幻だったヨウダ。私欲のために人殺しをするやからに、『人助け』などできようはずもナイ」


「悪かった、とは思っているんだ。だが仕方ないだろう? 『私が家族と暮らしたい』のだから」


「……生きた人間に、手出しなんてしないつもりだったのダガネ」


 バシュゥッ……!


 ボウガンの矢が勢いよく撃ちだされます。

 ドライクがのらりくらりと回避して、カベにビィィン、と突き刺さりました。

 生身の体に当たったら、貫通しそうな威力です。


「私を殺すつもりかい? 【ヤタガラス】の召喚は私にしか不可能なのに。悪霊殲滅の夢、叶えられないよ?」


「残念だガ、違う手段を探すとするヨ」


「そうか。仕方ないね」


 ドライクが腰の剣を抜きます。

 臨戦態勢に入ったところで、ヒーダさんでしたっけ、こちらにむかって呼びかけました。


「タント、逃げたまエ! キミとそちらの少女ガ【ヤタガラス】召喚のカギなのダロウ!?」


「……タント。パパから逃げるつもりかい? 誰よりパパを信じていたのに……」


 ドライク、逃げられたくなくて必死なのでしょうか、父親ぶって揺さぶりかけてきてますね。

 ずーっとドライクを信じてきたタントさんですが……。


「ドライクさん、あなたを信じたかった。信じたかったですよ。しかしあなたは人助けとはなんら関係なく、自らの私欲のために誰かの命を犠牲にした。もうあなたを信じることなどできない」


「タントさん……っ!」


 やっぱりこのヒト、強いヒトです。

 ドライクにきっぱり拒絶の意思を示しました!


「トリスさん、逃げましょう。丸腰のボクにどれだけできるかわかりませんが、ひとまずは……!」


「うん……っ!」


「……やれやれ。愛娘たちがそろいもそろって反抗期かな? 年頃の娘を持つと大変だ」


 悪霊にあふれた祭壇のフロア。

 武装したドライクはヒーダさんがおさえてくれていますが、危機的状況に変わりありません。


 タントさん、私の手をぎゅっとにぎりました。


「こっちです、走りますよ!」


「はいっ!」


 そうして駆けだす私たち。

 出口の隠しトビラには、悪霊たちがぎっしりです。


「一か八か、突っ切ります……!」


「それより私を投げてください!」


「……今なんと?」


「投げてください、平気ですから! いけるよね、テルマちゃんっ!」


『もちろんですっ! お姉さまの玉のような肌に、かすり傷ひとつつけさせません!』


「……よくわかりませんが、わかりました」


 手をにぎったまま、クルリと一回転して私をブン回すタントさん。

 勢いにのせて、『神護の衣』をまとったままの私を悪霊ぎっしりの通路の入り口へとぶん投げます。


 バチンッ、バチン、バチィィン!!


「うひゃああぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁ」


 猛スピードですっ飛んでいく私。

 衣にふれた悪霊が片っぱしからモヤに変わって、道ができました。


「こういうことでしたか……」


 納得していただけましたか。

 すかさず駆け込んで、ゴロゴロ転がる私を拾って小脇にかかえ、突っ走ります。


「とんだムチャを思いつきますね」


「えへへっ、コレが一番安全かなって。衣のおかげでぜんぜん痛くなかったし。ちょーっと怖かったけどね」


「面白いヒトだ」



 通路を抜けると『マナソウル結晶』のある普通の最深部。

 ここまで来れば普通の冒険者や魔物もひしめく普通のダンジョンです。

 ダンジョンならばいつものアレ、いっときましょう。


 タントさんに抱えられたまま、瞳を閉じて魔力を集中……、開眼!


星の瞳(トゥインクル・アイズ)っ!!」


 出ました、魔力球の中に立体マップです。


「タントさん、コレを使って」


「助かります、さすがはトリスさんだ」


「いえいえ、それほどでも」


 ほめられると、やっぱり照れちゃいますね。

 あんまりデレデレしちゃうとテルマちゃんがやきもちやくのでほどほどにしておきましょう。


「全11階層の【大迷宮】。少々骨が折れそうですが、一気に駆け抜けるしかないでしょうね」


 最下層からの踏破なんて始めてです。

 しかもどっちも普段着、武器ナシ、アイテム食料もナシ。

 ベリーハードモードですが、やるしかありません。


「丸腰のタントさんと私じゃ、モンスターに出会ったら大変です。マップを参考に赤い点をさけつつ、出口へ行きましょう!」


「賛成です。が、しかしその前に……」


 タントさん、私をそっと下ろします。

 それからポケットに手をつっこんで、私にわたしたモノと同じ『白い筒』を取り出しました。


「『メッセンジャー』を使って助けを呼ぼうと思います」


 きゅぽんっ。


 フタをひらくと白いハトの霊が飛び出します。

 悪霊に憑りつかれたとき、タントさんに危機を知らせにいってくれた子です!


「この子にお願いしたら、ティアたちに今の状況を知らせられる?」


「そういうことです。武器も棺も持ってませんが、コレだけは携帯していて助かりました」


 やっぱり『いざ』というときのため、そなえておくべきですね!

 羽ばたきながら待っているハトさんに、タントさんが伝言をたくします。


「トリスさんがさらわれました。ボクらは今、王都の北、タンツ遺跡にいます。ドライクさんは大聖霊を呼び出すつもりです。……以上。一秒でも早くティアナさんを連れて、ボクのところへ戻ってきてください」


「くるっぽ」


 了解、と言ったのでしょうか。

 短く鳴くと、ハトさんが猛スピードで飛んでいきます。

 ダンジョンのカベも天井も貫通して。


「これでよし。トリスさん、あの子は特別な訓練を受けています。ティアナさんたちをボクらのところまで、最短ルートで案内してくれるでしょう」


「賢い子なんだねぇ」


「通常のメッセンジャーでは、伝言などの単純な動作しかできませんけどね。さぁ、少しでも早く合流できるよう、ボクらも出口を目指しましょう」


「うんっ!」



 ★☆★



 宿にもどったら、大変だわ。

 トリスもテルマもいないじゃない。

 置き手紙だって残ってないからこまったわ。


「誰かに連れていかれたのか、どこかに出ているだけなのか。どう判断したものかしら」


「さぁてねぇ。と、答えが飛んできたみたいだぜ?」


 あら、『メッセンジャー』じゃない。

 窓ガラスをすり抜けて、まっすぐ私のところに突っ込んできたわ。

 ずいぶん急いできたようね。


『トリスさんがさらわれました。ボクらは今、王都の北、タンツ遺跡にいます。ドライクさんは大聖霊を呼び出すつもりです。繰り返す、王都北、タンツ遺跡に――』


「これは……タント・リージアンの『メッセンジャー』ね」


「アイツの……!? ってことはオイ、トリスの嬢ちゃん、ドライクにさらわれたってことか!」


「そしてどうやら送り主、ドライクを裏切ったようね。ホントにタントがユウナ(あの子)なら、真相を知れば当然でしょうけど」


 トリスに会ったなら、きっと全部聞かされたのでしょう。

 私、いまだに信じられないのだけれど。

 二刀で戦うタントを見れば、実感できるのかしら。


「タンツ遺跡、ね。王都から霊がむかったと報告があった場所。【大迷宮】に分類されるわ」


「大迷宮でも小迷宮でも関係ねぇ。一刻を争うんだ、急いでむかうぜ!」


「えぇ、当然ね」


 手早く準備をととのえて、宿を飛び出す。

 タンツ遺跡までは走れば数十分。


 そしてタントのハトだけど、私たちの前を先導するように飛んでいくわ。

 迷宮の中を、トリスたちのところまで案内してくれるのかしら。

 単純な動作しかできないはずなのに、ずいぶんと賢いわね。


 ともあれ好都合。

 一刻も早く、トリスたちと合流したいものね。

 いつものようにタイミングよく間に合えばいいのだけれど……!



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